2章 迷宮都市リヴィルド
1. 元執事、襲われるpart2
お待たせしました!
しばらく仕事が立て込んでいたのですが、ようやく落ち着きましたので二章開始です!
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「私のことをなんで殺そうとしたのか教えてくれませんかね?」
俺の目の前には魔法で拘束された一人の男がいる。男の目には恐怖の色が浮かんでいた。
殺そうとしてきたから捕まえただけなのにこれか。
俺はため息をついてこうなった経緯を思い出していた。
***
「今後どうするか……」
俺は部屋で地図を広げて今後について考えていた。もちろん膝にはハクがいる。
「迷宮は攻略したし、違う街に行ってまた迷宮攻略するのがいいとは思うんだが……」
「くぅーん……」
俺が唸るとハクも真似して小さな声で唸る。
……だめだ、可愛い。
俺はハクをもふもふしながら地図を眺める。
この街には迷宮はロミウスしかない。だから迷宮攻略を続けるためには違う街に行くしかないのだ。
ちなみに地図は執事時代に作ったやつ。地図なんて国からしたら戦争の時に地形を把握されないように秘匿しなければならないもので持っている方がおかしいんだが……
この地図にはメルテウス王国だけではなく諸外国も載っていた。執事として、ユリウェラ王女殿下の命令をこなすために多くの国に出向いたからこそできたことである。
「ま、国が手に入れれば即戦争が始まりかねないがな……」
抜け道やらなんやらも書いてるからだ。殿下の命令をこなすには正規ルートじゃ間に合わないからしょうがない。
「さて、どこ行こうか。エステルは首都に近すぎるし、パワプの迷宮は……」
考えていると唐突に扉が開く。
「フェール、ご飯食べに行こー!」
そこには赤髪ロングの美人がいて満面の笑みを浮かべていた。
一緒にパーティーを組んでいるリリアナだ。俺は思わずため息をつく。
「はぁ、何度言ったらわかるんだ。ノックくらいしてくれ」
「いいじゃない、私たちの仲なんだから」
俺の言葉にリリアナが頬を膨らませる。
この残念な性格さえなければ可愛いんだけどな……
いつぞやの会話を繰り返しながらも、俺はハクを抱えて立ち上がる。
「わかったわかった。行くから」
「ちょっと待って」
「ん?」
「わん?」
テーブルに広げられた地図を見てリリアナが固まる。
「これはっ……!」
「次どこ行こうか決めようと思ってな」
俺の言葉にギギギっと顔をこちらに向ける。
「そ、そうね、確かに次どこ行くか決めないとだけど……この地図どうしたの……?」
「俺が書いた」
「……」
黙ってしまうリリアナ。そして……
「はぁ……もういいわ。あなたが規格外だっていうのはわかってたことだもの。うん」
なぜかため息をつかれる。なんでだ……必要だったから作っただけなのに……
「まぁいいわ。とりあえずご飯食べに行きましょう。次行くところを決めるのは今度でもいいでしょ?」
「あぁ」
そのまま出て行こうとするとリリアナに怒られる。
「って、いや地図置いてっちゃダメでしょ! 盗まれたらどうするの!」
「これがここにあることを知ってるやつなんていないし……」
「ダメなものはダメよ! 早くしまって!」
「はいはい」
地図をアイテムボックスに仕舞うとようやくリリアナが息をつく。
「あなたといると本当退屈しないわ……」
「それは良かった」
「悪い意味でよ!」
「わん!」
なぜこいつはこうも噛み付いてくるんだろうか。
疑問に思いながらも口をつぐんだ俺は偉いと思う。
***
「美味しかったわね」
「あぁ。あんなに美味しいフレンチトーストがあるとはな」
「ワフッ!」
美味しい昼食を食べ、俺たちは街を歩いていた。まだまだ日が落ちるまでは時間があるため、次の街に移る前に街を見て回ることになったのだ。
「あ、あそこ入ってもいい?」
リリアナが指差したのは宝石が売っている店だった。
リリアナもそういうものに興味を示すことを意外に思いながらも頷く。
「おう」
「やった〜!」
店に入ると、中にはたくさんの宝石が並んでいた。と、リリアナが赤い大きな石がついたネックレス指差す。
「あ、あのネックレス良くない?」
「あーあれ、安物だな」
「え!? なんでわかるの!?」
「明らかに本物の宝石の輝きじゃない」
真偽の見極めも執事として必要不可欠な能力である。ユリウェラ王女殿下の取引であれ、国王陛下の取引であれ、執事として同席し偽物があれば助言する。
『執事は主人を守る盾です』
師匠の言葉。決して思い出したいわけではない。むしろ自分を捨てた師匠の言葉なんて忘れたい。
だが、師匠の言葉が俺が執事として生きてきた意味でもあって。
ズキッ。
唐突に頭痛に襲われる。
