第51話怨霊編その4

 特に目的地もなく歩き続けて数分が経った。なにやら人だかりが出来ていることに気づいた。


「ん? なんかイベントでもやってんのか?」


 俺と富士見は人だかりの方へと近づいていく。そこに、謎の光景があった。

 地面がひび割れていた。まるで、巨大な何かが落ちてきてひび割れてしまったかのように見えた。それと同時に俺はこうも思った。


「霊障……?」


 以前、地縛霊が霊障を引き起こして道路を壊したことがあった。どことなくそれに似たものを感じたのだ。


「物騒ね。これも幽霊のしわざなのかしらね」


「さあな。お前はどう思う?」


 俺はヘッドホンに話しかける。しかし返事がない。


「おい」


 俺はヘッドホンをペチリと軽く叩いてみた。


「いたっ。なんだアタシに話しかけてたのか」


「なにボーッとしてんだよ」


「まさかアタシに話しかける余裕があるとはね」


 ん?? どういう意味だ?


「まあ、あれは普通じゃないよな。アンタの考えてる通りで多分霊障でしょ」


 やはりそうか。だとすれば一体ここで何があったのだろうか?


「あれなんだったんだろうな」


「ねー、怖かったよ」


 すると、近くで何やら男女の話し声が聞こえた。おそらく、この現状の話題だろう。俺は直接聞いてみることにした。


「あの、すいません」


「え? なんですか?」


 話してた2人は俺と同い年か、年下だと思われる男女だった。手を繋いでいるし、雰囲気から察するに恋人同士だろう。


「ここで何があったか知ってるんですか? 知ってたら教えて欲しいんですけど」


「え、ああそのことっすか。さっきまで、ここにキリコがいたんすよ」


 キリコ。その名前には聞き覚えがあった。確か、最近有名になり始めたアイドルだ。アイドルと聞くとドラコをどうしても思い出してしまうが。


「うん。キリコちゃんねー、可愛かったよー」


 彼女と思われる女の子がそう言った。


「おいおい。何言ってんだ。お前の方が100倍可愛いよ」


「え、えへへー。もーからかわないでよー」


「……」


 なんだ、こいつら。目の前で急にイチャイチャしやがって。


「あなたたち。そんなことよりここで起きたことを話して欲しいんだけど。イチャつくのは帰ってからじっくりしなさい」


 みるに耐えなかったのか富士見が割と強く言った。2人はしょんぼりとした。


「はぁ、すんません。……えっと、それでさっきまでドラマの撮影やってたんですよ。そしたら急に地面がひび割れて! もーびっくりしたんすよ」


 なるほど。しかし唐突すぎて意味がわからない。単に地面が割れやすかったとは考えにくいし。


「急に?? なんの前触れもなく? 怪しい人とかいなかったの?」


 富士見は続けて質問した。


「そ、そうっす。ほんと急にです。別に変な人もいなかったっす」


「そう……」


 なぜか残念そうにする富士見。そんなに気になっていたのか。


「もう、いいっすか? この後デートなんすよ」


「何言ってんのー。もーデートしてるでしょー」


「へへ。そうだったな」


 そう言って2人は去っていった。


「お幸せに〜」


 ヘッドホンが全く気持ちのこもってない声で言った。


「……」


 富士見はなんだか黙り込んでいる。


「どうかしたのか?」


 俺の言葉にちょっと遅れて反応した。


「え? ああ。なんでもない」


「そうか……ならいいんだけど」


「そ、それより私、お花を摘みに行きたいんだけど」


 お花を摘みにって、そんなセリフ使うやつ初めて見たぞ。


「お、おう。いってらっしゃい」


 富士見は少し離れた公園まで歩いていった。俺はとりあえず喉を潤そう。そう思い自販機を探す。


「アンタたまには違うの飲めよ」


「なっ、まだ俺は何もいってないぞ」


「言わなくてもわかるんだよ。アンタがキョロキョロしだしたら自販機を探してるってな」


「くっ……バレてしまっては仕方がないな」


 と言い、俺はコンビニへと向かう。


「バカな! アンタが自販機を諦めてコンビニだとっ!?」


「いや、何をそんなに驚いてるのか」


 俺はコンビニでいつものを購入する。


「って結局それかよ」


 呆れたと言わんばかりのため息をつくヘッドホン。


「これこそが俺の神聖なる……」


「そこの君、ちょっといいかしら?」


 と、唐突に声をかけられた。今の、聞かれてしまっただろうか?


