第33話 海が恋しいです
元王妃とモリージョ公爵の断罪から、1ヶ月が経った。2人の刑も執行され、彼らに協力した使用人や貴族たちの処分も終わった。ノア様の本当のお母様も王妃として戻って来てくれ、再び王宮は平和な日々を取り戻した。
そしてなぜか私は、ノア様たっての希望でエディソン公爵(爵位が上がった)家から出され、王宮で生活している。まあ、王宮の方がご飯は美味しいしお父様の小言は聞かなくてもいいし、ノア様と一緒にいられるからいいのだけれどね。
でも…
「ステファニー様、次は外国語のレッスンでございます。その後はマナーの復習を行いますよ。王妃様もマナーレッスンは一緒にご参加ください」
という具合に、セアラのスパルタ王妃教育に、毎日クタクタなのだ。こんな時は海に泳ぎに行きたいのだが
「ステファニー様、どこにいかれるのですか?殿下がいらっしゃらない時は、王宮を出てはいけない決まりになっているはずですよ」
そう言って、護衛騎士に止められるのだ。ノア様ったら、自分と一緒の時以外は、王宮から私を出してくれないのだ。きっと私1人海に行く事を、ズルいとでも思っているのだろう。
こうなったら、意地でも海に行ってやるんだから。
「エリー、ここしばらく、ずっと海に行けていないのよ。可哀そうと思わない?」
私の専属メイドでもあるエリーも、王宮にも一緒に付いて来てくれている。そんなエリーに協力を得る事にしたのだ。
「そうですねぇ、お嬢様にとって、海は体の一部みたいなものですからね」
「そうでしょう!それじゃあ、今すぐ海に行きましょう」
エリーを連れ、早速部屋の外に出ると
「ステファニー様、どこに行かれるのですか?」
私の後を付いて来る護衛騎士たち。
「ちょっと海に行くの。止めても無駄よ。私は海で泳ぎたいの。エリー、急ぐわよ」
「お待ちください、ステファニー様」
エリーと2人小走りで王宮の門を目指す。そして馬車に乗り込んだ。後ろから護衛騎士たちもしっかり付いて来ている。なんだ、強硬に出れば、意外とあっさり出掛けられるのね。
しばらく走ると、海が見えて来た。あぁ、恋焦がれた海が目の前にある。急いで馬車から降りた。
「少し泳いでくるから、あなた達はここで待っていて」
「あっ、ステファニー様」
後ろで護衛騎士たちの声が聞こえるが、無視して海へと飛び込んだ。久しぶりの海。あぁ、やっぱり落ち着くわ。随分奇麗になった海は、かつての様に海の生き物が沢山いる。
“ステファニー、久しぶりね”
“やっと海にやって来たわね。ステファニー”
「キキ、リンリン。久しぶりね。まだ王都の海にいたのね」
“ええ、すっかり王都の海に住む子たちとも仲良くなったし、何よりステファニーやノアにも会いたいしね。しばらくこっちで暮らす事にしたのよ。それで、ノアは?”
「ノア様は忙しいから、今日は1人で来たの。それにしても、やっぱり海はいいわね。落ち着くわ。せっかくだから、王都の海も探検しないとね」
久しぶりの海、ここはしっかり泳がないと。そんな気持ちから、つい時間を忘れて泳ぎ続ける。キキやリンリン達と海底近くまで行ったり、他の海の動物とお話したりして過ごす。
途中、エリーの
「お嬢様、そろそろ上がって下さい」
という声が聞こえたが、スルーしておいた。
“ねえステファニー、そろそろ日が沈むわよ。帰らなくていいの?”
「まあ、もうそんな時間なのね。大変、戻らないと。それじゃあキキ、リンリン。また今度ね」
“ええ、次はノアも連れて来てね”
皆と別れ、急いで岸に上がる。そこで待っていたのは…
「ステファニー、随分長い時間、海を楽しんでいた様だね」
にっこり微笑んでいるノア様。でも、目が笑っていない…
「あらノア様、どうしてここに?」
「どうしてここにじゃないだろう。勝手に王宮から抜け出すなんて、一体どういうつもりだい?あれほど僕と一緒の時以外は、王宮を出てはいけないと言ったのに。どうして君は、僕のいう事が聞けないのかな。約束が守れないなら、これから部屋に鍵を付けるからね」
「鍵なんて嫌ですわ。そもそも、私は毎日海で泳いでいたのです。それなのに、王都に来てから全然泳げていなかったのですもの。少しぐらい海に行っても罰は当たらないはずですわ」
そうよ、そもそも私は海が大好きなのだ。その事は、ノア様だって分かっているはず。
「確かに君が海が大好きなのは知っている。それなのに、中々海に行かせてあげられなかった件については謝るよ。ごめんね。これからは、出来るだけ毎日海に行く時間を作る様にするよ」
そう言って謝ってくれたノア様。
「それは本当ですか。嬉しいです、ありがとうございます。ノア様」
これからは毎日海に行ける、そう思ったら嬉しくて、ついノア様に抱き着いた。でも…
「だからと言って、今回黙って海に言った事は無かった事には出来ないからね。全く君は!明日から1週間、部屋から出る事を禁止する。もちろん、1週間は海にも行かせないから。部屋にも鍵を掛けて護衛騎士の数も増やすからそのつもりで。いいかい、もし黙って部屋から出たら、罰の期間を延ばすからね」
そう言われてしまった。
「ノア様、1週間も部屋に閉じ込められたら、干からびてしまいますわ。どうかご慈悲を」
そう訴えたものの
「こんなにも僕に心配を掛けさせておいて、よく言うよ。とにかく1週間で勘弁してあげると言っているんだ。ほら、ステファニー、帰るよ。全く君は少し目を離すと、何をしでかすか分からないのだから」
そう言うと、私をがっちり抱きかかえたノア様。結局王宮に着いてからもノア様が降ろしてくれる事はなく、その日は寝るまでノア様にくっ付いて過ごす羽目になったのであった。
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