第10話 身体強化
日差しが眠る僕の顔に降り注ぐ。
家の中には穴も多数見られ、窓以外からも光が沢山侵入してくる。
光ならまだいいが、雨の日は最悪だ。
天井にもいくつか穴が開いており、雨が中に入り込む。
そんな部屋の中で、皆が眠りについている中で、僕は起き上がる。
「…………」
まだ僕たち子供らが起きる時間ではない。
僕は眠るリオラの頬を撫でる。
まだ痛々しいその傷に、黒い感情が湧き起ころうとしていた。
僕はそのままコソッと家を出て、町の外へと向かう。
「レイン。どこに行くんだ」
「ウェイブ……起きてたのか」
ウェイブは僕が早起きしたことに気づいていたらしく、僕と同じ様に家を出てきて、早朝の朝日に目を細めていた。
「昨日、リオラのこと気にしてただろ。それに何か思いついたような顔してたしな」
「どうしようもないってことを思いついたのさ」
「そんな諦めるような顔をしてなかったじゃないか。もっとこう、決意みたいなことを感じたけど」
ウェイブを巻き込まないようにと考えていたけれど……彼はどうも鋭いから、簡単に僕の考えに気づいてしまったようだ。
「復讐、するんだろ」
「そのつもりだけどね」
「じゃあどうやって復讐するんだ?」
「僕だけでする……と言っても引いてくれないよね」
「ああ。お前だけでやるって言うのなら、俺だって一人でやる」
「はぁ……なら教えるよ」
僕はウェイブと共に町の外に向かいながら、先日あったことを話す。
彼は僕が【ユニークスキル】と【ジョブ】に覚醒したことに一瞬驚くも、次は思案顔をする。
「お前がそんな力に目覚めたとなると……強くなることも、平民になることも可能なんだな」
「うん。そういうこと」
「……あのさ、俺も一緒に強くなれないだろうか?」
「不可能ではないんじゃないかな……僕も少しずつ強くなっているわけだし」
ウェイブは嬉しそうに、それは嬉しそうに破顔する。
「だったら頼むよ! 俺も強くなりたい! この世を変えるには力も必要になるからさ!」
ウェイブはどこまでも真っ直ぐで、自分の可能性を信じている。
彼といると僕自身学ぶことも多い。
きっとウェイブと一緒に行動することは、正しいことなんだ。
そう僕の頭も心も判断する。
「分かった。じゃあ一緒に行こう」
「ああ」
僕はウェイブと一緒に針し出す。
喜びが爆発し、歩いているのももどかしくなるほどだった。
僕もウェイブも強くなれるという事実に、感情が高ぶっていたのだ。
「アド。僕たちが強くなるためにはどうすればいい?」
モンスターを倒すと、『魔素』というエネルギーを放出し、それを吸収し人は強くなりやすくなるらしい。
稽古も大事だけど、実践訓練をすれば感覚と共に肉体も強化されていくのだ。
しかしもっと効率よく強くなる方法があるような気がする。
そう考えた僕はアドにそう訊ねてみたのだが……
彼女――女性かどうか知らないが、そもそも性別があるのかどうかも知らないが、声が女性なのでそう呼んでおく。
とにかく彼女は、すかさず僕に答えてくれる。
『まずは基礎スキルである【身体強化】を習得するのがお勧めです。先日は【召喚】を覚えたのでお教えしませんでしたが、これを習得しておく方がいいでしょう』
「【身体強化】か……」
【身体強化】――
体内の魔力を操作し、肉体を強化するするというスキル。
これは基本中の基本らしく、まずはこれを習得するのが常識らしい。
僕は子供だし、それに才能が無い。
その上、こんな技術を平民以上の人は習得しているが、奴隷身分の人たちには教えてくれないようだ。
だからそんなものを習得できるとは思ってもみなかったが……
だけどアドがそれを勧めるということは、僕にもウェイブにも可能ということであろう。
そう考えた僕は、ウェイブに話し出す。
「まずは【身体強化】を習得しよう」
「ああ……でも、どうやって覚えるんだ、それ?」
「……どうやって覚えるんだ、アド?」
『【同調モード】で私が指導します』
「そうか……なら、その後僕がウェイブに教えるとするか」
僕は草原のど真ん中で【同調モード】を発動し、アドに【身体強化】をご指導いただくことにした。
なるほど。
体内の魔力を意識して、それを維持するのか……
意識の仕方はアドの知識のおかげだろう。
あまり苦労することなく、その技術を使用することは成功した。
だが、少し意識を切らせると、スキルが途切れてしまう。
「まだ最初は難しいな……ウェイブ。これから【身体強化】の方法を教えるよ」
「……本当に凄いんだな、レインの【ユニークスキル】は」
「ありがたいことにね。これのおかげで僕は強くなれるし、そうなれると信じられるんだ」
「そうか……後ついでに、俺も強くなれるってもの忘れないでくれよ」
「ああ」
僕は理解している範囲で、【身体強化】の発動方をウェイブに伝える。
ウェイブは発動に苦労していたようだが――数十分試行錯誤し、彼も発動に成功した。
「うおお……凄い! 力が溢れてくるみたいだ!」
「まだまだ常時発動は難しいけど、ここからスタートしよう」
「ああ。もっともっと強くなってやる。この世界を覆すぐらいに!」
僕とウェイブは強くなれることに、そして【身体強化】の発動に興奮していた。
僕たち二人には才能がなく、徐々にだが。
しかし着実に一歩一歩強くなっていくその感覚は、遊んでいる時よりも楽しく、そして充実感が圧倒的であった。
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