1-10
その夜、外は
「陛下、あの、いつもありがとうございます」
(ざあざあと雨風が
そのせいで、フェルリナが
聞こえていないのだろう。ヴァルトは運ばれてきた食事に目を向けている。
(せっかく、今日こそはと思っていたのに……)
しかし、今日の目的はヴァルトと話すことだけではない。
フェルリナはいつ切り出そうかと、タイミングを見計らうためヴァルトをじっと見つめる。
「…………」
「…………おい、さっきから食べもせず何を見ている?」
「え、あっ、すみません……っ」
ヴァルトから警戒心のこもった眼差しを向けられ、フェルリナは俯く。
「ガルアド帝国での生活には慣れたか?」
「はいっ! 皆さんに良くしていただいて……」
ドゴォーン―― ……!
「きゃっ」
バリバリと空気を
その
フェルリナが驚いた
「今のは、どこかに落ちたな。国内に
フェルリナがぬいぐるみに気を取られているうちに、そう言ってヴァルトは立ち上がる。
「皇妃は食事を続けてくれて構わない。私は仕事に戻る」
「あっ……」
ばたんと扉が閉まり、室内には強い雨音だけが響いた。
一人残されたフェルリナは、雨が叩きつける窓の方へ視線を向ける。
(ひどい雨……大丈夫かしら)
雷が落ちた場所が市街地だったら大変だ。
大きな被害や
フェルリナは国民の無事を祈る。
一方で、何もできない自分をもどかしく思った。
形だけの皇妃は、何も仕事をさせてもらえていないのだから。
(せっかく用意したけれど……)
ぬいぐるみを渡そうと意気込んでいたが、結局渡せなかった。
(最初に渡しておけば……うう、でも勇気が出なかったわ。それに今日こそは陛下とちゃんとお話ししたいと思っていたのに……)
反省点が多く、しょんぼりと肩を落とす。
次こそは渡そうと思い、フェルリナはぬいぐるみを大事に抱きしめ晩餐の間を後にした。
「今日は少し間が悪かっただけですわ。次は、陛下ともっとお話しできますよ。それに、ぬいぐるみも渡せますわ」
とぼとぼと部屋へ戻るフェルリナをリジアが
「で、でも、可愛すぎないかしら? 今からでも作り直した方が」
「何をおっしゃいますか! 作り直すなんてとんでもない! こんなに愛らしいのに!」
「あ、ありがとうございます」
リジアの言葉が嬉しくて、フェルリナは笑みを浮かべた。
「それにしても、ひどい雨ですね……。妃殿下、暗いので足元に気をつけてくださいませ」
「そうですね……早く嵐が去ってくれるといいのですが……」
そうすれば、被害
フェルリナは、まともに食事をとらずに仕事に戻ったヴァルトのことを思う。
(陛下は、大丈夫かしら……?)
そして、またピカリと稲光が走った時だった。
―― 光った先に、武器を手にした男が
「ルビクス王国の王女には死んでもらう!」
そのまま走り出した男に
リジアも怖いはずなのに、フェルリナを守るために
「妃殿下、お
その言葉にフェルリナはハッとする。
何もできないフェルリナが側にいるよりも、見張りの騎士を呼んだ方がいい。
それに、狙われているのはフェルリナだ。
リジアから離れた方がいい。
フェルリナはドレスの
「逃がさない!」
という男の
何があったのか、振り返る余裕はなかった。
何故か誰にもすれ違わない。いや、よく見れば人が
やけに静かな理由が分かり、フェルリナは血の気を失う。
ガルアド帝国に嫁ぐことが決まった時に、人質として殺されることは覚悟していたはずだった。
しかし、いざこうして命を狙われると、怖くてたまらない。
シュッと背後から何かが頰をかすめる。
それが
早く起き上がらないと。
刺客の足音は近づいている。
怖い。嫌だ。殺されたくない。死にたくない。
心臓がどくどくと嫌な音を立てる。
(誰か、助けて……―― っ!)
あまりの恐怖に耐えられず、フェルリナの意識が
刺客が倒れるフェルリナにトドメを刺そうと長剣を振り上げた時―― 。
「
というヴァルトの声とともに、駆けつけた騎士たちが動く。
騎士の姿を見て刺客は
その足音と、金属の落ちるカランという音が遠く聞こえる。
隣で転がるぬいぐるみを視界に
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