召喚された元勇者は、勇者から逃亡しています。

レイド

第1話〜勇者、母親になる〜

「ナナさん、ありがとうございました!」


「いえ……それほどお礼を言われるほどではないですよ?」


「いえ、ナナさんのお陰で、色々と助かってますので、あの……」


「は、はい?」


「ちょっと気になるというか、前から疑問に思っているのですが、何でいつもフードを被っているのでしょうか?未だに素顔を拝見した事がないのですけど?」


「えっと……こちらにも事情がありますので……まあ、察して下さい……」


「は、はあ……まあ深く追求しない事にしますね? それではお疲れ様でした」


「はい、お疲れ様です」


そう言ってから、私は自分の住んでいる家へと戻る。この国に来たのは……ある意味正解だったのかも知れない……今、私は……ナナとして、この国で生活している。自分の住んでいる家へ戻ると、出迎えてくれたのは


「お母さん、お帰りなさい!」


「ただ今、リアネ、ちゃんといい子でお留守番してたかしら?」


「うん、お母さんの言いつけどおり、家の中でじっとしてたよ?」


「そう、えらいわ」


そう言って、娘の頭を優しく撫でる。うん、今年で5歳になった娘は、まあ……見た目が完璧に美少女に見えるなあ……と。娘の頭を優しく撫でていると、娘のリアネが


「ところで、お母さん?」


「何かしら?」


「何で、私にはお父さんがいないの?」


「えっと……それはね……」


娘にそう言われて、どう答えようかと考えてしまった。そう言えば、今まで娘の出生の秘密を語ってはいないから……娘は知らないと思うけど、実は私……いや、俺は、この世界に召喚された勇者だったと言う事。そして……元男だったと言う事を……

事の始まりは、十年前。セレンディア王国から始まる。そのセレンディア王国では、魔王に対抗する為、魔王を打ち滅ぼせる者を召喚儀式を執り行っていた。

で、その召喚儀式がバッチリと成功して、召喚されたのが、俺だと言う事。

いきなりの展開に戸惑ったね。まず見知らぬ土地、見知らぬ建物。

ゲームなどをこよなくやりまくっていた俺が、いきなり見知らぬ場所に召喚されたからである。こういうのって、死んだ奴が神様とかに出会って、転生やらしてくれるんじゃね~か?と思ったが、神様に会った記憶が全くなし。

というか、さっきまで覚えていたのは、家でRPGのゲームをやったとこまでは覚えていたのだけど、気が付くとこの場所に飛ばされていたと言う事だった。

まあ……ゲームやライトノベルとかでよくある異世界召喚物だと気がついた俺は、じゃあ神様やらとかくれたチートぽいステータスだと思ったのだが……魔力とかを調べてみると、魔法が全く使えないただの一般人と言う事が判明。けど、その国の王様が言うには「召喚しちゃったしな、なら魔王を倒せる者として認めるしかないよなあ……」とか、ため息混じりで言いやがった。

うわ、この王様、すげ~ムカツク。

で、その国の国王から、武器と防具とお金をくれて、王様が「この装備をやるから、魔王を倒してくれ、一応お前の事は勇者として信じてるからな?」とか言って来たので、嫌だと言うと「ならこの国で強制労働だな。何も能力がないのだから、国の為に貢献するのだ、嫌なら牢獄行きだが?」とか脅して来やがった。


で……結局俺は、魔王退治を目標に、見知らぬ世界で冒険する事になってしまったのだ。

旅する事が決まって、魔王が住んでいると思われる魔王城に辿り着いたのは、召喚されてからこの世界で言う五年後になってしまった。いや、その五年間何してたかって? 色々とあったのだよ……とにかく生き抜く為に、弱い魔物から倒して行き、装備を整えて、色んな町を旅し、魔王の情報を集めながら、お金を溜めたり。エルフとか獣人の問題事に巻き込まれて何とか解決したり、ある国では「お前、使えるな」とか言われて、国同士の戦争に強制参加させられたり……盗賊に捕まって、奴隷として売られそうになって、無茶な事をしたり……一言では表せないほど、色々とあった訳ですよ。

