12月20日(月)

12月20日(月)。


死にたかった。早く死にたかった。会社を辞めるみたいに、人生だってやめてもいいだろ?20歳の時に初めてハガキをもらった時、オレは迷いなくゴミ箱に捨てた。自分に期待していたからだ。オレには可能性がある。才能がある。そいつらはまだ眠っているだけだ。

あの頃のオレが今のオレを見たらどうするだろうか?ゴミ箱を漁ってハガキを取り出し、泣きじゃくりながら機関へ行くのだろうか?そうなったとしても所詮は寿命が10年短くなるだけのことだ。

 

孤独だった。孤独で非力だった。色々な人がオレを踏み越えていった。でもオレは、オレだけはずっとオレを信じていた。強くなれる。強くなれる。強くなればきっと変わる。きっと全て良くなる。そう信じ続けた。でも、もう疲れた。


 友達は少なかった。進んで交友関係を増やそうとはしてこなかった。そもそも人と関わるのが苦手だった。怖かったんだ。

『目の前にいるこの人間はいま何を考えているのか?』

 この問いが頭から離れない。彼らもまた人間であることをオレは知っていた。オレが意思をもつのと同じく、彼らも意思を持っているはずだ。そして、オレと彼らは意思疎通のための言語を用いる。何が言いたいのか分からなくなってきた。つまり、オレは信じられなかった。

『自分が彼らと隔絶された個であること』を。

 これは人がどこまでも孤独であることの証明ではないか?なぜ誰も騒がないのか?なぜみんな平静なのか?


 優しくなりたかった。オレは『幸せになるに値しない人間』だ。もしくは『救われるべきではない人間』だ。オレは優しくない。優しくないオレは関わる人を不幸にする人間だ。ならばいっそのこと誰とも関わりあうことなく生きよう。それができないなら、だれにも知られずに死のう。


 自由になりたかった。でも無理だった。オレの目の前にあるのは、人間にとっての最後の自由。これだけは誰にも触れさせない。


 この一枚のハガキは『救い』だ。『救われるべきでない人間』に与えられた唯一の『救い』だ。

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