第47話
「ヴィレーム、大丈夫か?」
ヴィレームの頬は、手の平の痕がくっきりついており、赤く腫れ上がっていた。
「ははっ……大丈夫な様に見える?」
心配してくるブレソールに、半ば八つ当たりの様に返した。
「本当、最悪だよ……」
「まあ、自業自得だな」
朝、扉がノックされる音で目を覚ました。しかも、返事を待たずに扉が開き何故かシャルロットが入って来たのだ。
『フィオナちゃん、ご機嫌よう〜!』
瞬間、満面の笑みのシャルロットとヴィレームは目が合った。姉の笑顔が固まる。それはそうだろう。何しろフィオナの部屋のベッドに、弟が寝ているのだ。しかも仲良く身体を寄せ合って……。自分の腕の中を覗けば、フィオナが胸元に顔を埋めて、幸せそうにスヤスヤと寝息を立てている。
可愛過ぎる!思わずニヤける。朝だと言うのに、何か込み上げてくるものを感じる……が、今はそれどころではない。再びシャルロットに視線を戻すと、怖いくらいに、笑顔だった。
『ヴィレーム、貴方、一体何をしているのかしら?』
『あ、いや、これは……違うんです』
最早どんな言い訳をすれば良いのか分からず、否定する事しか出来ない。取り敢えずヴィレームは、ベッドから起き上がり、勘違いしているだろうシャルロットを宥めようとした。フィオナはまだ寝ているのだ。騒がれたくない。
『何が、違うのかしらぁ?まさか、私の弟がこ〜んなにも、破廉恥で変態だったなんて、信じられませんわ!』
『破廉恥って……と言うかこの場合変態は関係ありませんよね⁉︎僕はただフィオナと愛を深めていただけで』
バチンッ‼︎
『っ⁉︎』
言い回しを間違えた……。
ヴィレームはシャルロットから平手打ちをくらう羽目になったのだった。
「本当に何もしてないんだ、添い寝してただけで……」
口付け以上の事は、本当にしていない。夢中でフィオナと口付けた後、安心したのかフィオナが眠たそうにしていた。ヴィレームはフィオナが眠るまで添い寝をするつもりで一緒に横になったのだが……余りの幸福感から心地良過ぎて寝てしまったのだ。そして気付けば朝だった……。
今朝の事を思い出し、ヴィレームはため息を吐く。横ではブレソールが苦笑いする。
「ヴィレーム様、あの大丈夫ですか……」
心配そうにフィオナが冷たいタオルを差し出して来た。それを礼を言って受け取る。
「ありがとう、フィオナ。大丈夫だよ。こんなの全然、大した事じゃないからさ」
彼女の前では、情け無い姿は見せたくない。にっこりと微笑みヴィレームは、虚勢を張る。
「でも流石にこの顔じゃ学院には行けないから、僕は今日は休ませて貰うよ。フィオナは、姉上達と行っておいで」
こんな腫れ上がった顔で登院した日には、間違いなく良い笑い者だ。絶対に、女性とのいざこざだと憶測を呼ぶに決まっている……。
「と言う事で、フィオナちゃん〜!さあ、変態はほっておいて行きましょう?」
変態……。
ヴィレームは、顔が引き攣る。暫くシャルロットの気が済むまでこんな扱いを受けなくてはならないのかと思うと胃が痛くなってくる。
シャルロットに手を引かれて出掛けて行くフィオナの背を見送りながら、寂しく感じるが我慢する。
さて、溜まっている仕事でも片付けるか……。
ヴィレームは深いため息を吐いた。
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