3-5
「いえ、わたしこそ……」
フェルリナはぽふぽふと自分で埃を払っている。
気まずい空気が流れ、ヴァルトは話題を変えようと疑問を口にした。
「そもそも
人質だと告げた
だから、驚いたのだ。
フェルリナがヴァルトのために手作りの贈り物を用意するなんて。
必要経費以外は手つかずだった皇妃の予算が初めて使われたという報告を受けて警戒していたのに、
「それは……えっと、最初は、陛下とお話しするためのきっかけになればと思っていました。ぬいぐるみを作ったのは、その……陛下はいつも気を張っているように見えたので、少しでもそのお心が休まれば、と……」
それも会話として成立していたかは
だから、フェルリナがこんなに長く話すのを初めて聞いた。
しかし、その内容だとまるで、フェルリナはヴァルトと仲良くなりたいと考えていたようではないか。
「ちょっと待て。君は、
「え? そんなことは一切ありません!
「……私をじっと観察していたのは?」
「陛下とお話ししたいと思っていたのですが、なかなか話しかけることができませんでした」
「……」
「陛下の望むような人質として
小さな声でフェルリナが謝った。
ヴァルトが人質だと言ったことに
その
「いや……君が気にすることではない」
彼女が
刺客に襲われたのも、ぬいぐるみに魂が入ったのも、フェルリナが望んだことではないだろう。
フェルリナは
(……ルビクス王国の者は
フェルリナからは
何より、自分に冷たくしていた人間のことを思い、贈り物ができるような優しい心を持っているのだ。
ヴァルトが考えていると、ぬいぐるみが大きな瞳で見つめてきて、とんでもないことを口にした。
「もしかして、わたしが気分を害するようなことばかりしていたから、陛下は
「ぶふぉっ……! 趣味の拷問!?」
可愛らしいぬいぐるみとは
「陛下の趣味は拷問だと聞いていたのですが、
「断じて違う! というか、もし趣味だったとして、君は拷問を受けるつもりだったのか?」
「はい」
フェルリナは迷いなく
一体誰がそんな事実無根の
冷酷皇帝と恐れられていることは知っているものの、趣味が拷問だなんて
頭が痛くなってきたヴァルトは、額に
「……とにかく、拷問は趣味ではないし、君にもしない」
「わ、分かりました」
フェルリナは拷問を受け入れようとしていたという。
拷問さえ受け入れようとしていた素直さには、驚くとともに心配になる。
「……体を乾かすためにも、庭を
「いいのですか!?」
気分
(もしかしたら彼女は今までの女性と違うのかもしれない。それに、今はただ手のかかるぬいぐるみだしな)
仕方がないから守ってやろう―― と、ヴァルトはフェルリナへの警戒心を少し緩める。
そして、再びぬいぐるみを抱き上げる時は、淑女に対するように優しく触れた。
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