勇者に転生したが、魔王がヤンデレ(元)彼女だった件

青空あかな

第1話:ヤンデレ(元)彼女に刺されて、異世界転生した

「執子、本当にごめん。別れよう。君の気持ちには、応えられない」


「え? どうして!? どういうこと!?」


僕は月並平人つきなみへいと。何の特徴もない、平凡な高校2年生だ。だけど、パッとしない僕にも彼女がいた。同学年の女子だ。


(いや、正確には今別れたから、元彼女か)


女の子の名前は、重井執子おもいしゅうこさん。その名の通り、とてつもなく愛が重い。俗に言う、ヤンデレだった。


【ヤンデレには手を出すな】


一般的に、よく知られている格言だ。しかし、恋愛経験のなかった僕は彼女に告白され、あっさりと奈落の底へ落ちてしまった。


「平人! 私の何がいけなかったの!? 悪いところ全部言って!? 絶対直すから! 別れないでよ!」


「君の愛が、僕には重すぎるんだ」


女子を見るだけで、非難の嵐。定期連絡(10分毎にメール)が途絶えると、フルボッコ。毎日送られてくる、大量のラブレター。僕はもう、限界だった。


「うっうっ! ひどい! 私はこんなに平人のことが好きなのに!?」


「……」


以前にも、同じ理由で別れ話をしたことがある。そういう話になると、執子はすぐ泣きはじめた。今までは負い目を感じて、なあなあになってしまった。だが、今日こそは絶対に別れるつもりだ。


「うっうっ!」


「いくら泣いてもダメだよ。僕はもう、君とは付き合えないんだ」


僕はあえて、冷たく言った。執子には悪いけど、これくらいしないと伝わらないだろう。幻滅されるくらいが、ちょうどいい。


「……そうなんだ」


執子は泣き叫ぶかと思ったけど、やけにあっさりと了承してくれた。


(良かった、わかってくれたんだ)


スラリ。


「え?」


執子は……包丁を取り出した。僕はどっと、冷や汗をかく。


「しゅ、執子!?」


「ぐすっ……私だって、こんなことしたくないんだよ!? でも、平人を他の子にとられるくらいなら、あなたを殺して私も死ぬ!」


僕は人気の無いところに彼女を呼んだので、周りには誰もいない。執子はジリジリと近づいてくる。覚悟を決めた目をしていた。


「ちょ、ちょっと待って!? 考え直してよ!?」


「天国でいつまでも一緒に暮らそうね?」


グサッ!


「ぐわああああああ!」


包丁が、僕のお腹に突き刺さる。


ドサッ!


そのまま、廊下に倒れこんだ。


「い……てえ……いてえよ」


僕は徐々に、意識が朦朧としていく。お腹から血が、ドクドクと流れていた。だけど、不思議なことに痛みが消えていく。


(なんだか、眠くなってきた)


「えい!」


グサッ!


意識が消える直前。執子が彼女の腹を刺したのを見た。


(しゅ……うこ)


そして、僕は死んだ。





「うっ……ここは……どこだ?」


気がつくと、僕はとても明るくて白い空間にいた。


「も、もしかして……天国!?」


殺されるときに、執子が言っていたことを思い出す。


(天国でいつまでも一緒に暮らそうね?)


僕は慌てて周りを見た。人っ子一人いない。


(ふぅ、良かった)


カツン……カツン……カツン……。


と思ったら、誰かが歩いてくる音が聞こえた。


(ヤバイヤバイヤバイ! 執子のヤツ、本当に天国まで追いかけてきたんだ!)


僕は一目散に逃げだす。


(また殺されてたまるか!)


〔お待ちなさい!〕


女の人の声がした。執子の声ではない。


「え?」


そこには……とてもキレイな人がいた。神様みたいな格好をしている。


〔私はこの世界の女神です〕


「女神様?」


〔あなたは現世で死に、この世界に転生したのです〕


「すみません、言ってる意味が……」


〔異世界転生という言葉を、聞いたことがありますか?〕


「あぁ~」


聞いたことがある。死ぬと異世界に転生することがあるらしい。


〔あなたは、選ばれた勇者なのです。凶悪な魔王を、退治してください〕


「う、嬉しいです!」


〔もちろん、女神の加護のスキルを差し上げます〕


(こ、これも聞いていたとおりだ!)


異世界転生すると、とても強い力をゲットできるらしい。


フイイイイイイン!


僕の体が、うっすらと光り出した。


「おおぉ! 力がみなぎってくる感じがします!」


〔加護によって、あなたは最強の力を手に入れました。全ての能力値が、無限です〕


「む、無限!?」


〔あらゆる敵を一撃で倒し、どんな攻撃も、あなたに傷を負わせることはできないでしょう〕


「す、すごいや!」


冴えない人生を送ってきた僕は、今ここに決意した。


(この世界で、最高の人生を送ってやるんだ!)

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