第206話 報告
星形要塞都市ゴリョウカクにある皇宮殿。
ギフより戻ったラファエルがアザエル陛下に謁見していた。
アザエルには全てが伝えられている。魔界門を開く条件だけでなく、真実を伝えるために見逃されたことまで。
アザエルにとっては受け入れ難い話だ。望んできた種の存続。今まで信じてきた方法が根本的に間違っていたなど、容易に認められるはずはない。
しばらくは口を噤んでいたアザエルであったが、ようやく飲み込めたのか頷きを見せている。
「そうか……。女神マナリスは存在するのだな……」
「そのようです。人族の血を引く我らですが、彼女を軽視しすぎていたのかもしれません。何しろ人族にしか神託を与えていないのですから……」
真相とは異なったけれど、ラファエルはそれが罰ではないかと考えている。もし仮に天主に加担することがあるのであれば、切羽詰まるまでに誰かが神託を受けていたはずだと。
「人族が崇拝する女神が存在するのなら、この結果は疑いないものだ。ラファエル、余は神に抗おうとしたのだろうか?」
アザエルが聞いた。天軍の滅びは必然。子を成せなくなったのは女神の加護がなかったから。天主は世界を治める神と戦っていたように思えている。
「今となってはです。我ら天主はもっと早く動き出すべきでした。気付いた頃には戦争しか手段がありませんでしたから……」
ラファエルの話は人族との対話について。人口が減り始めた段階で彼らと手を結ぶべきであったと今さらながらに考えている。女神の寵愛を受ける彼らであれば、何かしらの手段を発見できたかもしれないのだ。
「ラファエル、我らに残された時間はどれくらいある?」
アザエルは問いを重ねた。その問いは全員の寿命が尽きるまでの時間である。
「恐らくは五十年と持ちません。陛下も私も軍民たちも……」
「短いな……。我らは千年と存在した。しかし、今となってはもう滅びしかない。この世の魔素を枯渇させられるだけの時間も人員も残っていないのだからな……」
かつて起きたという地上の魔力枯渇は人族によって引き起こされていた。世界中に存在する彼らが無尽蔵に消費したせいであり、三百人弱しかいない天主には不可能である。それこそ全世界を統一でもしない限り。
「余は地獄になど落ちとうない。ラファエル、我らの罪はどうなる? 女神マナリスはどう考えるだろう?」
アザエルは現存する天主で最も高齢である。体調的には問題などなかったが、近いうちに寿命が尽きるのは明らかであった。
迫る死後の世界。アザエルは神話に聞く地獄というものを思い描いている。
「一つだけ贖罪の方法がございます……」
八方塞がりであったはずが、ラファエルはアザエルの質問に回答を持っていた。
静かにその提案を聞くアザエル。表情は全てをやり終えたかのように穏やかなものであった。
天軍は滅びを受け入れつつも、新しい方向へと歩もうとしている……。
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