第5話 ガラッパ荘


  何故突然この伊佐市まで来ようと思ったのかはさくらもわからない。けれど、鹿児島空港までのチケットを買ってそこからレンタカーを借りて、民宿まで予約している。あんなに忙しい最中、仕事を何日も休んでしまった。罪悪感はあるけれど、さくらは同時に清々しさを感じていた。

 1日目はとにかく温泉に入りたいと思っていた。ナビのいうとおりに運転していると、白い看板に温泉マークと緑色で書かれた「ガラッパ荘」という文字が見えた。横に長い建物で、玄関には緑色のカッパの置物が置かれている。不思議とお化けは出そうに無い雰囲気だった。えんじ色の暖簾をくぐり民宿に入る。一泊二食付きで5000円とは安月給のさくらには有難いことだった。その上温泉にまで入れる。民宿の女将さんは温泉の説明をしてくれた。温泉は民宿に隣接されていて、とても拓けた場所にあり、混浴だという。なかなか都会では見ない開放的な露天風呂だ。

「それじゃあ、内側にある露天風呂だけでいいです。さすがに恥ずかしいし。」さくらにはまだ一応羞恥心があった。

 けれど、女将さんは是非入って欲しいという。今日はさくらしか宿泊客はいないし、女性はタオルを巻いたままでいいと女将さんに言って頂けたので、さくらはそれじゃあとチャレンジしてみることにした。案外乗せられるとイエスと言ってしまうたちなのだ。

 部屋に荷物を置いてすぐさまお風呂へ向かう。内風呂で身体を洗うとタオルを巻いて外に出た。野原に裸で出て行くような気持ちだった。温泉の少し奥には滝が流れていて、緑があって、空がある。

絶景だ。


 温泉に浸かると身体が解けて行くように感じた。

さくらは、息を大きく吸って吐いた。生きている。昨日とは全然違う場所にいる。ここにはビルもない、人もたくさんいない、汚い空気もない。

 ただ、私がいる。温泉がある、そして、自然がある。それだけだ。ただそれだけ。

 温泉から出て、久しぶりに昼寝をした。驚くほど良く寝れた。夕食を出してくれた女将さんを見てさくらは思った。

 そうだ、ここには優しい女将さんもいた。

 さくらは満腹になってまた寝た。ここ何年かで一番優しい気持ちになれたような気がした。

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