「へ? は、はい」


 そこには2人組の男女がいた。といっても先ほどのカップルとは全く違う。年齢も20代後半……ぐらいだろうか。

 そして明らかに違う点があった。男性は大きいカメラを持っていて、女性はマイクを持っていた。つまり。


「突然ごめんなさいね。私たち、今取材をしてるんだけど。少し協力してもらえるかな?」


 レポーターとカメラマンだった。


「ま、まじかよ」


 なぜ急にこんなことになる!? そもそもどうしてこんなところに取材を。


「私たち今アンケートを取っていてね。10代の若者をターゲットにね」


 つまり俺、というわけか。


「それでね……ええと」


「なんのアンケートか伝えないと」


 カメラマンが小さな声でボソッと言う。こちらにも聞こえているのだが。


「そ、そうね。ナイスアシスト」


 いや、全然大したことないだろ。


「ゴホン。……そうね、まずはアンケート内容を伝えないとね」


 なぜかドヤ顔で言うレポーター。


「ズバリ! 恋人についてどう思うか!」


 な、なんですと!?


「今からいくつか質問をするので、それに答えて欲しいです!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! お、俺に彼女はいませんよ!」


「え? そ、そんなはずは……」


 なぜかあたふたしだした。それを見てカメラマンが。


「まさかあれは彼女ではなかったと? うむ……しかしあれの雰囲気、どうみても彼女のはず」


「ちょ、ちょっと!」


 なんでそんなこと知ってるんだ。


「あ、申し訳ない。さっき騒ぎがあったと思うんだが、その時にたまたま君を見かけてしまってね。アンケートに協力してもらおうと思ったんだが……」


 彼女ではないのか、と不思議そうな表情をするカメラマン。


「どうかしたの? 魁斗くん」


 と、とんでもないタイミングで戻ってきてしまった富士見。


「あら彼女さん! あなたにもアンケートに協力して欲しいんだけど!」


 レポーターはまだ勘違いしているようだ。


「……なるほどね。状況は把握したわ。いいでしょう。そのアンケート。答えさせてもらいます」


「っておい!」


 思わずつっこんでしまったがもう富士見は止まらない。


「それじゃあ1つ目! 彼氏のことカッコいいと思うか。または彼女のこと可愛いと思っているか。YESかNOで!」


「カッコいい? ありえないわね。私の彼氏が仮にカッコいいのだとしたらミジンコは超カッコいいってことになるわね」


「……」


 なんて言われようだ。2人とも呆然としてしまっているじゃないか。俺はミジンコ以下なのだ。


「か、彼氏君はどうかな?」


 若干引き気味で俺に聞いてきた。俺も被害者だというのに。こうなりゃヤケクソだ。


「可愛い? ありえないな。俺の彼女が可愛いのだとしたらアメーバは超可愛いってことになるな」


「……」


 へっ。どんなもんだ。そう思い俺は富士見に対してしてやったり、と顔を伺う。すると、富士見は俯いたままだ。


「ん?」


 その時、体が小刻みに揺れているのがわかる。


「ちょ、ちょっと……」


 もしかして、泣いてるのか……?


「お、おい! 何も泣くことないだろ!」


 富士見は泣き止む様子がない。少し言い過ぎてしまったか?


「ね、ねえ。どうすんのよ。私たちのせいで1つのカップルを別れさせるハメになったかもしれないなんて」


「そ、そうですね。これ以上は危険です。撤収しましょう」


 っておい! なに逃げてんだあの2人!


「……」


 すると、富士見の動きが止まった。


「ん?」


 突然静かになり、泣き止んだのかと思いきや。


「……っ!」


 突然、顔を両手でガシッと掴まれた。そしてそのまま富士見は顔を近づけてくる。目と鼻の先に富士見の顔がある。なんだ、どうした急に!


「ねえ、これを見てもまだアメーバの方が可愛いと思う?」


 顔が、近い。ちょっとでも動けば口と口が当たってしまいそうだ。


「あ、アメーバより……可愛いと思います……」


 そう言うと富士見は両手を顔から離した。顔が離れていく。ホッともしたがなぜか残念にも感じた。


「はぁ、それに私泣いてないわよ」


「え? でもさっきあんなに小刻みに震えてたじゃないか」


「あれは怒りで我を失いそうになってたのを抑えてたのよ」


 なんじゃそりゃ。しかし富士見ならありえなくはないな。


「そうだったか。しっかしなんだか今日は本当に変なことばっかだな」


「そうね。本当に、変なことばっかり」


 そう言った富士見はどこか遠くを見ているように見えた。

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