思わず壁に手をついて体を支えるとリリアナが心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫? 顔真っ青だけど……」
「わん……」
舐めてくるハクを撫でながら俺は平静を装い、リリアナに笑みを向ける。
……作り笑顔ってバレてそうだが。
「大丈夫だ」
「でも……」
「少しじっとしてれば治るから」
師匠を思い出すと時々起こる頭痛。これはきっと、あの卒業式の日のことを思い出すからだろう。
あの、よく晴れた日のことを——
俺は一度深く息を吐くと、壁からそっと手を離した。まだ心配そうに見てくるリリアナに今度はしっかりと笑顔を見せる。
「もう大丈夫だ」
「でも……」
「何か買って行くか?」
「う、ううん、特に欲しいのなかったから大丈夫よ」
俺が訊かないでくれというオーラを出していることに気づいたのか、リリアナは心配そうな表情をしながらもそれ以上は訊かないでいてくれた。ハクは手を舐めるのをやめ、俺の胸に体を押し付ける。
まだ、師匠のことを話せる気はしない。言葉に出すことで、より鮮明に思い出してしまいそうで……。
店を出ると涼しい風が吹いていて心地よい。熱を持った頭を冷やしてくれるよう。
と、ハクが鼻をヒクヒクさせる。
「クンクン」
「ん? どうしたハク?」
「何か……匂い……?」
つられるようにして俺たちも鼻をヒクヒクさせると香ばしい匂いを捉える。
「いい匂い……」
「焼き芋か」
俺の言葉にリリアナがあっ、と声を上げる。
「焼き芋! 食べたことないのよね」
「ワン!」
リリアナが興味津々といった目をする。ハクも尻尾を振って欲しそうな様子。
「買ってみるか?」
「えぇ!」
「ワンッ!」
素直な様子のリリアナに若干気圧されながら匂いの方に歩き出す。
焼き芋を売ってるのはすぐ近くの屋台だった。
「美味しそう……!」
「美人さんにそう言って貰えると嬉しいねぇ」
金を払うと、店主の若い男がニコニコしながら俺とリリアナに焼き芋を渡す。リリアナが目を輝かせている。
そして大きく口を開けてかぶりつくと……
「美味しい……!!!」
満面の笑みを浮かべた。
「それなら良かった」
ただでさえ美人なのにさらに満面の笑みとか……破壊力半端ないな……。
そんなことを内心思いながらリリアナから目をそらし焼き芋にかぶりつく。
だが……。
リリアナが勢いよくこちらを見てくる。
「フェール、今魔法を使った?」
「使ってないが?」
唐突な問いに俺はきょとんとする。
「今魔法の気配がしたのだけど……」
「さぁ? 俺はなんも感じてないから勘違いじゃないか?」
「そう……」
リリアナが首を傾げているのを尻目に、俺は焼き芋を折って皮をむいてハクにあげる。
「ワフッ」
尻尾を振って喜ぶハク。その様子を見て俺たちは顔を見合わせて笑い合う。
「ハクも喜んでるな」
「えぇ。私も食べれてよかったわ。買ってくれてありがとう」
「あぁ」
魔法のことなんか忘れたように笑みを浮かべるリリアナに、俺はこっそり安堵のため息をついたのだった。
***
日が沈む頃。俺はリリアナと別れ一人ホテルに向かっていた。
「さて。リリアナも帰ったし……」
「ワフッ?」
俺は笑みを浮かべると、ハクを抱きしめて唐突に走り出す。
「くそっ」
すると少し離れたところから毒づく声が聞こえてくる。追跡中に声を漏らすとはなんともお粗末な……
俺は角を曲がると一瞬で魔法式を展開した。
「〈転移〉」
「どこに……」
「お粗末な追跡ですね」
俺の言葉に追跡者が勢いよく振り返る。俺は追跡者の真後ろに転移していたのだった。
「なっ……!?」
「〈催眠〉」
「あっ……」
崩れ落ちる追跡者の顔を見てため息をつく。
「はぁ、なんでたまたま入った焼き芋屋の店主が襲撃者なんだ……焼き芋に毒が入ってた時点で気づいてたけどさ……」
「ワンっ!」
そう、そこに倒れていたのは焼き芋屋の店主だった。焼き芋屋を出た時からずっと追ってきていたのだ。
「狙われるような記憶ないんだけどな」
「ワフッ」
男を捕縛しながら呟く。陛下や殿下の手の者ならわかるが、この男は致死毒を盛ってきたし違うだろう。
ちなみに入っていた毒は、リリアナに心配をかけないために展開から起動までの時間を知覚できないくらい最小限にして一瞬で解毒した。
それでもリリアナの感覚の鋭さの前では危なかったみたいだが。
「めんどくさいことになりそうだな……」
俺は嫌な予感に顔をしかめながら、男を連れてホテルに転移したのだった。
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読んでくださりありがとうございました!
この先フェールがどうなるのか。引き続きお楽しみいただけたら幸いです。
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