第39話 極東料理はとても味わい深くておいしかった

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〜作者からのメッセージ〜

本日は2話投稿です!!

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 シノビの皆さんが村の仲間に加わってから1週間。村の風景ははまた変わった。


 シノビの皆さんが住むエリアは、極東の街並みを再現している。木造の屋敷がずらっと並んでいる。夜になると等間隔で並んだ極東大陸式の街灯に火を灯し、それが幻想的に通りを照らし出すのだ。それがなんとも異国情緒あふれていて、僕はとても気に入っている。


 土地を新しく開拓し、極東大陸風の公園も作った。大きな池を中心に、石製の”燈篭”と呼ばれる背の低い街灯や”松”という針葉樹を配置した。本当は”コイ”という赤や白や金色の派手な色をした魚を放すのが極東流の庭園なのだが、流石に手に入らなかった。


 ……ので、代わりに水棲モンスター”カメレオンナマズ”を5、6頭放している。気分によって赤や白や金色に光り輝くモンスターである。牛を丸呑みできるほど大きいモンスターだが、僕の”刻印魔法”で強化された村人ならもし間違って池に落ちても食べられる前に池から脱出できるので危険はない。


 キャト族の皆さんに生息地の情報を集めてもらい、村のみんなで捕獲しに行ったのだが、シノビの皆さんによれば


『なんというか、コイというのはこういう感じではないんですよね……これはこれでまた別の趣があって良いのですが』


 という微妙な評価である。


 公園の端の方には、”竹”という緑色の細い樹のような不思議な植物の群生する林があり、その中も散歩できる道も作った。


「これは我らの国の、神の住まう世界と人の世界を区切るための門……なのですが、ここには神はいないので、単なる故郷を思い出すための模造品です」


 そう言ってシノビさんが紹介するのは、”鳥居”という朱色に塗られた門だ。これが、竹林の中にずらっと並んでいる。模造品とは言え、非常に雰囲気がある。夕暮れ時にこの辺りを歩くと、別世界に来たような気分になる。


 公園の一番大きな通りには、”桜”という樹を等間隔に植えて、腰掛けと机も用意した。春になるととても美しい花が咲き誇り、その下で宴を開くのが伝統らしい。今から楽しみだ。


「そして、こっちは随分のどかな風景ですね」


 僕達は、畑エリアに足を運ぶ。1週間で、畑も拡張して極東大陸の食材を育てる区画も作ったのだ。


 そこには、新しく作った区画で極東大陸の穀物が豊かに実っていた。普通の畑と違って”田んぼ”という水を張ったところで穀物を育てるらしい。変わった穀物だ。


 まだ穀物を植える前の田んぼが見渡す限り並んでいる。波1つない水面には青空が映り込んでいて、鏡のようだ。


「ああ、懐かしいですねこの光景。極東大陸にいたころも、私はこの風景が好きでした」


 隣に立つカエデがふとそう零す。


 畑には、他にも極東の作物が実っている。しかし、それはこの大陸の人間としては不思議なものばかりだった。


「カエデ、この”ネギ”っていう地面から生えた緑の茎、本当に美味しいのか?」


「はい。独特の風味があり、おもに煮物や焼き物にして食べます」


 正直なところ、雑草の王様にしか見えない……。


「そして、こっちに生えている”ユズ”と”スダチ”っていう小さなオレンジはデザートに食べるのか?」


「いえ、それは味付けに使います。肉や魚に味付けとして絞ることが多いですね」


 ステーキにオレンジジュースを掛けるような味になるのだろうか。極東の料理は不思議だ……。


「そして、こっちが”三つ葉”、”山椒”、”シソ”、”大葉”……全部ただの草じゃないのか?」


「草ではありません、これも極東料理で使う大事な調味料なのです」


 正直なところ、立て看板さえなければ雑草が生えているようにしか見えない。


 子供のころ、マリエルとままごとをして『召し上がれ、あ・な・た♡』と雑草を手でちぎって盛り合わせたものを出され、食べたことがある。当然めちゃくちゃ青臭くてまずかった。これだけ草を使う極東料理は、同じ味がするのではないかと少し不安になってきた。


「あとは、主殿が作った渓流の中で栽培している緑の巨大な根っこのようなものは”ワサビ”という調味料です。他にはミョウガと生姜というものもの育てていて……」


 調味料に使う植物の数多いな!


 極東大陸の人間は、目についた草を全て料理の味付けに使えないか試しているに違いない。


「では主殿、そろそろ実食会と行きましょう!」


 シノビの皆さんが、各自の家に食材を運んで調理を開始する。


「シノビの代表として、私も手伝いを……」


「カエデ里長は座っていてください。里長は忍術の腕はずば抜けていますが、料理は壊滅的に下手ですから」


「ぐぬぅ……」


 不満そうなカエデと一緒に、極東風公園の桜の木の下のテーブルについて料理を待つ。他の村人達も自宅からテーブルを持ってきて、極東料理が届くのを今か今かと待っている。ちょっとした宴だ。


「お待たせしました!」


 テーブルに次々と料理が運ばれてくる。


 まず、運ばれてきたのは茶色いスープ。中には白い立方体が幾つか浮いている。


「さぁ、お召し上がりください、主殿。これは”味噌汁”という極東大陸のスープでございます」


 カエデが身を寄せてスープを勧めてくる。


「これまで嗅いだことのない香りがするな……これは一体何のスープなんだ?」


「大豆です」


 大豆はこの大陸にも存在して、僕もよく食べている。口に合わないということはないだろう。


「すりつぶした大豆を熟成させたペーストを溶かしたスープです。そして、中に浮いている白い立方体も大豆です」


「え?」


「”豆腐”という大豆をすりつぶして再度固めたものでございます。そして、浮かんでいる茶色い帯のようなものが”油揚げ”という”豆腐”を油で揚げたモノになります」


「大豆のスープに、固形化した大豆と固形化した大豆を具として入れているのか!?」


 極東大陸、大豆以外に食べものがないのか……?


