第3話 魔力過多
「気が付いていないのか。陛下の魔力酔いはお前の魔女の魔力が原因だ。」
「えええ?」
私が魔女?私の魔力が原因?
…もしかして、陛下に魔力を使ったとかそういう罪で処刑される?
血の気が引く音がした。座っているのに、ぐらぐらと揺れる感じがする。
「落ち着け。お前が原因だが、お前のせいじゃない。
誰も責めないから落ち着きなさい。」
穏やかな声で告げられて、なんとか気持ちを立て直す。
責められてはいない…のなら、帰してもらえる?
「お前の魔女の器は不完全だ。
それなのに、魔女として目覚めてしまったのだろう。
最近、何か変わったことは無かったか?
やたらと男に言い寄られるとか。」
「…ありました。
先週16歳の誕生日を迎えてから、
常連客から求婚されるようになりました。」
「それも魔力のせいだね。薬師は薬草に魔力をこめて精製している。
魔力が有り余ってるから、ものすごい量の魔力がこめられたのだろう。
他人の魔力を大量に取り込んでしまうと、強制的に魔力交換している状態になる。
その魔力がとても心地いいと感じてしまうんだ。
そうすると、その魔力の持ち主を求めるようになってしまう。
だから客から求婚され、陛下に連れて来られたのだろう。」
「強制的に魔力交換…。」
魔力交換って、結婚相手にするものだよね。それを無理やりしていた…。
そんなことをしていたなんて。常連客のみなさんに謝らなきゃ…。
「おそらく16歳の誕生日がきっかけなのだろうが、
一週間でここまで影響が出るとなると、
この先、駄々洩れの魔力で周りが振り回されることになるな。」
「えっ?」
「薬を飲ませなくても、同じような状況になると言ってるんだ。」
「そんな…。私、どうしたらいいのでしょうか?」
「このままでは城下町に帰すことは無理だ。お前をめぐって争いが起きてしまう。
そんなことは望んでいないだろう?」
もちろんだと首を思い切り縦に振る。
私の魔力のせいで争いが起きるなんて望むわけがない。
「しばらくは私の下で修業しなさい。魔力をうまく扱えるようになるまで。
王宮薬師の修業になるが、それもいい経験だろう?」
王宮薬師の修業!受けられるのなら受けたい。
平民の薬師が簡単に受けさせてもらえるようなものではないし、
母様から教えてもらったけど、きちんとした教育機関に通ったことはない。
王宮薬師の修行なら、知らない処方を教えてもらえるかもしれない。
「いいのですか?ぜひ、修業させてください!」
「よし。では、これからルーラは私の弟子だな。
住まいはここではまずいから、塔に行くよ。ついておいで。」
「はい!」
急に担ぎ上げられて来たために戸締りしていないお店のことは、
王城の人が見に行ってくれるらしい。
それを聞いて、隣のおばさんへの伝言もお願いすることができた。
お世話になった女官長や女官たちにお礼を言って、ユキ様の後をついていく。
お店に帰れないのはつらいけれど、今は帰っても迷惑になるだけだろう。
ここでしっかり修行して、新しい処方も覚えて、それからみんなの役にたてばいい。
そう思ったら気持ちが楽になって、軽やかな気持ちでユキ様の後を追いかけた。
ユキ様についてきた先には小さい塔があった。
先を歩くユキ様にそのままついていくと螺旋階段が続いている。
ゆっくりと登っていくと、思ったよりもすぐ塔の上にたどり着いた。
小さなドアを開けると、その先には考えられない空間がひろがっていた。
「え?」
「驚いただろう?ここは魔術で空間が変えられている塔なんだ。
だからこそ、理解できないものを怖がるのか人が近寄らない。
以前は何人か住んでいたが、今は誰もいないんだ。
好きな部屋を自分の部屋に選ぶといいよ。」
選んでいいと言われても、目の前の廊下はずっと奥まで続いている。
廊下の両側の白い壁にはいくつものドアがついているが、
それが全て部屋なのだろうか。
外から見た時にはとても小さな塔に見えたのに…。
手前の左側のドアを開けて中に入ると、
先ほどいた部屋と同じくらいの広さだが質素なつくりの部屋だった。
入ってすぐの間にソファや小さなキッチンが付いている。
奥の間には大きな寝台が置いてあるのが見えた。
ここを一人で使っていいというのだろうか。
振り返るとユキ様が面白そうにこちらを見ていた。
「ここでいいのかい?薬師用の部屋もあるんだよ?」
「そうなんですか?その部屋を見てもいいですか?」
「こっちだよ。」
廊下の先を進むと、壁が緑色に変わった。
先ほどとは違う形のドアを開けると、黄緑色の世界が広がる。
壁のいたるところに薬草が吊り下げて干してある。
先ほどの部屋にあった小さなキッチンの代わりに処方台があり、
その上には処方に必要な道具がそろっている。
奥とつながる扉の手前に向かい合わせのソファとテーブルがあり、
奥の間には小さな寝台が一つ置かれていた。
本来は仮眠用の寝台なのかもしれない。
だけど、身体の小さいルーラにはぴったりの部屋だった。
「ここがいいです!」
「そうだろう。好きに使っていいよ。
ここにない薬草は隣の小部屋が保管庫になっている。
ただし、私が指導するとき以外は処方してはいけないよ?
きっと今の状態で処方しても、誰にも使えない薬になるだろうからね。」
そうだった。今の私の状態では魔力の影響が出てしまう。
ユキ様に指導してもらって、
魔力をうまく抑えられるようにならなければいけない。
「わかりました。ユキ様、ご指導よろしくお願いいたします。」
しっかり深々とお辞儀をする。迷惑をかけてしまっている。
申し訳なさと感謝で、頭を下げるしかできなかった。
「いいんだよ。
魔力過多の魔女に修業させるなんて、私としてもいい経験になる。
とりあえず会わせたい人がいるから、後でもう一度来るよ。
それまではゆっくり休んでなさい。突然のことで疲れただろう。」
にぃと笑うと、ユキ様は部屋から出て行った。
もう一度来ると言っていたので、これからのことはその時に話すのかもしれない。
確かに突然すぎて、身体も精神も疲れてしまっている。
三人は座れそうな大きいソファに座ると、そのまま動けなくなってしまった。
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