第32話

最近学院では、ある事がかなり噂になっていた……。


フィオナはご機嫌で隣を歩くシャルロットを盗み見る。自分とほぼ同じ仮面を付けている……かなり、目立っている。フィオナ達を見て、ひそひそとする声が聞こえてくる。


シュール過ぎる光景に周囲もドン引いている。気持ち悪いを通り越して、怯えている様にすら見える……。


「私もフィオナちゃんとお昼ご一緒したいのにぃ」


この半月程でシャルロットとはかなり仲良くなった、と思う。だがそれとこれは別だ。彼女の前で仮面を外す事は出来ない。故に食事などは何時も別々だ。


昼休み、裏庭に到着するとヴィレームとブレソールが待っていた。フィオナとブレソールが入れ替わり、フィオナはヴィレームの元へ、ブレソールはシャルロットの元へ行く。


「ほら、シャルロット。行くぞ」


「嫌あぁ〜フィオナちゃん〜」


シャルロットはブレソールに引き摺られながら裏庭を後にした。毎回の事ながら、苦笑せざるを得ない。


「さて、食べようか」


お弁当の包みを広げ蓋を開けると、中にはふわふわのパンにベーコンや卵、野菜がふんだんに挟まれたサンドや、カットされた果物が入っていた。今日のお弁当も実に美味しそうだ。仮面を外し横に置くと、早速一口齧り、もぐもぐとする。


「フィオナは、何時も美味しそうに食べるね」


ヴィレームの言葉に、恥ずかしくなり顔が熱くなった。はしたなかっただろうか……。


「僕は、フィオナが美味しそうに食べてる姿を見るのが好きだよ。フィオナと一緒だと不思議と、どんな物を食べてても美味しく思えるんだ」


私と同じだ……。


少し違うが意味は同じ。フィオナもヴィレームと食事を一緒に摂る様になってから、美味しいと感じる様になった。無論これまでも、好きな物、嫌いな物はあった。だがそうじゃない。


実家にいた頃は、ヨハンが一緒に食べてくれていたが、何時も引け目を感じていた。当たり前だが、食事をするには仮面を外さなくてはならない。だが、本当はヨハンの前でも外すのが嫌だった。


こんな醜い顔を見ながら食事するのは、気分が悪いに決まっている。


ヨハンは優しいから、顔や態度には出さないだけ……。


それでも、一人になるのが怖くて「もう、良いよ」その言葉は言えなかった。


何時もそんな余計な事を考えてしまい、気になって味など正直言って良く分からなかった。美味しいとか不味いとか、そんな事を思える程の余裕はなく、ただ生きる為に食べ物を口に入れる作業を繰り返していただけだ。


「私も、ヴィレーム様と一緒だととても美味しく感じます」


「そうな風に言って貰えて、僕は幸せだよ」


「ふふ、ヴィレーム様たら、大袈裟です」


愉しく話しながら食べていると、ふと視線を感じ周囲を見渡す。すると木の影に、ヨハンがいるのが見えた。こちらをじっと見ている。フィオナは驚いてパンを落としてしまった。


「フィオナ?どうしたの、大丈夫かい?」


様子のおかしいフィオナに、ヴィレームは眉根を寄せ、フィオナと同じ方向へ振り返る。ただその時にはヨハンの姿は既になかった。


「はい……多分、気の所為だと思います」




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