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↑↓
「コラ! 途中で休むな!」
「ひーん……」
羽衣姿で地面にへたり込み泣きべそをかく舞子(まいこ)ちゃんに鞭打つ僕。
「ダメっすー、舞子にはやっぱり無理っすよー、重荷っすー……」
「ええいっ、君が祭りの日に踊らなきゃ『世界が滅ぶ』んだろっ。いいのかそれでもっ」
「こんな世界滅べばいいっす!」
--さて、祭りまで一週間を切った。
僕が今何をしているかというと……この通り、踊り子への踊りの指導だ。
祭りで重要な神楽の舞。
それを当日、この子に舞って貰うのだが……。
「無理っすよぉ。『百年に一度踊らなきゃ町の下に眠る邪竜が目を覚まして世界を滅ぼす』とか言われてもー」
「誰に説明してんだ」
しかしまぁ説明が省けたのでグッド。
こうなった経緯は、数日前の事だ。
『うーん、やっぱりここはイイねー。カチカチな子だったりフワフワな子だったりヌメヌメな子だったり、どのおっきな虫ちゃんの上だろうとゴロゴロするのはサイコーだぁ(今はハナマルキバチの上)』
『……知朱よ。貴様、この頃暇さえあればここに来て虫達で遊んでおるな』
『ん? やぁ毘沙ちゃん。学校はいいのかい?』
『元より通っとらんわ。それより貴様、最近山の麓の方でコソコソと何かしておらんか?』
『気にしないでいいよー(ゴロゴロ)あ、そーいえば、毘沙ちゃん。神社のお祭りでやる事の定番ってなにがあるー?』
『なんじゃ藪から棒に。そりゃあお前、神楽じゃろう』
『神楽かー。見てて面白いかなー。よっぽどのかわい子ちゃんがエッチな格好でやらないと注目されないでしょー』
『貴様……神楽をなんだと……、……神楽といえば、そろそろ百年目、か』
『んー(ヌメヌメ)バナナナメクジもいいよねぇー。ふた◯りっていう面白体質(自然界には多い方)で同種が出会うとお◯ん◯んフェンシング始めて負けた方が孕まされたりとか個性的でさー』
『……聞いとるか?』
『えー? 何の話ー?』
と、いう感じに教えて貰った神楽の存在。
詳しく話を聞くと、この神社では百年に一度、踊り子を呼んで伝統的な舞を舞って貰う習わしがあって。
その理由というのが、先程触れた『町に封印されし魔物』。
ソレを鎮める為の神楽。
--正直、魔物云々は夢こそあれ信じるわけもないが、祭りのエッセンスとしては十分な要素。
早速、僕はその踊り子さんの家を毘沙ちゃんに聞いて、接触。
十代目だという踊り子、舞子ちゃんを引っ張って来たのだが……。
「もう! いっそ知朱さんが踊ればいいっす 完璧に踊れるんだから!」
舞子ちゃんの言うように、僕は件の神楽踊れる。
元々、その神楽の名を聞いてもピンと来てなかった僕だったが、彼女にさわりの部分を舞って貰うと、ん? と思う部分があって。
それは、昔、おばぁが一度だけ踊っていたのと同じソレで。
『こんな感じだっけ?』
一度見た物なら真似出来る僕が舞子ちゃんの前で舞うと、『なぜ一子相伝なのに知ってるっす!?』と驚かれた。
そんな流れがあって、僕は覚えの悪い彼女に何故か指導をする事になって……
しかし、冒頭の通り、難航中。
「僕が踊っても意味ねーんだるぉ!? おめー長年指導されて来ただろうになんでこんなポンコツなんだよっ」
「ギャー! 『尻尾』は引っ張らないでくれっすー!」
尻尾。
フワフワとした『猫の尾』だ。
それどころか舞子ちゃんにはピクピクと揺れる『猫耳』までついていた。
彼女は自分を『猫の妖』などと供述している。
最近のコスプレは出来がいいな……この尻尾どうやって固定して動かしてんだろ?
「舞子は才能なんて無いッス! 家に引きこもってゲームしてたいッスー!」
「この穀潰しめ! 親御さんからはビシバシやっていいって許可貰ってるからな! (パッ)」
「ワッ! 急に尻尾離しーーぐへぇ!」
前にすっ転ぶ舞子ちゃん。
「イテテ……ギャー! 膝から血がー!」
「擦り傷で騒ぎすぎよ、全く。ほら、暴れない暴れない」
僕は懐から塗り薬を取り出し、患部に塗り塗り。
「しみるっすー! ……、……あ、アレ? 痛みが消えた?」
「ふふ。我が家特製のよく効く軟膏ですわよ」
「慈悲深い顔で言ってて誤魔化されそうになったッスけど考えたらマッチポンプッス!」
すぐに傷痕は無くなって。
「へっ! 動けるならコッチのもんッスー!」
「あっ、てめぇ!」
立ち上がり、全力で逃げだす舞子ちゃん。
「全く……逃げるのこれで何度目だい」
やれやれと僕も立ち上がった。
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