第30話
結局、ダンスをする事なく帰宅した。フィオナは向かい側に座っているシャルロットとブレソールを盗み見る。やはりヴィレームとは知り合いらしく、一緒に屋敷までついて来た。ヴィレームは席を外しており、気まずい……。
「ねぇ、フィオナちゃん」
「は、はい」
ちゃん付けですか……⁉︎
シャルロットに名前を呼ばれ、ビクリとなる。
「その仮面……」
深刻そうな面持ちで口を開くシャルロットに、フィオナは息を呑む。
一体何を言われるのか……怖すぎる。幾らヴィレームの知り合いだとしても、こんな仮面をつけていたら不気味に思うだろう。やはり、蔑み嘲笑われるのか……。
「なんて……なんて、可愛いのぉ‼︎」
「へ⁉︎」
急に叫んだと思ったら立ち上がり、抱き付かれた。あまりの事に、思わず変な声を上げてしまった。
「仮面も可愛いけど、う〜ん、フィオナちゃんも可愛すぎるわぁ!」
予想外過ぎて、一体何が起きているのか訳が分からずフィオナは放心状態になり、シャルロットにされるがままになる。頬にスリスリとされて、ぎゅうぎゅうと抱き締められる。
「それくらいにして貰えませんか」
その時部屋に入って来たヴィレームが、シャルロットを見ながら深いため息を吐く。
「あら、ヴィレーム。良いじゃない〜。こんなにも可愛いのだものぉ。独り占めするなんて貴方、性格悪いんじゃなくて?」
その言葉に一瞬ヴィレームの口元がピクリと動いたのが見えた。そして彼は無言でツカツカと近付いて来ると、小柄なシャルロットをヒョイと持ち上げてフィオナから引き剥がす。当然のようにフィオナを自分の膝の上に乗せると、長椅子に座った。確りと腕を回され身動きが取れない。
「ヴィレーム様⁉︎」
突然の事にフィオナは声を上げて彼を見遣ると、いつもと違うのを感じた。笑顔ではあるのだが、苛々としているのがヒシヒシと伝わってくる。
「それよりも、一体何しに来たんですか?」
「あらあら、そんなに苛々すると身体に毒よ?勿論ヴィレーム、貴方に会いに来たに決まってるでしょう?貴方が留学してから、私寂しくてぇ……だから、来ちゃった」
可愛らしく小首を傾げるシャルロットに、フィオナは不安になり眉根を寄せた。随分と親密そうに見える。もしかしたら、彼女はヴィレームの婚約者とか……十分あり得る。
ヴィレームの国は遥か遠くにあると聞いた。そんな場所からわざわざ会いに来るくらいだ。それしか考えられない……。
「ねぇ、ヴィレーム。貴方も私に会えなくて寂しかったのではなくて?」
シャルロットはヴィレームの頬に触れ、微笑んだ。そんな二人を眺めて、胸が苦しくなる。そんな時、ヴィレームはシャルロットの手を勢いよく払い退けた。
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