第17話 王都の海に異変が起きている様です

「コホン、お取込み中失礼いたします。殿下、頬の出血が酷いです。まずは治療を」


気まずそうに話しかけてきたのは、お医者様だ。そうだったわ、ノア様からのプロポーズが嬉しくて、すっかり忘れていた。恥ずかしくなって、ノア様から離れようとしたのだが…


「ステファニー、どこに行くんだい?もう僕は君を離すつもりはないよ」


使用人が準備した椅子に座り、さらに私を膝に抱いて治療を受けるノア様。ちょっとノア様、お医者様がめちゃくちゃ治療をしにくそうよ。それに使用人たちもニヤニヤしてこっちを見ているし!その時だった。


「痛っ…」


「ノア様、大丈夫ですか?」


顔をしかめたノア様。つい心配で声を掛けてしまった。


「大丈夫だよ。少し染みただけだから」


そう、それならよかった。お医者様の話しでは、出血が酷かったものの、傷はそこまで酷くないらしい。ただ、痕が残るかもしれないとの事。ダンめ、許すまじ!


「ノア様、怪我が治るまで海水に浸かるのは控えて下さい。万が一傷口に菌でも入ったら大変です。それに傷口も染みますから。いいですね!」


「分かっているよ。でも僕達の事、海の皆にも報告したいな。海に浸からないからいいだろう。ほら、今から行こう」


そう言うと、私の手を引き歩き出したノア様。服に血が付いたままなのだが、まあいいか。門のところに出たところで、ちょうど馬車に乗り込もうとしているダンが目に入った。


ダンったら、まだ居たのね…ノア様も同じ事を思ったのか、私を庇う様に立ち止まった。


「わざわざ見送りに来てくれたのか?そうそう、殿下。1ついい事を教えてあげましょう。あなたの唯一の味方でもある国王陛下は、今病に伏せられていますよ。もう起き上がれない程悪化していると聞いています」


何ですって、国王陛下が…


「それは本当なのか?父上が、病気と言うのは…」


「ええ、本当ですよ。陛下が亡くなれば、きっとあなたも今までの様に生きてはいられないでしょうね。ステファニー、俺を選ばなかった事を後悔するんだな。それじゃあ、俺はこれで」


涼しい顔で馬車に乗り込むダン。相変わらず嫌な奴ね!そうだわ、あんな嫌な男より、ノア様よ。


「ノア様、大丈夫ですか?」


「…ああ、大丈夫だ。それよりも、キキやリンリン達の元に向かおう」


「でも…」


「大丈夫だよ、父上はそう簡単に死んだりしない。ほら、早く行こう」


ノア様に手を引かれ、海まで向かう。きっとかなりショックを受けているだろう。とにかく、近いうちに一度王都に戻らないと!早速お父様に手紙を書かないとね。それにしてもお父様は、どうしてそんな大事な事を私に報告しないのかしら?そう言うところが抜けているのよね、あの人。


そうだわ、伯爵家の領地を取り仕切っている執事なら知っているはず。後で執事を捕まえて、詳しく聞かないとね。よし!


私が色々と考えている間に、海に着いた。


「ノア様、今皆を呼んできますね。少し待っていて下さい」


ノア様を残し、海に潜る。


「キキ、リンリン、オクト。私よ、ステファニーよ、出て来て!」


“ステファニー、ちょうどよかった。あなたに話したいことがあったのよ。あら?ノアは?”


「ノア様は怪我をしたから、岩場で待っているわ。ちょっと顔を出してくれる?」


“ノアが怪我ですって!分かったわ、早くノアの元に行きましょう”


一旦海から上がり、ノア様の隣に座った。そしてキキやリンリン、オクトたちも海面に顔を出す。


“ノア、怪我をしたのですって?て、まあ、顔を怪我したの?服も血だらけじゃない?大丈夫なの?”


心配そうにノア様を見つめるキキたち。


「ああ、ちょっと切っただけだから大丈夫だよ。それより聞いてくれ、ついに僕とステファニーが恋人同士になったんだ。いずれ結婚するつもりだ」


“まあ、おめでとう!良かったわね、ノア。ステファニーも、ついに運命の伯爵様が現れたのね。本当に良かったわ!そうすると、ステファニーとノアは王都に帰ってしまうのね。でも王都の海もそんなに遠くないし、遊びに行くわ”


「いいや、王都で生活するつもりはないよ。僕は国王にはならない。父上に頼んで、海のある小さな領地を貰って、そこで暮らすつもりだよ。そうなったら、君たちも来てくれるかい?」


“もちろんよ、必ず行くわ”


嬉しそうに頷くキキやリンリン、オクトたち。皆祝福してくれてよかったわ。さて、次はキキたちの話を聞かないとね。


「それで、キキたちも話があったのでしょう?どんな話なの?」


“そうそう、そうだったわ。実は今、王都の海が大変な事になっているの。海に汚水をたれ流したり、魚たちを乱獲したり。そのせいで海は汚れ、海の生き物たちが大量に命を落としているの。さっき命からがら逃げて来た子たちが言っていたわ”


「何ですって、王都の海が…」


“そうよ、逃げてきた子たちの話しでは、真っ黒な汚水が毎日大量に流れて来るのですって。さらに沖の方では、イルカやクジラ、サメたちも片っ端から捕まえられているそうなの。このままでは、王都の海には生き物がいなくなってしまうわ…それに、どうやらその事を知った海の神、ポセイドン様がかなりお怒りの様なの。このまま行くと、ポセイドン様の怒りを受け、王都はもちろん、この大陸自体海に沈められるかもしれないの”


「何ですって!そんな大変な事になっているの?とにかく一度王都に戻らないと!陛下の容体も気になるわ。キキ、色々教えてくれたありがとう、一度屋敷に戻るわね」


とにかく一旦屋敷に戻って、王都に戻る準備をしないと。それに執事にも話を聞かないといけないわ!

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