第8話 新世界
アイシャと共に家の階段を上り二階の部屋に来た。
寝室のすぐ隣の部屋だ。
中に入ると白い岩のようなものが部屋の中央にあった。
でかすぎて部屋はほぼこの岩で埋まっていた。
家具などが入る余地がない。
天井とかギリギリなんだが。
「これがその白露水晶?」
「ええ、そうです、手で触れてみてください」
触る前は冷たそうな印象を受けたが触ってみたら特に冷たくも熱くもない。
そういや昔、こういうのに紫色がまじった石を水晶だとかどこかで見たような気もするな。
これは白一色だが。
「では少しだけそのままの状態でいてくださいね」
アイシャも隣で同じように水晶に触れた。
「で、これがほわオンをプレイするのにどういう」
関係があるのかと聞く前に
「起動します」
アイシャがそう言って2秒で視界がブラックアウトした。
説明がたりないんだよなあ。
………
「…何がどうしてこうなるのかさっぱりわからん」
いつの間にか俺の視界は一転して、辺りには街並みが広がっていた。
見覚えがある、ほわオンで活動拠点にしていた街だ。
「これでもう、ほわオンにログインした状態なのか…?」
会社のロゴ表示とかサーバーの選択画面とかなにもかもすっ飛ばしてインしたんだけど、早い。
ある意味快適ではある。
ただなんだろう、俺の知るほわオンよりクオリティが10倍は上だ。
街やそこらを歩く人がリアルすぎる、そして視界も自由すぎる。
以前はここまで自由にキョロキョロしたりできなかったぞ。
女キャラのスカートの中を覗けたことがないから間違いない。
「私はこっちですよーヴォルさん」
声がしたほう、後ろを振り返るとアイシャの姿があった。
本物と比べてもほとんど変わりないがこっちだと少し幼くみえるな。
この姿のほうが見慣れたアイシャなんだけども。
「あのアイシャ…俺の知ってるほわオンと違うんだけど…」
「え、そうなのですか?私はいつもこんな感じでしたが」
アイシャにはこれがデフォルトだったのか?
どうにもいつもと違う感覚に気になってしゃがんでみたり地面を触ってみたり、空を見上げてみたりする。
「ちょっと失礼」
俺はアイシャの手を握ろうとしてみた、すり抜けた。
これは無理か、ゲームでも他プレイヤーに手を触れたり等は基本できない。
戦闘行動とか特定の設定された行動のときのみ可能だった。
「触れないのはやっぱりつらいです…」
アイシャが少し悲しそうな顔をして言う。
「そうだな、手とかこんなにリアルな分、すり抜けると幽霊の気分だ」
死んだ経験はないからそんな気分知るはずもないが、本物のアイシャとあんなことやこんなことをした後ではそういうのもわかる気はする。
「ん?あれ…俺なんか変じゃない?」
自分の腕やら顔やらは触れたので試してたらゲームにないリアルな触感とかいう以前に…
「俺だけ実際の姿でログインしてないかこれ!?」
「その姿のヴォルさんも素敵ですよっ」
いやいやそんな問題じゃねえよ。
俺はヴォルガーという自分のキャラクターの姿になっておらずTシャツにジーパンのままだぞこれ。
しかも裸足。
顔までは鏡がないと確認できないけど。
「アイシャはちゃんとゲームのときの装備つけたキャラなのになんで俺だけ普通のおっさんの姿なんだよ!?」
「普通だなんてそんなことないです!ヴォルさんはどんな姿でもカッコイイですよ!」
「あ、そ、そう…ありがとう…」
よく考えたらアイシャは最初っから俺の姿のことは特に気にしてなかったな。
ゲームのヴォルガーとは全然違うのに。
イケメンのヴォルガーとは違うただのおっさんにアイシャが落胆しなかったことは今となっては喜んでいいか悲しんでいいかわからない。
「でもなんででしょうね?私の魔力で一緒に来たせいでしょうか?」
「俺が知ってるわけないよね?」
「まあ些細なことですし、気にしないでいきましょう!まずは一緒にクエストでもやりませんか?」
気にするよ!!なんで通常運転なんだよアイシャは!
「仮にクエストやるにしても今の俺に何ができるんだよ!完全に一般人なんだぞ?」
「姿が変わってもヴォルさんはヴォルさんですよ?だってほら、パーティー表示のレベルでは以前のままじゃないですか」
パーティー表示?と考えたら視界の端にゲーム時代に見たウィンドウが出た。
☆アイシャ Lv86 HP4213
ヴォルガー Lv299 HP35200
パーティーメンバーの簡易表示だ。
☆がついてるアイシャがリーダー。
確かに俺はヴォルガーでLvも以前のままだ。
「本当だ…ステータス表示も前と変わらずできるし、内容もかわってない…けど…装備品がない」
パーティー表示ができたので他にもいろいろ確認してみたが、装備品だけは何もつけてない状態になっていた。
服一応きてんのに。
アイテムインベントリも空だ。
所持金の表示はあるな、数値だけは。
「それじゃまず装備品を買いに行きますか?」
「倉庫に予備があるはず…じゃなくてちょっと待ってくれ」
普通にゲームをしようとするアイシャは置いといて俺はフレンドリストを確認してみた。
あるのはアイシャの名前のみ。
いや俺は別にぼっちじゃなくて前はもっとたくさん友人いたし。
他のやつの名前はなんで消えた?これじゃメッセージも飛ばせない。
そうだ、ギルドの情報はどうだろう、これなら…
ギルド未所属と出た。
うおおおおい俺のギルドどこいった。
「俺のギルド無くなってる…」
「それは他の人たちはいないからですね。でも私がいますから!あっ、まずは私たちのギルド作るのもいいですよね!」
「…他のプレイヤーがいない?」
「ここは以前と完全に同じ場所ではないです、えーっと…そっちで言うところの…サーバー?ですか?来るときにあれをちょっとだけ操作して、新しい場所を作りました。だから他の人がいないんです」
そんなことできんの!?
サーバーを増設するってそれはもう運営会社の仕事だぞ!
いやもう常識で考えるのはやめるか。
疲れるだけの気がしてきた。
「前のサーバーに戻れたりとかは」
「ダメです」
「な、なんで?」
「他の人なんて必要ないからです」
アイシャの狂気も通常運転だった。
そんなことだろうと思ったよちくしょう。
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