ポケットダンジョン放浪記

芋窪Q作

旅の始まり

第1話

 ゴロゴロと何かが刺さる尻の感触に目を開けると、いつの間にか農道だか畦道だかわからん場所に座ってた。


「どこだここ……?」


 呆然となりながら立ち上がり、農道? の先に見える建物に意識を集中させる。


「西部劇の宿場町みたいだが……」


 なんでこんな場所にオレは居るんだ?

 確か仕事帰りの風呂を満喫してたはずなんだが……

 夢?

 あまりの気持ち良さに風呂んなかで寝ちまったのか?

 スマホでの遠隔操作出来るようにしてから、帰宅後すぐの風呂が病み付きになってしまったんだよなぁ……

 今日は仕事も忙しかったし──


「服を着なさい、大馬鹿者!!」


 不意に怒鳴られ振り向くと、べちょっとやらしい三十絡みの、なかなかの美人が両腰に手を当て、柵越しにオレを睨んでいた。

 片手にたわし、足元には洗濯桶。どうやら彼女は洗濯の最中だったらしい。


 不思議に思いつつ確認すると、確かにオレは服を着ていなかった。

 全裸、若しくはフルチン。

 言い方はなんでも良いが、とにかくオレは、道の真ん中に全裸で立つと言う稀有な体験真っ最中だった。


「ふむ」


 雀の学校の先生は~♪


 と、腰を振ったところでたわしをぶつけられ謝ることに。




「なるほど、やっぱりあんた”渡り”なんだね」


 近くにあった彼女の店(たぶん飲み屋か何か)に連行され、少し小さい男物の服を無理矢理着せられたオレは、狭いカウンターのスツールに腰掛け、事情聴取されていた。


「”渡り”?」


「あんたみたいに別の世界からやってくる人らのことさ」


「別の世界……」


 所謂、異世界転移というやつだろうか?

 だがオレはトラックに跳ねられた訳じゃないし、女神だか創造主だかにも会ってない。


「戸惑うのも無理はないさ。いきなり知らない世界に放り込まれたんだからね。特にあんたの場合は、ぷふ、湯浴みの途中だったみたいだし……」

 

 言って先程のオレの姿を思い出したのか爆笑し始める。


「いやぁ、それほどでも」


「誉めてない」


 バシッとお盆で叩かれ謝ることに。


「世界を渡ってくるから”渡り”。宗教家は神様が何らかの理由で連れてくるって云ってるけど、学者先生達は自然現象だって言ってる。本当の所はわからないけどね。って、ほらっ、飲みな。あたしの奢りだ」


 差し出されたのは木のジョッキ。中には豊かに泡立つ金色の液体。

 不透明な木のジョッキなのに、なぜ中身が分かるかというと、目の前で入れるのを見ていたから。


 彼女は空中からこの液体を出現させ、なみなみとジョッキに注いでいたのだ。


「え? これ……魔法? 飲めるの?」


「あっはっは、魔法じゃないよ。あたしがそんな学があるように見えるかい?」


 正直言って学があるようには見えなかったので返事に窮したらお盆で叩かれ謝ることに。


「ったく、そういう時は嘘でも見えるって言うもんだよ、気が利かないねえ」


「ハイミエマス」


 ガンっとお盆の縁で叩かれ以下同文。


「これはね、ギフトって言うんだ。あたしが授かった天からの贈り物ってやつさ」


「ギフト……」


 良く聞くスキルなんかとは明らかに別種の力だよなぁ、水なら兎も角、ビールを出すなんて。

 そう考えながらジョッキを口に運ぶ。


「旨い!! なんだこれ!? こんな旨いビールは初めてだ!!」


「な、なんだよ、いきなり。やだね~、この男は」


 赤面した彼女にバシバシとお盆で頭を叩かれる。だが、そんなこと気にならないくらい、このビールは旨かった。

 聞くと彼女が出せるのは、この格別に旨いビールだけらしい。


 で、そのギフトだが、この世界では成人すると同時に誰もが授かれるものらしい。

 ギフトの力は人それぞれ。水を出したり火をつけたりが多いらしいのだが、稀に飛行能力や空間転移などの使い勝手の良いギフトも貰える者も居るそうな。

 中には自在屁という、好きに屁をこけるギフトを授かった者も居るという。

 なるほど当たりギフトもあればはずれもあるのか。

 等と感心してたら、自在屁のギフトは外れどころか大当たりらしく、そのギフトを授かった者は戦争で活躍をして、今ではお貴族さまなんだとか。

 要は使い方で、上手く使った者が成り上がれるそうな。


 まぁ”渡り”の自分には関係ない話だが。


「なに言ってんだい、あんたもここ渡った時にギフトを授かってるはずだよ」


 授かってるらしい。


 え? まじ?

 オレもギフト持ち? どんな? 

 出来ればオレも酒が出るのが良いなぁ。

 あ、水や火でもいいや。日常の使い勝手良さそうだし。

 逆に自在屁みたいなのは遠慮したい。成り上がりたいとか思わんしかっこ悪いし。


「気になるんなら明日にでも調べに行くといいよ、村外れの祠で祈れば頭の中にギフト名がうかぶから」


 気になる! めっちゃ気になる!!

 明日とは言わず今からすぐにでも調べに行く!!


 と、思ったのだが、窓の外は夕暮れており、あと、

なぜか首根っこつかまれてて、飛び出すことも出来ず。


「この時間からだと村外れは危険だよ。それにうちの店はこれからが稼ぎどきなんだ。服の代金分、しっかり働いてもらうよ」


 と、笑顔で言われ従うことに。



 それから三日後、オレはいま村外れの祠の前に立っていた。

 明日行けばいいとか言っておきながら三日間の拘束。

 店の掃除から、皿洗い、簡単な料理から夜の相手まで散々こき使われたが、まぁ、それはいい。

 何だかんだで村人にも認知されたし。


 で、ギフトだ。

 ここで祈ればギフト名が頭のなかに浮かぶらしい。祈り方とか聞いてないが、まぁ、お地蔵さんに祈る感じでよかろう。

 出来ればお金が稼げるギフトがいいな。いまのところオレ、無職だし。


 祠の前で屈み、手を合わせる。

 すると、妙にくっきりと思い浮かぶ言葉があった。



 ポケットダンジョン



 ……意味わからんし。

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