第12話 儀式の正体

「先ほどの儀式は、どういうものだったんですか?

 これでルーラは安心して良いんですか?」


部屋に戻ってソファに座ると、

落ち着かないようにノエルさんがユキ様に聞いた。


「ああ、安心していいよ。ルーラはもう大丈夫だ。

 あの儀式については、これを読んだ方が早いんじゃないかな?」


さっき宙に浮いていた紙をノエルさんに渡す。

それを読んでいるノエルさんの顔がどんどん赤くなっていく。

どうしたんだろう?


「……ユキ様、だましましたね?」


「いいや。だましてないよ。儀式をする前に言っただろう?

 他の者と結婚できなくなるよって。」


「それは聞きました!だけど…これ、俺とルーラが結婚してませんか?」


「えっ?」


「何か問題あるのか?

 ノエルが自分で何でもするって言ったんだろう?」


ユキ様にそう返されて、ノエルさんは口を開けたまま固まってしまった。

そうだよね…何でもするからってお願いしたのは私たちだ。

でも、結婚?私とノエルさんが??

ノエルさんが握りしめている紙を横から取って、私も読んでみる。


書かれている全文を読んでみたけれど、

私の知っている結婚とは違うもののように思える。


「…これ、結婚したことになるんですか?何か違う気もするんですが。」


「あぁ、もともとはこれが正式な結婚なんだよ。

 と言っても、今は王城に書類を出さないといけないけどね。

 ちゃんと結婚したくなったら書類をだせばいい。」


「書類を出して結婚するんじゃダメだったんですか?

 これだと、ノエルさんは私から一生離れられないですよ?」


「ただの結婚だったら、あの貴族が納得すると思うかい?

 当主が認めていないから無効だなんて言って、破棄されて終わりだ。

 そのまま無理やり他国に連れていかれてしまったら、もう取り戻せない。

 だから、魔力を結び付ける儀式をしたんだ。」


結婚を破棄…あぁ、あの人なら言うかもしれない。

女子供が物扱いなら、そんなものは認めないって言いだしそうな気がする。


「だからあの儀式を…魔力を結び付ける、ですか?」


「そう。今の二人は魔力を共にしている。

 だから、近くにいないと魔力の補完が難しくなるんだ。

 今一緒に寝ているのと同じことだ。」


「今の状態がずっと続くってことですか?」


「ああ。だけど、ノエルの器は共生の儀式によって強化されただろう。

 ルーラの器はまだ成長の途中だったからね。

 その力を使って修復されているはずだ。

 今なら簡単に魔剣を扱えるようになったんじゃないかな。」


「ノエルさんの器が修復されたのはうれしいんですけど…。

 私とノエルさんは、どのくらい離れていられますか?」


「日中は離れていても大丈夫だよ。」


「じゃあ、この前みたいに魔獣を倒しに行くのは難しくなりますね…。」


「あはははは。ルーラが悩むのはそっちか。

 なぁ、ルーラ。母親の形見の指輪を見せてもらえないか?」


「これですか?どうぞ。」


首にかけていたネックレスをはずしてユキ様に渡す。

母様の形見だとわかった後、ノエルさんはネックレスも一緒に渡してくれた。

私の指には大きいから、これなら無くさないだろうと言って。


「うん、わかった。ありがとう。」


「はい。」


ユキ様から指輪を受け取り、また首にかけて戻した。

指輪を見て何がわかったんだろう?


「2日後に貴族に会う時はまた立ち会うから大丈夫だ。

 あと、ノエルが正気になったらさっきの説明しておいてくれ。」


「わかりました。」


ノエルさんはまだ衝撃が続いているのか、呆然としている。

正気に戻ったらユキ様から聞いたことを説明して、もう一度謝ろう。

私のせいでこんなことに巻き込んでしまったのだから。







「ノエルさん、大丈夫?お茶入れたから飲もう?」


しばらく正気に戻らなかったノエルさんが、ようやく動き出した。

でも、まだ動きがぎこちない。


「ごめんなさい。巻き込んでしまって。」


目を合わせて謝り、ぺこりと頭を下げる。

謝ってすむ話じゃないけど…自己満足でしかないけど…。


「ああ、いいんだ、それは。

 お前のせいじゃないから、謝らなくていい。」


「でも…。」


「大丈夫だ。ちょっと驚いてしまっただけだから、な?」


また頭をぐりぐりと撫でられる。

大きくなってからは初めてかもしれない。

子ども扱いは嫌だったはずだけど、これはなんでか嬉しい。


「ユキ様がノエルさんに説明しておけって。

 あの儀式は結婚式ではあるけど今は違うから、

 王城で書類を出さないと結婚したことにならないんだって。」


「そうなのか?」


「まぁ、もともとはあれが本当の結婚式だって言ってたけど。」


「だよなぁ、聞いたことはあったんだ。

 魔力を結び付けて結婚式すると別れられないって。」


「そうなんだ。だから、普通は書類だけで結婚するのかな。」


「だろうな。」


「でも書類だけの結婚だと、あの貴族は納得しないだろうって。

 当主の許可が無いって破棄してでも連れて行くだろうって。

 そうやって無理やり他国に連れていかれたら、

 もう取り戻せないから魔力を結び付けたみたい。」


「…そういうことか。あの貴族ならやりかねないな。」


「2日後に会う時には、またユキ様が立ち会ってくれるって。

 儀式の説明とか、ユキ様がしてくれるのかな。」


「まぁ、俺やルーラが言っても聞いてくれそうにないからな。

 それはユキ様にお願いした方が良いな。」


「あと、ノエルさんの魔力の器は修復されてるはずだって言ってた。

 共生した時に、私の器の成長力で修復されたと思うって。

 だから、簡単に魔剣も扱えるって言ってた。」


「本当か!」


ソファから立ち上がったと思ったら、私を抱き上げてくるくる回される。

なんで~?目が回るっ。

やっと止まってくれたけど、目が回ったせいで、

くたっとなってノエルさんの胸に寄りかかる。


「うわ。ごめん、ルーラ。大丈夫か?

 つい嬉しくなって…振り回してごめんな。」


「ううん、いいよ。ノエルさんが嬉しいなら良かった。

 でもね、離れられないのは変わらないから、

 今まで通り、夜は一緒に寝るようにって言ってたよ。」


ノエルさんの動きがピタッと止まった。

抱き上げられたままなんだけど…?

ノエルさんの胸にくっついているせいか、心臓の音が聞こえてくる。

音が早い…大丈夫かな。

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