神域と呼ばれる森の守り人一族の最後の一人である私は一緒に暮らしていたおじいちゃんが逝ってしまったのを機にこんな誰も住んでいないクソ田舎を脱出して都会で生活するんだと夢見ていたけれど現実は上手く行かない
1-24 ゴーレムVS死霊VS都会女VS上京したい
1-24 ゴーレムVS死霊VS都会女VS上京したい
そして戦いが始まった。
ドォンッ!! と衝撃と共に地面へと落着し、ぶわりとその腕を雑然と振るって、辺りの相手をまとめて吹っ飛ばした。
「わぁ……」
「すげぇ……」
脚部に取り付けられたキャラピラが唸りを上げて、搭乗型思考兵装を水平移動させる。
その場にいる何よりも速く、強靭だった。
パンチの一発で、
圧倒的だ。
圧倒的な強さ。
この森の中で最強の生物である怒れる粘性生物よりも圧倒的に強そうに見えるくらいの強さ。
それがそこにあった。
『ダメじゃの』
えっ……? なんで……?
『ゴーレムはともかくとしてあれじゃあ我が同胞にはなんのダメージにもならんのじゃよ』
……、そうだった。
黒く半透明で実体を持たない
じゃあなんで
それは
人が怖い幽霊がいると思い込んでその噂が広がると幽霊が本当に強い力を持ち出したりすることがある。それはそういう場の勢いみたいなものに感化されやすいために引き起こされる現象なのだ。
故に本当は特になんともなかったとしても吹っ飛ばされそうなことをされると吹っ飛ぶし、叩き潰されそうなことをされると、叩き潰される。
ただ、少し経つとけろりとした様子でもどってくる。
その上私たちには
そうすると無数に襲ってくる大量の
こういう思い込みが
でも、その点で言えばアーシアは全然問題なさそうだ。
ただ、千日手でもある。
アーシアの操る搭乗型思考兵装の攻撃はあくまで物理だ。
バカでかい腕をそのままブンブン振り回したり、ズギャンッと拳を振りかざしたり、キャタピラのついた脚部で突貫していったり。
ゴーレム部隊の方の数を減らすことは出来るけれど、
「うーん! やっぱり物理じゃダメだぁ!! 行くよっ、新必っ殺ぅ!!
何故かここまで聞こえるような大声でアーシアが叫んだ。
多分何か新しいことをするにあたってテンションをあげるというのは大事なのだろう、多分恐らくメイビー。
スカスカの胴体部の背面からキュルルルルゥと十本程度のワイヤーのようなモノが広がって伸び、ドスドスドスッ!! と手近にいるゴーレムの体に突き刺さった。
「うぉぉぉぉぉおぉぉおぉぉっぉっぉぉ!!!!」
楽しそうな絶叫と共にブゥンという音がアーシアの操る搭乗型思考兵装から発せられる。
なるほど、やっぱり思考兵装というだけあって、搭乗者の感情というかテンション感みたいなものと連動しているところがあるのだろうか。
『思考兵装っていうのは思考通りの動きをさせることが出来る装備品のことであって、感情による出力増幅機構を内蔵しているモノのことではないけれどもね』
違ったらしい。
しかし、アーシアの雄たけびに呼応するかのように搭乗型思考兵装も両腕をクワッと広げて頭を天へと震わせる。
そういえば、あの頭はなんか付いている意味があるんだろうか……?
