第36話 申し開きの場

謁見室には、陛下、ユキ様が王族席に座り、

裁かれる側にリリアン様、

リリアン様の父親であるランゲル公爵が正面に立っている。

私は被害者ということで王族席に近い場所に立ち、

ノエルさんが隣に付き添っている。


「それでは、これより申し開きの場を始める。

 リリアン、今回の件で何か申し開きはあるか?」


「陛下、それは私から話そう。」


「…公爵からか?それは責任は公爵がとるということで良いのか?」


初めて会うランゲル公爵は金髪碧眼で、陛下よりも少し年上だろうか。

この人も魔力欠乏症なんだなと思わず考えてしまった。

短命って、どのくらい短命なのだろうか…。

今のところ、ランゲル公爵の声は力強く、身体もがっしりしてて短命には見えない。


「責任と言っても、平民上がりの娘を街に連れて行っただけで、

 何もなく無事に帰って来たんだ。

 子どものいたずらで終わらせるべきだろう。」


「ルーラはフォンディ家の当主で、次期王宮薬師長だぞ。

 王宮薬師を許可なく王宮から連れ出す行為は重罪だと知っているだろう。」


「だが、その娘は実際に王宮薬師として勤めているわけではないし、

 陛下の遊び相手でしょう。

 陛下がちゃんと首輪つけておとなしくさせないから、こんな目にあうんだ。」


「何が言いたいんだ?」


「その娘がノエルを誘惑するのが悪いんだろう。

 公爵家の次期当主を惑わして塔に監禁するとは、

 その娘のほうがよっぽど重罪ではないか!」


「そうよ!お父様の言うとおりだわ!

 その平民上りが私のノエル兄様を誘惑したのが悪いのよ!

 ちょっと懲らしめようとしただけじゃない!何が悪いのよ!」


少しも悪いと思っていないのだろう。

親子そろって反省もせずに陛下に反論をし始めた。

公爵は陛下の従兄だということもあるのだろうが、

この態度は自分のほうが立場が上だとでも思っているのだろうか。不敬すぎる。


一方的にまくしたてる公爵に陛下は聞くだけになっている。

その会話を止めたのはユキ様だった。


「陛下、もう話してもいいな?

 王宮薬師長である私から結論を申す。

 今後、ランゲル公爵家には薬を処方しない。」


「なんだと!」


「今回、ルーラは他国にさらわれかけた。

 すんでのところでノエルが助けたが、危なかった。

 全部、許可なく連れ出したリリアンのせいだ。

 その責任も取らずに何が悪いだなどと述べるとは…。」


「ユキ様、王宮薬師の薬が無かったら、俺は!」


「その薬を作れるのは王宮薬師長だけで、

 次の王宮薬師長になれるのはルーラしかいないというのに。

 もしルーラがさらわれていたとしたら、お前は即座に処刑だった。」


「は?」


「もちろんリリアンも、手引きした者も、全員だ。」


陛下には強気に出られても、ユキ様にはそうではないらしい。

ユキ様から処罰を言い渡されたことで、

自分たちのしたことの重罪さに気がつければいいのだが、

リリアン様はまだ不満そうだ。まだ陛下に向かって反論を続けようとする。


「結局無事だったのだからいいじゃない!」


さすがにリリアン様に言い負かされることは無いようで、

陛下はしっかりと言い聞かせようとする。


「リリアン、そうではない。

 無事だったのは運が良かっただけだ。

 お前には知らされていないだろうが、王宮薬師長がいなければ、

 王宮薬師長が処方する薬がなければ、1年もたたずに公爵は死ぬだろう。」


「え?」


「お前の父親を生かしているのは王宮薬師長だけしか作れない薬だ。

 そして、ユキ様の後を継げるのはルーラだけだ。

 お前のしたことは父親の命を縮める行為だった。」


「嘘よ…本当に?

 だって、その女がいなくなったら、

 ハンスさんが次の王宮薬師長になるんでしょう?

 そしたら別にいなくなっても構わないじゃない。」


「誰がそんなことを言った?」


「…ハンスさんが、そう言って手伝ってくれるって。

 連れ出すときに使った薬はハンスさんからもらったものよ。」


「なるほどな…ハンスも関わっていたか。

 おい、衛兵。ハンスを捕まえて調べろ。」


入り口付近にいた衛兵たちが数人部屋の外に出ていった。



「…ハンスではあの薬は処方できない。

 ルーラでなければ無理だ。

 公爵よ、自分の娘の犯した罪だ。おとなしく受け入れろ。

 お前たちがしたことは、この国を、この国の王族を殺す行為だ。」


「…陛下、お許しください。どうか、どうか…。」


真っ白な顔をして崩れおちた公爵が、這いつくばるように懇願する。

それを支えようとしながら、リリアン様もお願いしますと繰り返す。


だけど、陛下とユキ様の処罰は変わらなかった。


「それと、ランゲル公爵一族の王宮への出入りを禁じる。

 同時に公爵家主催の夜会とお茶会の開催を禁じる。」


王宮への出入りの禁止は王家主催の夜会やお茶会に参加できないということ。

それはリリアン様の結婚相手を探せないということになる。

しかも、公爵家での主催もできない。

この処罰が公表されれば、リリアン様を呼ぼうとする貴族は一人もいないだろう。

事実上の社交界からの追放だった。


「そんな!陛下、ひどいです!

 じゃあ、ノエル兄様との結婚は認めてください!」


「はぁ?」


「だって、社交界に出られないんじゃ結婚相手を探せないでしょう!?

 だからノエル兄様との婚約を戻してください!」


「…ノエル、こう言ってるが?」


あ、陛下、うんざりしましたね?

あきらかに疲れた顔でノエルさんに全部投げてきた。

それにしてもリリアン様を反省させるのは無理なのかも。


「リリアン、俺はリリアンと結婚する気はないし、婚約を戻す気もない。」


「どうして!」


「俺はもうルーラと結婚しているし、

 ルーラ以外の女とどうこうする気になれない。」


「私と結婚するって言ってくれたのに!」


「…言ってないよ。一度も。

 リリアンが産まれた時点で決められた婚約だったからな。

 リリアンを女性として見たことは一度もない。

 妹のように思ってたから、それでいいと思ってた。」


女性として見たことがない。

そうはっきりと言われ、リリアン様の表情が抜け落ちた。


「…そんな。そんなにその女がいいの?」


「俺はルーラを愛している。ルーラじゃないとダメなんだ。」


「…嘘よ…嘘だわ。」


そうつぶやくと力なく崩れ、そのまま気を失ってしまった。

よほどショックだったのだろうか。



「衛兵よ、二人を連れて行け。処罰はすぐさま貴族へ公表しろ。」


「はっ。」




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