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↑↓


「おっと。これ、制御難しいねぇー」


……なにが、起きた?

いや、解ってる筈だ。

自分が一番。

まだ、辺りには煙が立ち込めてる。

地面のアスファルトはえげつないレベルで一直線にえぐれてて。

未だ、衝撃波で空気が陽炎のように歪んでいる。


今のは──【月兎】だ。


コイツ、月兎を使いやがった。

前から使えたのか?

それとも、ただのセンスか?

月兎は、原理こそ単純ではあるが再現するのは容易じゃ無い。

だがお袋の孫なら簡単に……いや、問題はそこじゃない。


問題は、代わりに俺が『月兎を使えなくなった』と言う事だ。


理解が追い付かない。


「……お前、今のは」

「んー? なんか真似したら出来た」

出来た、じゃねーよ。

「……テメーはこの駐車場の惨状、どう見るんだ。(自称)普通の一般人にゃこんな芸当無理だろ」

「えー? みんなこんくらい普通に出来るでしょー。桃源楼のみんなもしてたしー。外の一般人がこんな暴れ方するのは見た事ないけど、みんな普段は力をセーブしてんだねー」


……ここまで来るとコイツ、全部解っててワザとすっとぼけてんじゃねーかと思えて来る。

コイツが外で暴れたらどうすんだ?

何秒で街が消える?

こんな自制も出来ねぇ血の気の多いバケモンを『誰が止め』……ッ!


その為の【金魚の糞(薄縁)】か!


同時に、気付く。

周りが、積極的にコイツに『現実』を教えない理由。

簡単な話だ。

その有り余る力で『本気で何か』されたら、誰も止められなくなるから。


「てか、結界の一部に人一人が通れるくらいの穴空いちゃったけど、大丈夫?」

「は? ──ゲッ」


マジじゃねぇか!

コイツの月兎、結界をガラスみたいに割りやがった!

てか結界て壊せんのか!?

い、いや、落ち着け……落ち着ける状況じゃねぇが、結界破壊はまずい。

まず、一般人への認識のズレが崩れる。

今の月兎の轟音だって外に漏れたかもしれねぇし、原則、こういった『異常』は外にバレるべきじゃねぇ。

このボロボロになった駐車場と大破した車達……すぐに表沙汰になり、警察も来る。

結界の補修も再設置もすぐになんて出来ねぇ。

つまりはだ。

補償云々は後にするとして──


「ズラかるぞ!」

「なんでー?」

「なんでって…… チッ! お前が納得しそうな理由挙げんなら『決闘罪』で捕まんぞ!」

「ふーん。でも、ここで君が『逃げれば』もう『会えない』と思うけど?」


逃げるだぁ? ……いや、もうそんな分かりやすい煽りは慣れ過ぎてどうでもいい。

しかし、会えなくなる、ってのは強ちあり得る話だ。

お袋が、またコイツへのコンタクトを許してくれるか? という疑念。

恐らく、いや確実に、もうその機会は失われるだろう。

『ハッキリ』させない限り。

『決着』をつけない限り。

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