その瞬間頭頂部がピカッ!! と輝いた。
同時にゴーレムと相対していた
何が……? と思ったら、
『ほう、なるほどのぉ。あの
クリアクリーンな王様が音もなく手を叩いて説明をしてくれた。
「ギョギョギョギョ、ギュェェェェ!!」
ゴーレムに
だけれど、アーシアは待たなかった。
変わっていくゴーレムの姿を全然気にも留めないでいきなり搭乗型思考兵装の剛腕で叩き潰した。
……、自分で変化を促しておいて、その結果を見届けることなく叩き潰すなんて、なんて酷い……。
しかしそれでも全ての憑依ゴーレムを叩き潰すことは出来なかった。
全高は元のゴーレムのおよそ二倍になり、人型っぽい茶色の土塊の塊だった体はフードマントを被った真っ黒いアサシンのような格好へとなり変わった。
しかし、それでもアーシアが操る搭乗型思考兵装とは二倍近いサイズ差がある。
ギュオンッ!! と憑依ゴーレムが搭乗型思考兵装へと両腕を使って組みついた。
アーシアは太い二本の腕を使って、それを防ぎ、巨木のような脚部を動かして、反撃に転じる。
ズゴッ!! と轟音が響き、木々がざわめいた。
今までだったらアーシアの一撃でゴーレムの体はバラバラになっていたはずだが、憑依ゴーレムの体は頑丈だった。
それでも蹴りの勢いは殺せなかったようで、巨体をギャリギャリ鳴らして、地面を抉りながら水平移動していく。
「キシャリリリリリリリャリャリャリャリャッ!!!」
憑依ゴーレムが吼えた。
するとそれを呼び水にするかの如く、
彼らは学習したのだ。
目の前のゴーレムと融合すると強くなれるぞ、と。
「マジぃ!?」
アーシアの叫び声はデカかった。あの駄肉よりももっとずっとデッカかった。
背面のワイヤーを再度展開して、ゴーレムに憑依してアサシン型へとなり変わろうとするモノ達に先制攻撃を加える。
だけれど、数が多すぎて追っつかなかった。
何体かは変身直後に潰せたけれど、数百に近い数のアサシン型憑依ゴーレムが出来上がってしまった。
ゴーレム
「なあコレ、ちょっとまずいんじゃ……」
「私もそう思う……」
思わずエイド少年と顔を見合わせる。
『大丈夫じゃよ、まだいける』
本当に……?
『あの
本命……?
『見てれば分かるよ、見ていれば』
「なんかそんなに心配する必要ないみたい」
「……、本当か?」
次から次へと襲ってくる憑依型ゴーレムを右に左に躱して、脚部のキャタピラを全開にして距離を取ろうともがくアーシアを見ながら、エイド少年が念を押すように確認してきた。
私も心配になるけれど、このスケスケトントンの王様が大丈夫っていうなら多分本当に大丈夫なのだろう……。
「……、多分何とかなるんじゃない……?」
元々私の意見ではないので、私自身には自信は一切なかった。
『あの
「えっ……?」
口しか出さない死人の王様が、そんな忠告をくれるのと私たちの前に黒いフードを被った憑依型ゴーレムが躍り出すのは同時だった。
ガションッ、ガションッ、ガションッ!! と駆動音を鳴らして、古城の壁面を垂直に登ってやってきた。
私たちの一、五倍はあろうかという体躯で全体がフルプレートメイルのような黒ずくめ。
特筆すべき武装はないが、脚部に備えたローラーが滑るような挙動を実現させる。
それは攻撃能力よりも機動力を重視したような形のゴーレムだった。
それが、私たちを囲うように三体もいる。
大胆不敵、絶体絶命、ピンチはチャンス、背水の陣、四面楚歌。
ピンピンピンチだった。
「
逃げ場もないので、咄嗟にその場に盾を作り出す造魔式を使う。
「お前そういうこと出来たのかよ!?」
「一応これでも森の守り人なので……!!」
それは私たちと相手を分断する壁として機能させるもの、ではなく、足元の石レンガの均衡を崩して、床を底抜けさせるためのモノだ。
バギッ!! と床が抜けて、私とエイド少年と、それから憑依型ゴーレムとがまとめて階下へと落ちることになる。
「落ちるじゃねぇかぁぁぁ!!」
空中で絶叫するエイド少年の手を引っつかんで、抱き寄せて何とか転がって落下の衝撃に備える。
ドンッ!! と全身を強く殴打してしまった。
息が止まりかける。
ゴロゴロゴロと階下の石畳の廊下を転がって、落下の衝撃を何とか和らげる。
「お、おいっ……、リリア大丈夫かよ……!?」
「いっ、痛たたたぁ……。あなたの方こそ何ともない?」
「俺はお前が庇ってくれたから、何ともないけど……、ちくしょう、カッコ悪いな今の……」
「まあ私がやったことだから、あなたが対応取れないのは仕方ないって諦めて」
『いちゃついているところ悪いが、あちらさんお主たちを探しているぞ』
バッ!! と視線を移動させると、瓦礫と砂煙でこちらのことを見失っているみたいだった。
これ幸いと私はエイド少年の手を引いて走り出す。
多勢に無勢だし、あんなものと正面切って戦うなんて馬鹿な真似は出来る限りやりたくない。
「これからどうするんだ……?!」
「と、とかく逃げる……!!」
幸いこの古城はモノはほとんどないけれども、広さがある。お城という構造上影になる場所も多いので鬼ごっこかくれんぼならば何とかなるはずだ。
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