36
「僕が『君を使う時』のシミュレーションに決まってんだろ」
野郎……息を吐くようにヒトを舐めくさりやがって。
怒る気も失せて来た──そう思っていたが。
「それは要らぬ皮算用だ。俺がオメェに従う事なんざ今後もねぇよ。逆なら考えてやるがな」
「フラグたててくねぇ。でもさっきから君、この鬼ごっこに全然勝ててないぢゃないか。この結界くんの方がまだ僕を閉じ込めてる分優秀だぜ? このまま捕まえられなきゃ僕の勝ちってルールだろ?」
「んなゲーム始めた覚えはねぇし、こちとらまだ本気出しちゃいねぇ」
「それと君、何で『足技』使わないの? そっちのが得意でしょ?」
「……何でそう思った」
「その足のしなやかな筋肉的に」
「……なら、それは俺の慈悲だ。蹴り技なんざ使ったら、いよいよお坊ちゃんを怪我さしちまうからな」
「優しいねぇ。てかそも、なんでそんなに僕と遊びたいの? 暇なの?」
何を今更……しかし本気で解ってなさそうだ。
「少しは考えろや。テメェはそんなんでも、桃源楼の次を背負ってく存在って肩書き、だってのに、今まで何か成し遂げたか? お袋の後を追えるのか? 下の若い奴らに示しがつくか?」
「ふむふむ」
溢れ出てくる愚痴の嵐。
今までの鬱憤をぶつける良い機会とばかりに俺は罵倒し続けた。
知朱はそれに逆ギレするでもなく、ただ、黙ってコクコク頷いて……。
「あいわかった。君や若い世代の子達の気持ちはよーく解ったよ」
「だったら、今後振る舞いを改めて──」
「君らがどれだけ『おばぁが好きか』ね」
「……あん?」
何を言って。
「おばぁへの忠義がよーく解った。心酔してるというか、神格化してるというか。君らは『おばぁを喜ばせたい』という思いで仕事を頑張ってるんだね」
……。
「特に、若い子達の頭である君が、おばぁへの愛が一番だと思うよ。『お袋』、なんてお母さんみたいに呼んでるんだから」
……。
「なんてーか。子供みたいでかわい(笑)」
フフッと、はにかむ知朱。
その顔は、まるで……
ブチリ──
俺の中で何かが切れる。
ゴッ! と鈍い感触。
気付けば、俺は『技』を使っていた。
地面を吹き飛ばす勢いで蹴って駆け、一瞬で相手の懐に入り、ただ強く蹴り飛ばす技ーー『月兎(げっと)』。
俺の一族、因幡家に伝わる奥義。
因幡は、この蹴り一つで絡新のお袋と渡り合って来た歴史がある。
『遠距離型』は、練った妖力を足先に貯めて蹴り放つ技。
放たれた蹴りの圧と妖力が混ざり合い、生まれたデタラメな奔流をその軌道上に立つ者らが浴びると、内部から妖力が暴走し、爆発する。
『直撃型』は更に悲惨だ。
その奔流の渦全てを、直接体内にぶち込まれるのだから。
因みに、月にある無数のクレーター……世間では、隕石落下の後となっているが、アレは全て、因幡の先祖が月兎で抉った穴だという。
ドゴンッ!!!
その音で、俺はハッとする。
結界の壁に、蹴り飛ばした知朱が衝突する音。
……やっちまった。
ぞっと、背中が冷たく粟立つ感覚。
仰向けに倒れている知朱。
動く気配は無い。
……やっちまった。
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