第35話 もしかして?

「ドクター・ディキンズ!」


誰かが僕の名を呼ぶ様な声がする。


立ち止まって耳をすませた。


辺りをキョロキョロとしたけど、

人混みでよく分からない。


“気のせいか?“


気を取り直すと、また歩き始めた。


「ドクター・ディキンズ!」


今度は、はっきりと聞こえた。


声のした方を向いて突然の再会に笑顔が溢れそうになって

その後直ぐにカブちゃんのセリフが思い出された。


”サミュエル、思いもしなかった人物が日本で君に接触したならば、

その時は気を付けたまえ”


それが正しく今だった。


僕は急に金縛りにあった様になり、

再会を喜する声も出なかった。


”何故スティーブがここに……?!


アメリカの研究所は?!


今研究所を離れられるわけ無いでしょう?!


本当に辞めて僕の後を追ってきたの?!


それに何故僕の住んでるところを知ってるの?!“


スティーブが僕に声を掛けてきたのはちょうどマンションを出て

駅へ向かう直ぐのところだった。


僕の住んでいるところをピンポイントで知らなければ、

偶然に会える様なところでは無い。


研究所の人は愚か、

友達にだって言って無い。


彼は僕と目が合うと、

手をブンブン振りながらピョンピョン跳んで僕のところへやってきた。


”もしかしてスティーブがカブちゃんの言っていた……


スパイ……?“


そう思うと、アメリカの研究所ではあんなに仲の良かったスティーブが、

急に知らない人の様に思えて怖かった。


「ドクターディキンズ!


どうしたんですか?! 


顔色悪いですよ?


ちゃんと眠れてますか?!


もしかして、ここでも馬車馬の様に働かされて……」


相変わらずの人懐っこい笑顔で僕の頬を触ってきた。


僕は金縛りにあった様に立ち尽くし、

スティーブにされるがままに頬を撫で回された。


僕が余りにも突拍子のない様な顔をしていたのか、

スティーブは戸惑った様な顔をすると、


「ドクター?


僕ですよ?


研究所であなたのアシスタントだったスティーブですよ?


まさか、覚えてないなんて言わないですよね?」


そう言って僕に肩に手をポンと置いた。


僕はハッとして一歩下がると、


「あ…… ス……スティーブ……


も……もちろん覚えてるよ」


そう答えると、彼はとびきりの笑顔になって、


「フ〜


忘れられたかと思いましたよ〜!


100年に一度の大天才と言われるドクターに限って

そんな事は無いと思ってましたけどね!」


そう言って喜ぶスティーブに愛想笑いをして、


「ハ……ハハ……


あ……あい……相変わらず……大袈裟だね……


スティーブは……げ……元気だった?


ほ……本当に……ひ……久しぶりだね……?


に……日本へは……な……何をしに……?」


そう尋ねるのがやっとだった。



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