第9話 絶望・・・


浮気をしてしまった罪悪感から桜子に対して優しくなった私。桜子は私のボクサーとしての姿を見て、以前よりも甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれた。



そんな桜子を見て自然と結婚を意識するようになってきた私。出会ったきっかけはあまり大きな声では言えないけれど、そんな事は小さな事。



出会えたという事が大事。



そして、さらにステップアップするべく、 次戦1年前に敗退した賞金トーナメントに再びエントリー。最後に闘ったY選手も違うブロックで出ていた。決勝までいけば再び闘わなければならない。あの強さだと勝ち上がってくるだろうなと思った。



私の初戦の相手。



関西の選手で戦績は7勝(3KO)2敗。これまた、中々の戦績だった。



私も3連勝という勢いがある。流れは良かった。



ただ・・・ただ1つ、気になる事があった。



腰の爆弾・・・



デビューして連勝している時は、確かに腰の調子は悪かった。けれど、それを理由にロードワークをサボっていた。



連敗してからはロードワークの重要性を確信し、本当に腰と相談しながら走っていた。



ところが、前回の激闘のせいか、一気に腰の調子が悪化した。ロードワークだけではなく、サンドバッグを打っている時でさえ激しい痛みを感じる程だった。



でも、ここでトレーナーに腰の痛みを訴えてブランクを作る時間は今の私に残されてなかった。この年は親との期限である4年目の最後の年。なんとかランキングを上位に持っていきたかった。



お願い神様、もう少しだけ、もう少しだけ、待って下さい・・・。



祈るような気持ちだった。



そして、あの悪夢がとうとうやってきてしまった。



試合日の5日前。



減量もなんとかうまくいき調整の為、マスボクシングをしていた。



軽く、本当に軽くステップを踏み、相手の右ストレートをダッキングした瞬間。



体の中で鈍い音。



その瞬間、その場に崩れてしまった私。激痛というより麻痺したように下半身の感覚がなく、身動きできなかった。なんとか抱えてもらいリングの外に運んでもらった。



悪夢なのか・・・



頭のどこかで、不謹慎なんだけど(あ~試合せんでもエエかも・・・)と思っている自分がいた。



私は毎試合、試合が決まると怖くて怖くて仕方なくなる。試合日が決まったその日から、その恐怖心はスクスク育っていく。



本当に不謹慎なんだけれど、天変地異でも起きて試合自体中止になればエエのに・・・って、本気で考えていた。



病院で診てもらうと、腰椎の3番目が疲労骨折していた。



それもかなり激しく、下手すると完全に折れて歩けなくなってしまうと医者に言われた。



「先生!お願いします!どんな方法でもエエから、リングに立たして下さい!立ちさえすれば、後はなんとかするんで!」



「エレジーさん、あなた、下半身不随なってしまうよ。試合は無理だよ・・・。」



この時の事と向き合うのは、実に20数年振り。自分の中では間違いなくメガトン級のトラウマ。ずっと見ないようにして過ごしてきました。



退行催眠療法じゃないけど、自分の中でも文章にする事によって、きちんとこの事実と向き合おうと思いました。いつも読んでくださる方々には本当に感謝しています。



20数年振りにたどる記憶の糸。



後、もう少しだけお付き合い下さい・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る