第17話 希少種ドラゴンのブレスをコピーする

 村に、敵襲を告げる鐘の音が響く。


 屋敷で事務仕事をしていた僕も、剣を手にして慌てて飛び出す。


「ドドド、ドラゴンだ! ドラゴンがこの村めがけて飛んでくるぞ! それも上位種! 戦えるやつは武器をとれ! それ以外のやつはすぐ逃げろ!」


 高台で見張りをしていた冒険者さんが、叫んで回る。


「ドラゴンだって……!?」

「嘘だろ、勝てる訳がねぇ!」


 村の冒険者さんたちの顔が真っ青になる。


 ドラゴン。モンスターの最強種の一種。


 モンスターに分類されるが、他のモンスターとは一線を画す。高度な知性を持ち、人との意思疎通も可能であるという。


 人と友好的な個体もいるが、人類が嫌いな個体もいる。そして、人を嫌い村を襲う個体は、災害と同等に扱われる。


 ドラゴンに敗れて地図から名前が消えた街は1つや2つではない。本来なら王都に連絡して、龍討伐専門部隊の派遣を要請するべきなのだけど……。


「ドラゴン、双眼鏡がなくても見えるところまで来ています!」


 専門の討伐部隊は、とても間に合わない。


「……僕たちでやるしかない。マリエル、避難の指揮をしてくれ!」


「わかった! メルキス、無茶はしないでね! 危ないと思ったらすぐに逃げて!」


「冒険者さんたちは、僕と一緒にドラゴンを迎撃しましょう!」


「「「了解!」」」


 村人さんたちが強くなったと言っても、ドラゴンは油断できる相手ではない。どころか、真っ正面からやりあえば勝率は低い方だ。


「領主様。戦う前に1つ、お願いがあります。どうか俺たちが危なくなっても、身を挺して俺たちを庇う様なことはしないでください」


 タイムロットさんが真剣な顔でそう切り出す。


「領主として、領民を守るのは当然のことです」


「それでも、やめてください。俺たちのために領主さまの身を危険に晒すのは、死ぬより辛い事です」


「……そこまで言うのであれば、わかりました」


 だけどせめて、可能な限り村の皆さんを危険に晒さずに戦おう。僕は密かにそう決意する。


 僕と冒険者さんたちが村の正門前に集合する。


 ドラゴンはもう、はっきりと見える距離まで近づいていた。


 息を呑むような、美しい虹色の体。大きさは家一軒ほどでドラゴンとしては小柄だが、うちに秘めた凄まじいエネルギーがここからでも感じられる。


 そしてどのドラゴンの体を、黒いモヤが覆っている。あれはなんだろう?


「ドラゴンの中でも最上位種の1つ、レインボードラゴンじゃないか……!」


「くるぞ、全員迎撃準備!」


 村の冒険者さんたち全員が、武器を構える。


『GOAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 威嚇するように、ドラゴンの咆哮が響く


『矮小な人間ども! 貴様ら如きが我に敵うと思うのか!』


 ドラゴンは知能が高いので、人語を操ることができるのだ。


『貴様ら如き、一瞬で焼き払って……』


 その時、ドラゴンの体を包んでいた黒いモヤが晴れる。ドラゴンの動きが急に止まった。


『あれ、私は何を失礼なことを言って……?』


 なんだ、何か様子がおかしいぞ?


 竜の体を、再びモヤが包む。


『貴様ら矮小な人間ごとき、一瞬で滅ぼしてくれる!』


 ドラゴンの様子が元に戻る。再びの宣誓とともに、虹竜が着地。大地が大きく揺れる。そしてドラゴンは大きく口を開け、ブレスの体勢をとる。口に魔力が集中していく。


「全員、防御体勢をとれ!」


 タイムロットさんの号令で、冒険者さんたちが武器でガードの構えを取る。だが、今竜の口に集まっている魔力量からして、とても武器で防ぎ切れるものではない。


「発動、“ソイルウォール”!」


龍のブレスが放たれるより一瞬早く、僕の土属性魔法が発動。地面がせり上がり、龍の顎を直撃。龍に強制的に上を向かせる。


『グゥ!?』


 龍のブレスの発動を防ぐことはできなかったが、向きは変わった。蒼色の炎が空に向かって放たれる。


「あち、なんだこの熱量は!」


 全く直撃でないにも関わらず、熱風が押し寄せる。もしあのブレスが村に直撃していたらどうなっていたか。考えるだけで恐ろしい。村は完全消滅していたかもしれない。


「あんなドラゴンと渡り合える魔法なんて……」


 その時、僕の頭に声が響く。


『龍炎魔法“サファイアブルーフレア”をコピーしました。

【根源魔法】


〇使用可能な魔法一覧


・火属性魔法”ファイアーボール”


・状態異常回復魔法”ローキュアー”


・身体能力強化魔法”フォースブースト”


・回復魔法”ローヒール”


・土属性魔法”ソイルウォール”


・植物魔法”グローアップ”


・永続バフ魔法”刻印魔法”(ギフト) 


・龍炎魔法“サファイアブルーフレア”[New!!]


「何、【根源魔法】はドラゴンのブレスもコピーできるのか!?」

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