いじわるな魔術師1


「それにしても、妙な女の子だったね……」

 地下の道をコツコツと歩きながら、シンジが不思議そうに言った。缶を落としたヨウサは手ぶらだが、他の三人はまだ水の入った缶を持ったままだ。歩く度、両手で抱えた缶がちゃぽちゃぽと音を立てる。

「ああ、さっきの黄色い娘っこだべな。かわいかっただな〜」

「うーたんって言ってたわ。うーちゃん、ってことかしらね」

 先ほど出会った愛らしい女の子を思い出して、シンもヨウサも頬が緩んでいる。そんな様子で前を歩く二人に対し、シンジの表情は真剣だ。

「いや、かわいかったけどさ。あんな小さな女の子が牢屋にいるなんて、ちょっとこれも引っかからない?」

「確かにね……」

 ヨウサが同意するその後ろで、ガイがまたも表情をキリリとして言った。

「きっとこれも何かの陰謀だよ〜! なんだか妙だもの〜!」

「野望だべな⁉」

 ガイの言葉に反応してシンまでも表情をきりりとする。そんな二人に即座にヨウサがツッコんだ。

「陰謀、野望って、一体誰のよ? 何、女魔術師?」

 少々呆れ気味なヨウサの言葉に、対するガイとシンは興奮気味だ。

「ありえるよ〜! きっと女魔術師は、王女様の病気を長引かせて〜、その間に好き勝手に男を連れ込んでるんだ〜! そしてそれを邪魔してきた王宮薬師をやめさせたのかもしれないよ〜!」

「自分の好きな男を得るために、邪魔者は追っ払っているってことだべな! 今回のリタみてーに!」

と、ガイとシンが憶測すると、再びヨウサがツッコむ。

「その流れで、あのうーちゃんも牢屋に入れたっていうの? 辻褄が合わないじゃないの。もし女魔術師が好き勝手やるんだったら、どーしてあんな小さい女の子が邪魔になるのよ」

 すると、今度はシンジも口を挟んだ。

「ガイとシンの妄想はさておき、そういう可能性もなくはないよね。ただ証拠が何もないから……ちゃんと証明できる証拠を見つけなきゃ」

「も、妄想って……」

「妄想じゃないかもしれないじゃないか〜!」

 妄想、と言い切られ、二人は少々ショックを受けたようである。こういう時、キツイことをハッキリいうのがシンジである。

「だって妄想じゃない。まだ何も分かってないんだから」

「そんなことより、階段よ。ここからお城の中に入れるみたい。ばれないように行かないと!」

 ヨウサの声がけに、ようやく本来の目的を思い出した三人が身構える。即座にガイが缶を足元において、首元にかけたネックレス型の鏡を指で摘んだ。

「じゃあ、ボクの出番だね〜。いくよ〜!『影呑みの術』!」

 ガイお得意の、気配をなくす鏡の術だ。ガイの言葉によって地面に現れた奇妙な魔法陣は、四人の影を飲み込んでしまった。この術で、四人の気配はまさに野生の獣並、めったに人に見つからなくなるのである。もっとも、かくれんぼが上手になる程度で、残念ながら姿は消えたわけではない。さすがに相手の目の前に現れてしまえば見つかってしまうのだが。

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