召還されてから五年も経過しちゃったから、顔つきも微妙に変わってしまったしな……

で……まあ何とか魔王城に辿り着き、魔王と戦う事になったんだが……そこで問題が発生。

魔王が、鬼畜の変態だったと言う事だった。

何故かと言うと、俺を見るなり「っち、男かよ……男に興味ねーんだよ。丁度良い。実験してやる」とか言って、何やら呪文らしき言葉を呟くと、俺に術をかけて来そうだったので、俺は完成する前に魔王を倒そうと踏み込んだのだが、術が完成。

気がつくと……女になっていた。

いや、何を言ってるんだと言いたいが、事実だった。

どうやら魔王は、性別反転の術とか言うのを使ったらしく、その術があっさりと成功。で、見事に術にかかった俺は、そこそこ可愛い女の子にとなってしまったのだ。

いや、自分から美少女と名乗るのは何か嫌だったからな……女になった俺は、今まで使っていた剣が重くてまともに扱う事が出来なくなっていた。

まあ魔法は魔力がカラだったから、女になっても使えなくて、元々魔術なんか覚えていなかったから、魔王退治とか絶対に無理な状況にとなってしまったので、逃げようとしたのだが……魔王にあっさりと捕まってしまった。

で、魔王は女になった俺を見るなり「おお~女になった途端、いいじゃないか、我は楽しめそうだ」とか言い、なんか身の危険を感じたので、逃走を図ろうとしたが、失敗。

まあ…………一言で言うと……魔王に美味しく頂かれちゃったと言う事になってしまった。

美味しくはないか、こっちとしてはかなり嫌な状態だったしな?

いや、抵抗はしたんだけどな……けど、デブで不細工な男じゃなかっただけ、マシか……と割り切る事にした。

で、結局、何所にも行く所が無かったので、魔王城で暮らす事になりました。

勇者として、召喚されたのに、なんか囚われの姫君みたいな感じになってしまった。

しかも伽つきの。何回も魔王の相手をさせられてしまった。

自殺しようかと悩んだが、せっかくこの世界に来たのだし、それに……男だった俺が言うのも変なのだが、魔王と一緒にいるのもそれほど悪くないな……と考えてしまう程になってしまっていた。

いや……少なくとも好感はもてたのかな?

何回も愛し合ったから、なんか魔王の奥さんみたいな扱いされてたし。

魔王城での囚われ生活を続けてから数ヵ月後、魔王が……あっさりと倒されてしまった。

倒したのは、セレンディア王国が新たに雇った勇者と言う事だった。

何でもその勇者が言うには、先代の勇者が使えね~から、新しく勇者を雇ったと言う事だった。先代の勇者って俺の事だよね?どう考えても。でも、見た目はすっかりと女の子なので、元の俺とは全くと言っていいほど、顔が違ってしまっていた。 新しい勇者君は俺を見るなり


「魔王に捕まっていたのか……さぞ辛かっただろう、だが魔王はもう倒した。安心していいぞ」とか言って来やがった。

いや……よく考えたら、魔王の相手をさせられるのを除けば、随分と快適な暮らしだったんだ。それほど辛くは無かったんだよな?

家はあるし、ご飯は出てくるし、召使的な者から「お嬢様」等呼ばわりされてたしな。

はっきり言うと、この勇者は今の生活をぶち壊したのだ。

これからどうやって暮らせばいいんだって怒ってもいいと思う。

しかも、その勇者君が「よく見たら可愛いな……行く所が無かったら、俺と一緒にならないか?」とか、マジな目でプロポーズ的な事を言って来やがった。

そいつは以前の男だった俺より、かなりのイケメンだったので、なんかむかついたから、丁寧な口調で


「すいませんが、お断りさせて頂きます……」


そう言って断ってやった。だって……その勇者君には、仲間に魔法使いの女の子がいたし。

しかも、物凄い目で俺の事を睨んでたしな……多分魔法使いの女の子は、この勇者君の事が好きなのだろう。「ちょっと勇者、魔王は倒したんだから、早く帰りましょうよ?」とか言っていたしな?結局……どうなったのかと言うと、勇者君パーティについて行く事にした。