 などと考えていると、また新しい料理がテーブルに運ばれてくる。


「こちらの単品の豆腐ですね。細切れにしたネギを載せて食べると美味です」


「この大豆キューブ、味噌汁の具だけじゃなくて単品でも食べるのか?」


「はい。こちらの”醤油”という大豆ソースをおかけください」


「ソースも大豆」


「そしてこちらの茶色いのが、”納豆”という発酵させた大豆です。醬油を掛けてお召し上がりください」


「またまた大豆……!?」


 気が付くと、テーブルの上には大豆料理ばかりが並んでいた。


 大豆の具と大豆の具が入った大豆スープと、発酵させた大豆とすりつぶして再度固形化した大豆に大豆のソースを掛ける。大豆尽くしだ。『実は食器も大豆でできているんですよ』とか言い出さないだろうな。


 大豆以外には、味噌汁と豆腐の上に少し乗ったネギという茎しか見当たらない。極東大陸の人間は、大豆が好きすぎる……!!


 珍妙な文化だなぁ。


 僕はそう思いながら、特に味に期待せず味噌汁という大豆スープを口にする。すると――


「あれ、美味しい――」


 なんだろう、不思議な温かみがある味だ。初めて口にしたはずなのに、とても懐かしいような気持ちにさせられる。


 続いて醤油を掛けた豆腐。


「なんだろう、ひんやりして柔らかい触感がこの大陸にない味を出している……! しょっぱいソースも美味しいし、上に乗ったネギのシャキッとした触感と味が凄くいいアクセントになっている……!」


 次に僕は少し勇気をだして、ねばねばした”納豆”という発酵大豆に手を伸ばす。しかし、これも美味しい!


「すごい、全部大豆で作られているはずなのに全部違う味がする……。不思議だ……」


 よくわからないが、美味しい。そして味付けが濃くないので、全然飽きが来ない。しかも全然脂っこい料理がないので、とても健康的なはずだ。


「そしてそこへ、この”三つ葉”をいれると……」


 カエデが、”三つ葉”という草を味噌汁に浮かべる。あの、畑に植えられていた雑草のような草だ。


「なんだこれ、凄くこう、上品な香りがして別の料理になったみたいだ……」


 更に色々な料理が運ばれてくる。


「焼いただけの魚に”スダチ”って小さいオレンジを絞ると、それだけで凄く美味い……!」


「焼き魚には醤油を掛けるのも美味しいですよ」


 勧められた通りの食べ方をすると、それもまた美味しい。そして味の濃いものを食べると、主食である”米”がとても美味しく食べられる。するとまた焼き魚が食べたくなり……。食事をする手が止まらない。


「あっという間に間食してしまった。美味しかったよ、極東大陸の料理、凄いなぁ……!」


「これが極東の食文化です。ふふふ、これでもまだほんの一部ですよ」


「里長は今回何もしていないでしょう」


 と突っ込んだシノビが、カエデに小突かれている。


「宮殿で食べたときの極東料理より、こっちのほうがずっとおいしーい! メルキス、この”唐揚げ”っていうフライドチキン美味しいよ! メルキスも食べてみて!」


「こちらの”すき焼き”という肉料理、とってもおいしいですぅ~」


「この肉貰いました! この肉も! この肉も! 全部私のものです!」


 マリエルとナスターシャも本物の極東料理に大満足のようだった。シスターのリリーさんに至っては、周りの人の皿から肉料理を強奪して片っ端から口に入れている。


「ニャー、魚料理の種類が増えて、ボク達も幸せなのですニャ!」

「ペーストにした大根と大豆ソースを付けて食べる焼き魚、最高なのニャ!」


 キャト族の皆さんも魚料理が口に合うようで、凄い勢いで平らげている。


 一方で、シノビの皆さんも逆にこの大陸の食べ物に感銘を受けていた


「この麦で作った酒、極東大陸にはなかった美味さです! そして、焼き鳥の旨さを引き立てる! 無限に! 焼き鳥が! 食べられる!」


「領主サマ、この鶏肉と茎を串に刺した料理、美味いしビールにめちゃくちゃ合いますぜ!」


 口の周りを泡だらけにしたタイムロットさんとシノビさんが肩を組んで笑っていた。


 遥か遠くからきて、文化が異なるシノビさん達だが、食が交流の架け橋となり、すっかり他の村人さん達と仲良くなっている。


 こうして、また1つ村は発展したのだった。


――


 翌日。


 僕の屋敷に、王都から郵便が届いた。


 丁寧に箔押しされた便箋には”王国武闘大会のご招待”と記されていた。


「そうか、今年ももう武闘大会の季節だったな」



~~次回より新章『王国武闘大会編』開幕!!~~



〇〇〇〇〇〇〇〇村の設備一覧〇〇〇〇〇〇


①村を囲う防壁


②全シーズン野菜が育つ広大な畑


③レインボードラゴンのレンガ焼き釜&1日1枚の鱗生産(百万ゴールド)


④図書館


⑤広場と公園


⑥華やかな植え込み


⑦極東風公園 [New!!]


⑧極東料理用の畑 [New!!]


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

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