第6話 玲奈との距離感
学校までの道のりは一八が走っても三十分あまり。ちょうど半分が過ぎた頃、一八の視界に見慣れた後ろ姿が入った。
直ぐに誰であるのか察した一八。知らぬ振りをして走り去るのも手であったが、両親が共に仲が良いこともあって無視するわけにはならない。
「よう、玲奈……」
背後から声をかけた一八だが彼女を見間違えるはずもない。十七年以上も見てきた背中だ。幼馴染みという間柄は声かけを躊躇させなかった。
「なぬ? 一八か! 今朝に続いて登校時にも貴様に出会うとはついてない……」
玲奈は相変わらずだ。表情こそ笑顔であったが返される言葉は心に痛みを感じるもの。前世を考えると当然であったけれど、一八としてはいい加減に忘れてくれないかと考えてしまう。
「仕方ねぇだろ? 学校は違うが敷地は隣り合っているんだ。同じ学校法人が経営しているからな……」
一八が通うアネヤコウジ武道学館と玲奈の母校であるカラスマ女子学園は経営母体が同じ。しかも敷地は隣り合っている。
「まあキョウト会とすれば貴様たちの学校は計算違いだっただろう。武道を追い求めた結果、学力が畜生レベルとなってしまったのだから……」
「まあ、そのおかげで俺は入学できたけどな……」
学校法人キョウト会はキンキ共和国に八つの高校を展開している。国立ではなかったけれど、何かに特化した高校を目指すことで差別化を図っていた。
一八のアネヤコウジ武道学館はその名の如く武術特化であり、玲奈のカラスマ女子学園は魔法に特化した魔道士の学校である。
「それはそうと早い登校じゃないか? 朝練でもあるのか?」
玲奈が聞く。もちろん柔術部の朝練はあるのだが、一八が早く家を出た理由はそれではない。
「いや、俺は生徒会長なんでな。始業式の準備とやらで朝早くからの登校なんだ……」
玲奈は生徒会長ではない。だからこそ一八は少しばかり得意げに語った。自分も何かしらの役割を持っているのだと。
「ふん、私だって一応は生徒会の役員だ。殿下を差し置いて私が生徒会長をするなどあり得んからな」
「その殿下って何者だよ? よく聞くけど上級貴族と知り合いなのか?」
中学時代から耳にするようになった言葉。確かにキンキ共和国には貴族も存在したけれど、前世と比べると貴族階級は少なく権力自体も現在では殆ど有していない。
「貴様が知ることではない。個人的な話だ……」
いつも返答はもらえない。割と気になっていたというのに、玲奈はそれを秘密にしたままである。
「まあいいけどよ……」
「さあ小汚い豚小屋に着いたぞ? じゃあな、一八。私はエリート校の生徒なので、これで失礼する……」
言って手を振って玲奈が去って行く。
一八は隣接するカラスマ女子学園に入っていく玲奈を見送るようにしていた。憎まれ口を叩くのは日常であったものの、どうしてか彼女は一八を無視しないし、なぜか親しげに接する。前世を考えると憎しみしかなかっただろうに、辛辣な言葉以外は平然としたものだ。だからこそ一八は困惑し、適切な距離感が掴めなかった。
「全くわけが分からん……」
言って一八もまた学校へと入っていく。このあと起きることを彼は予測できていない。思いもしない事態に発展するなど今の一八が予期できるはずもなかった。
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