いや、魔法使いが魔王城を最大魔法攻撃で、吹っ飛ばして木っ端微塵にしちゃったしな。

もしそれをやられてたら、魔王と一緒に成仏されられていたのかと思うと、この魔法使いがもう勇者でいいんじゃね……とか思ってしまった。

勇者君パーティに付いて行く事になり。五年ぶりにセレンディア王国に戻って来た。

勇者君パーティは、盛大に歓迎され、王様が

「実はのぅ~勇者よ? 姫を貰ってくれないかの?」とか勇者君に言っていた。姫もなんだか満更でもない様子で顔を赤くしながら、チラチラと勇者君を見ているのでこれはあれか?「魔王を倒したから、勇者に姫を貰ってほしい」とか、ゲームとかであるイベントじゃないか?これ。

勇者君はどうすんだ?って見ていると


「いえ、私には勿体無いです、実は……以前から好きな人がいますので、その提案にはお断りします」と言って、断っていた。

以前から好きな人……? それって何か嫌な予感がするんだが……

それを聞いた王様が


「そうか……ではそなたが好きな子は一体誰なのかの?」


「はい!そこにいる彼女です!」

と、俺を指差して言って来やがった。


「……そなたは誰かの?」


「……魔王に捕まっていた、ただの一般人です。たまたま勇者様に助けて頂いただけです。それだけの関係です。勇者様には私なんかより、もっとふさわしい人がいると思いますので……あと勇者様に告白されましたが、きちんとお断り致しました」


流石にこの姿で、元勇者とは言えないしな……というか、こんな王様に今の俺の真実を語りたくない。俺がそう言うと、空気が死んだような感じがした。

無言の圧力と言う感じ。早くこの場から逃げ出したいと思ってしまうし。しかも、魔法使いの女の子と皇女の視線が物凄い目で俺の事を睨んでるし。けど、勇者君がそんな空気を読み取ってないのか


「いや!俺は諦めない!是非、貴方を俺の妻にするぞ!」


人の話を全然聞いてなかった。しかもちゃっかりと王様の前で宣言なんかしちゃってるし。

これ……嫉妬に狂った魔法使いやらに殺されそうな感じがした。

なので俺は


「お断りします! 私の事は諦めて下さい!」


そう言って、勇者君達から逃亡する事にしたのだった。勇者君達から何とか逃げる事に成功した俺は、勇者君達に見つからないように、別の国で生活しようと考えた。別の国に辿り着いて、そこに何とか居続ける事になって数ヵ月後。後で解ったんだが……なんかお腹が膨らんでるな……と思って、王国にある医者に確認してもらった所、おめでたですね? おめでとうございますと言われてしまった。

……つまり俺……妊婦になっていたと言う事が発覚。医者に「おめでとう、旦那さんよろこばれますよ?」とか言われたが、勿論旦那なんかいない。と言うか……結婚してないのに、そう言われて複雑だった。

その相手というのが……まあ、魔王としかやってないから、魔王の子となるんだよな……と。と言う事は、生まれたら次期魔王候補となるのか?というか……産んでいいのか?と凄く悩んだが……

結局、産む事に決めた。

で、無事に生まれたのが女の子だったので、名前を「リアネ」と名づける事にした。

まあ、「リア充死ね」から取ったんだけど、まあ……なかなかいい名前だと思う。

で……俺は、娘のリアネを大事に育てる事にして……

今現在にいたると。


「えっと……リアネは、お父さんがいた方がいいのかな……?」


「ううん、ちょっと気になっただけ。私はお母さんがいるだけで十分だもん」


「そう……ありがとう」


リアネにそう言われてちょっと嬉しくなってしまった。とりあえず……今後の方針は、あの勇者君から逃げながら、娘のリアネを大事に育てて行こうと思っている。あの勇者君、魔法使いと結婚したとかま~ったく噂がないし。あれから五年経過したいまでも、もしかしたら……私の事を狙っているのかも知れない。それに……もし魔王の娘と解ってしまったら、討伐対象と認定されてしまうかもだし……とりあえず、この国、バイトール国でやっていこうと思うのだった。

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