第31話 王宮に皆で戻りましょう

母と息子、感動の再会に私まで涙が込み上げて来た。ふとお父様の方を見ると


「ブッ」


つい吹き出してしまった。オクト顔負けの真っ赤な顔をして、鼻水まで垂らして泣いていたのだ。


「おいステファニー、こんな感動な場面で吹き出すなんて、お前は一体どんな神経をしているんだ!」


吹き出した私を見て、さらに顔を赤くして泣きながら怒るお父様。


「だってお父様の顔が…あまりにも酷くて、つい…」


再び笑いが込み上げて来る。


「確かにお前の顔、酷いぞ」


そう言って陛下も笑った。それにつられて、メーア様もノア様も笑っていた。せっかくの感動の再会も、お父様のせいで台無しになってしまったが、まあいいか。しばらく笑った後、ノア様が私の方にやって来た。


「ステファニー、母上に会わせてくれてありがとう。それにしても、どうして母上の居場所が分かったんだい?」


「それは、真実の鏡で当時の様子を見たからですわ。ノア様のお母様が、どんな思いで最期を遂げたのか。それに遺体が見つかっていないと言っていたので、もしかしてという思いもありましたし。そうしたら、ドレスを脱ぎ捨てて脱出するメーア様の姿が映っていましたので。それで鏡を使って、現在の居場所を突き止めたのです」


あの日から、ほぼ毎日この場所に通い、何度も何度もメーア様を説得した。正直、意外と頑固なメーア様を説得するのは大変だったが、昨日やっと陛下とノア様に会ってみると決心してくれたのだ。


「ステファニー嬢、本当にありがとう。君のお陰で、再びメーアと会う事が出来た。本当に夢みたいだ。メーア、やっぱり私の妻は君しかいない。どうか私と共に、この国を支えて行って欲しい」


メーア様をまっすぐ見つめ、自分の思いを伝えた陛下。


「陛下、それは出来ません。私はあなたとノアを捨てた人間です。ですから…」


「僕からもお願いします。僕はずっと母上の温もりを知らずに生きて来た。どうかこれからは、ずっと僕の側にいて欲しい。今まで離れ離れだった時間を、これからは取り戻したいんだ」


ノア様も必死にメーア様に訴える。


「私もメーア様には王宮に居て欲しいです。ほら、これから面倒な王妃教育も始まりますし。それに王妃様が不在だと、全て私に仕事が回って来そうなので」


「おいステファニー、メーア妃を何だと思っているんだ!本当に娘が申し訳ございません。私からもお願いします。陛下は本当にあなた様がいないと、何も出来ない人間なのです。どうか、陛下を支えてやってください」


私に文句を言いつつも、メーア様に頭を下げるお父様。


「おい、何も出来ない人間とは何だ。でも、あながち間違ってはいないかもな。メーア、頼む。戻って来てくれ」


必死に皆でメーア様にお願いした。さすがにここまで言われたら、メーア様も戻らないとは言えないだろう。案の定


「皆様、ありがとうございます。分かりました、王宮に戻らせて頂きますわ」


涙を流しながら了承してくれたメーア様。良かったわ、これで皆で王宮に戻れるのね。


早速馬車に乗り込もうとしたのだが、私が準備した馬車は4人乗り。


「お父様、申し訳ございませんが、新たな馬車が来るまでここで待っていてください」


「ステファニー、どうしてお前はもっと大きな馬車を準備しないんだ!」


ギャーギャー文句を言うお父様に対し


「そもそも、元々3人で来て、4人で帰るつもりだったのです。それなのに、図々しく付いてきたのはお父様でしょう?本当にもう少し周りの状況を考えて行動して欲しいものですわ。それでは皆様、参りましょう」


「コラ、待てステファニー」


お父様を気遣おうとするメーア様をさっさと馬車に押し込み、陛下とノア様、私も馬車に乗り込んだ。どうせすぐに迎えの馬車が来るのだから、あんなにギャーギャー騒がなくてもいいのに…


私たちが乗り込んだ事を確認すると、王宮に向かってゆっくりと馬車が進みだす。


「ステファニーちゃん、本当に伯爵を置いてきて良かったのかしら?まだ顔を真っ赤にして怒っているわよ」


確かに窓の外を覗くと、顔を真っ赤にしたお父様が怒っている姿が目に入った。


「気にしないで下さい。あの人は顔を真っ赤にして怒るのが趣味みたいなものなので。それよりもメーア様、いいえ、王妃様と呼んだ方がいいですわね。王妃様、今度一緒に海に行く約束、覚えていてくれていますか?」


実は何度も足を運ぶうちに、すっかり仲良くなった私達。今度一緒に海に入ろうと約束していたのだ。


「ええ、もちろんよ。ステファニーちゃんの力を使えば、私も海の生き物とお話が出来るのでしょう?楽しみだわ」


嬉しそうにそう言った王妃様。


「母上、ステファニーの力を使う為には、口付けをしなければいけません。ですから、母上はステファニーの力を受ける事は出来ませんよ」


「あら、女同士なのだから、少しくらい…」


「「ダメです(だ)」」


なぜか陛下とノア様の言葉が被った。


「メーア、君は私以外の人間と口付けをするつもりなのかい?たとえ相手がステファニー嬢でも、絶対にダメだ!」


「父上の言う通りです。そもそも、ステファニーの柔らかくて温かい唇は、僕専用なので」


ちょっと、どさくさに紛れて私の唇の特徴まで言わなくてもいいのよ!本当にノア様は。結局その後、陛下とノア様に絶対に口付けをしてはいけないと、王宮に着くまで言い聞かされた。


この親子、どうやら嫉妬深くて独占欲が強い所がそっくりの様だ。


何はともあれ、王妃様が戻って来てくれてよかったわ。

ホッと胸をなでおろすステファニーであった。

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