前世は精霊に愛された純粋な青年でしたが、今度は絶対に報われない恋なんてするもんか。
ありま氷炎
第一章 精霊に愛される少女と王女の面影を持つ騎士のもどかしい交流
第1話 精霊に愛された少年は、王女に恋をした。
むかし、むかし。
人里から遠く離れた森の中で、ひっそり暮らす少年がいた。
少年は一人であったが、精霊に愛され、不自由なく暮らしていた。
ある日、森に美しい少女が迷い込んだ。
少女は長い間森をさまよっていたらしく、怪我をして弱っていた。
少年は初めて自分以外の人を見て驚いたが、熱心に看病を続け、数日後少女は元気を取り戻した。
少女はこの国の王女で、命を狙われこの森に迷い込んだということだった。
命が狙われているのならと、少年は王女にこの森で暮らすことを提案した。けれども彼女は王女であり、もしかしたら王の命も危ういかもしれないと、城に戻ることを選んだ。
悲しい気持ちになったが少年は王女を城まで送ることにした。
初めて森を出る少年は不安であったけど、王女のことを想って決心した。
精霊たちは少年を止めたが、彼の決心は変わることは無かった。
森を出て運よく少年は、王女を探す騎士の一団に出会った。少年を見たとたん、剣を抜いた騎士達を止めたのは王女で、命の恩人だと説明した。
けれども、騎士達は信じず、王女は泣く泣く少年に森に帰るように伝えた。
いつか、お礼に来るからと言って。
それから数年、少年は青年へと成長し、王女との思い出を胸に生きていた。
そんな時、森に再び人が侵入した。
けれどもそれは王女ではなく、あのときの騎士の一人だった。
騎士は王女の命が危うく、助けれてくれと頼み込んだ。
精霊たちが止めたにもかかわらず、彼は森を出て城に向った。
馬を駆って城へ向う途中、彼は人々から奇異な視線で見られることに気がついたが、急いでいることもあり、ひたすら先に進む。
城に到着すると驚いたのは王女で、彼女は騎士を叱りつけた。
そんな王女を落ち着かせて、騎士は彼に説明した。
王女を狙って隣国が攻めてきていると、精霊の力を使って隣国をやっつけてくれないかと。
青年は王女に恋をしていた。
なので迷うことなく王女のために、彼は精霊の力を借りて戦った。
しかし戦いに出て行く度に青年は弱っていった。
王女は心配になって尋ねるが、彼が答えることはなかった。
精霊が見えない王女だが、精霊は文字を書いてその理由を告げる。
精霊の力を使うには、代償が必要だと。
青年は己の精気を精霊に与え、力を借りていた。
国のことは大事だけど、彼を犠牲にすることはできないと、王女は青年に戦うことをやめるように伝えた。
けれども、青年はあなたが笑っている顔を見たい。
と戦いを続けた。
隣国は青年が振るう五つの精霊の力によって滅び、王女の国は更なる発展を遂げた。
「王女様。ずっと笑っていてください。僕のために」
青年はそういい残し、その生を終えたといわれる。
めでたし、めでたし。
「……なにが、めでたしなんだか」
何度も何度も聞いたことのある物語。
この国では知らぬものがいない美談だ。
百年前の出来事だと言われているが、正確には八十八年前だ。
ラダは手に持っていた絵本を閉じると、その店を後にした。
どの絵本を読んでも結論は同じだ。けれどもラダは密かな期待を持って読んでしまう。
期待はいつも裏切られるけど……。
終わりはいつも青年の死。
事実と変わらない。
さすがに「精霊に愛された悲劇の青年」では王女の結婚まで触れている物語はないが、ラダは知っている。
あの後王女がどうしたのか。
その物語も対比されるように人気だ。
王女が青年を好きでいてくれたか、今となってはそれさえもわからない。
「報われない恋なんて、もう絶対するもんか!」
青年の生まれ変わりのラダは、前世の記憶を思い出した時に決めた。
今度こそ、報われない恋はしない。
王女、いや王子なんかに恋はしないと。
犠牲なんてとんでもない。
あの純粋な青年の生まれ変わりとは思えないほど、ラダは現実を見据えた少女だった。
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