5 (R15?)

そうして車は、僕のアパート前に到着。


僕と膝丸だけが降りて、


「折角こうして会えたのですから、一緒に食事でも、と思ってましたのに」

「可愛い幼馴染が家でご飯作って待ってんだからそっち優先するに決まってるでしょ」

「残念ですわねぇ。──では、必要な物が有れば言って下さいませ。絡新が出来る限りサポート致しますので」

「あーい」

「膝丸も。知朱ちゃんの事は任せましたわよ」

「……! (コクッコクッ)」

「では、お気を付けて」

車の窓は閉まり、軽快に走り去って行った。


「……、……さて、部屋に帰ろっか、って居ねぇ!」


あのデカグモめ!

仕事終わったらいっつも黙ってさっさと帰りやがる!


「全く。代わりにもう一人の幼馴染を可愛がる為にさっさと帰るか」


アパートの階段をトントン軽快に鳴らして登り、部屋の前に。

呼び出し鈴をピンポーン。

……

……

……ん?

ご主人様が帰って来たのに扉が開かないぞ?

ピポピポピポーン!!!

……

……連打したのに出てこない。

さては居眠りしてるな?

出迎えなかった罰として寝起きドッキリ(パンツ脱がし)してやるからなぁ?

僕はポケットから家の鍵を取り出し カチャリ 鍵を開ける。

ノブを回し、ドアを引いて── ガチャン!

うん?

何か引っ掛かって……ジャラリ……こ、これはっ、ドアチェーン!?

……ま、まぁ防犯対策もバッチリで出来た嫁って事だなっ。

しかし、これは困った、どうやって入ろう?

スマホ鳴らせば起きるかしらん?


「(ジャラジャラ)それか、どうにかこのチェーン、手伸ばせば外せたり──」


ストンッ

「ん?」



ドアの内側に何か刺さって……【フライ返し】?

ギシ、ギシ、ギシ 足音が近付いてくる。

顔は見えないけどこの匂い……薄縁っ。


「なんだ、起きてたの? はよ開けてーや」

「猛省しなさいっ!」

「(カンッ)ぐへ! フライ返しは人の頭叩くもんじゃないよ!」

「知ってるわよ! アンタは人でなしだからいいの!」


カンッカンッカンッ!

良い音が玄関内に響き渡る。


「よく分からないけど説教なら中で聞くからさっさと開けて。このままだとチェーンぶっ壊して入るよ?」

「既に一切反省する気がなさそうね……はぁ」


諦めたようにガチャリとチェーンを外す薄縁。


「入る前に、何か言うことは?」

「ただいま?」

「……はぁ」


『愛してる』とか『ハニー』とか付ければ良かったのかしらん?

女の子のデリケートな心はよう解らん。


玄関からせっまいキッチンを通り、リビングという名のせっまい六畳居間へ足を踏み入れた瞬間、ゴロンと横になる。


「んー? 風感じると思ったら『ベランダ開いてる』じゃん」

「……換気してたのよ」

「あっそー。それはそれとして、つっかれたー」

「アンタは大して苦労してないでしょ」


まるで『見てた』ように呆れ顔を向ける薄縁。


「なにをー、聞いて驚けー。僕の華麗な交渉術によって凄い仕事が手に入ったんだぞー。それをこなせば僕ぁ一気に絡新のトップだいっ」

「……知ってるわよ」

「なに? 膝丸にでも聞いたの?」

「似たようなもんよ……はぁ」

「疲れた顔してるね。頭痛?」

「誰かさんのせいでねっ」

ゴスッ! 頭を踏まれた。

「なんでっ、アンタはっ、デカい口ばっか叩くのよっ(ゴスッゴスッゴスッ!)」

「んぁ? なんで怒ってんの? 僕が絡新の上に立つのは決められた道筋でしょうや」

「時期を考えなさいよっ! 誰が今の実績も無いアンタについてくるってのよ!」

「そこはほらー。溢れるカリスマでさー」

「……はぁ。アンタはまだガキだから古い連中に可愛がられてるだけよ。仁義を無視するような舐めたマネしたらこの世界じゃ敵味方問わず潰しに来るって、解らないわけじゃないでしょ」


今度は僕は呆れてため息を漏らす。


「なーにビビってんだか。いつから絡新は仲良しクラブになったんだい?」

「アンタねぇ……」

「ついて来たい奴だけついて来ればいいんだよ。おばぁだってずっとその方針でやって来たんだ。逆に、おばぁ信者の老害を排除するいい機会だ。そもそも、絡新のトップに立つのはただの『通過点』だよ」

「通過点……?」

「地位を利用するだけさせて貰うさ。『僕の夢』の為に」

「……私も知らないアンタの夢って何よ」

「それは秘密だよ。ま、いずれ教えるさ。僕が全てを敵に回してもどうなっても、ずっと『ついて来てくれる』んだろ? ベリーは」

「……調子に乗んな」


グニュ。

ホッペを踏まれた。


その後、


「おー、天ざるとお寿司っ。大好きな春菊の天ぷらまでっ。今日なんだか豪勢だねっ」

「……明日からの仕事で気合入れて貰う為だから。食ったからには真面目にやりなさいよ。ヘマしたら私までカアラ様に失望されるし」

「ヘマ程度でびびんなよー。僕なら失敗すら成功したとゴリ押すぜ」

「今までそれでカアラ様騙せた事ないでしょアンタ」


夕食も食べ終えた後は──


カポーン


「……ふぅ。この音聞かないと一日は閉まらないね」

「その音聞く為にいちいちお風呂に木桶持ち込んで叩くのやめなさいよ」


未だ本来の使い方をした事が無い木桶を浴槽の側に置き置き。


「しっかし狭いねー。バランス釜だから仕方ないけど」

「二人で入ってるからでしょ」

「お前の乳がデカいからや」

「これと狭さとの因果関係は無いわよ」


しっかし、少し前までアレだけちんまりしてたおっぱいも急に実ったなぁ。

ポニテを解いた長髪姿も随分と大人っぽく見えるように。

成長期だから更にたわわるのかしらん。


「ジロジロ見過ぎ」

「これ以上デカくなると固定資産税かかりそうだな」

「徴収に来た奴ぶっ飛ばすから問題ないわ」

「てかそもそも、一人ずつで風呂に入れば解決ぢゃん」


向かい合わせになれないくらい狭いので、僕の脚の間に重なる様に座る薄縁。


「ガス代が勿体ないわ」

「微々たるもんでしょー。やっぱり、もっと広いとこに引っ越そーぜ。何となくレトロって感覚でここを選んだのはいいけど、二人暮らしにゃあ狭いわ」

「お金が勿体ないわ」

「ヤーさんの坊ちゃんの貯蓄舐めんなよ」

「それは来たるべき時まで貯めときなさい」


むぅ……意地っ張りめ。


「張るのは乳だけにしとけ」

「直前に何考えてたか丸分かりね」


夜はふけていく──

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