第11話 父上から差し向けられた刺客をプレゼントと勘違いする
僕がこの村の領主に赴任して、4日目。
今日は、村の外に出て周りの土地を調べている。
この村の住人はみんな,常に飢えている。それを何とか解決できないかと思い,僕は畑を増やせないかと考えているのだ。
この村の畑の面積は,村人の数に対してあまりに少ない。理由は2つ。
1つは、畑を広げてもすぐにモンスターに荒らされてしまうため。これは、僕が新しく土の壁で囲えば良い。
2つ目は、土地と気候が野菜を育てるのに向いていないため。こればかりはどうしようもない。
この土地の気候に適した樹は放っておいても勝手に生えるが、野菜は植えてもダメなのだという。
僕は自分で土地を見て回ることで何かヒントが見つかるかもしれないと思ったが,見つからない。
「何かいい手はないかな・・・?」
そのとき、どこからともなく不思議な霧が立ち込めてくる。意識がふわっとする。何からの毒が含まれているらしい。
「状態異常回復魔法”ローキュアー!”」
魔法で解毒すると、意識がはっきりとする。
当然領主として、こんな危険な霧を放置しておくわけにはいかない。僕は回復魔法を何度かかけ続けながら、霧の発生しているであろう、濃度が濃い方へ向かう。
”ぐにゅん”
足元で変な感触。そして何かが足元から出現し、緑色の顎のようなものが僕の体を挟む。
僕は両腕で体をガードして、噛み砕かれることを防ぐ。
緑色の顎には、生き物のような体温はない。目を凝らすと、顎の細かな様子がはっきり見えてくる。
「これは……巨大な食虫植物!?」
「いかにも」
霧の奥から、全身黒ずくめの男が出てくる。
「神童と呼ばれていたらしいが、所詮はガキ。俺の魔法の前では敵ではないか」
男が使ってくるのは、霧と食虫植物。……なるほど、男の魔法の見当はついた。
「貴方の魔法は、植物魔法ですね」
植物の中には、水蒸気を放出するものがいる。霧はそれだろう。
僕が言い当てると同時に、使用可能一覧に植物魔法”グローアップ”が追加される。
『植物魔法”グローアップ”をコピーしました。
【根源魔法】
〇使用可能な魔法一覧
・火属性魔法”ファイアーボール”
・状態異常回復魔法”ローキュアー”
・身体能力強化魔法”フォースブースト”
・回復魔法”ローヒール”
・土属性魔法”ソイルウォール”
・植物魔法“グローアップ” [New!!]
』
植物魔法。かなり使い手が少ない、希少な魔法だ。
こうしてトリッキーに戦闘に使うこともできるし,農作物の成長を促進することもできる。
マスターすれば、稼ぎで1年で王都に豪邸を建てることも出来ると言われるほど金を稼げる魔法だ。
「ふん、分かったところでどうしたというんだ」
食虫植物の締め付けが強くなる。だが、この程度では僕の動きを封じることはできない。
僕は身体能力強化魔法“フォースブースト”を発動。
「はあ!」
力づくで食虫植物の顎を破壊して脱出する。
「なんだと!?」
「ならば、これでも喰らえ!」
男が腰のポケットから小さい何かを取り出し、辺りにばらまく。
「発動、植物魔法”グローアップ”!」
植物魔法使いさんの足元から、太いツタが生えてくる。
「なるほど、今まいたのは植物の種ですか」
ツタが一斉に僕めがけて襲い掛かってくる。僕は、腰の剣を抜き、迫ってくるツタ全てを切り伏せた。
所詮は植物、数は多いが遅い。冷静に対処すればなんてことはない。
「なんだその動きは。聞いてたのと違うぞ……」
呆然とする黒ずくめの男。
「聞いていた……一体誰に僕のことを聞いたというんです?」
植物魔法使いさんは”しまった”という表情をする。
「お前に教える道理はない! ここで死ね!」
種を撒く。
生えてきたツタを斬るのも少し手間なので、僕は間合いを詰め、種を空中で斬る。
「”グローアップ”発動! ……馬鹿な、何故発動しない! まさか今、空中で全ての種を斬ったのか!?」
「そうですよ?」
植物魔法使いさんの顔に、絶望が広がる。
「わ、わかった。俺の負けだ」
植物魔法使いさんは、両手を上げる。
「なんてな、死ねぇ!」
突如霧の奥から、ツタが大量に生えてきた。
「こんなこともあろうかと、あらかじめ大量にツタの種を撒いておいたんだよ! くたばりやがーー」
「ーー”ファイアーボール”」
”ドオオオオオォンッ……!”
膨大な熱を秘めた火球が、ツタをもろとも焼き払う。霧も吹き飛んだ。
「う、嘘だろ……?」
植物魔法使いさんが、地面にへたり込む。
「今度は本当だ! 俺が悪かった! なんでもする! だから許してくれ!」
完全に戦意を喪失した植物魔法使いさんが、地面に膝をついて何度も頭を下げる。
「い、依頼人についても喋る。俺に任務を依頼したのは……」
「分かっています、父上でしょう?」
そう、僕には分かっていた。
僕が、見た魔法を全てコピーできる【根源魔法】のギフトを授かったことを知っている父上は、僕に【植物魔法】を見せるというプレゼントを贈りたいと考えた。
植物魔法をみてコピーすれば、村を発展させるのにとても役に立つ。
しかし、追放するといった手前、『さぁメルキス、【植物魔法】の使い手を連れてきたぞ。魔法をコピーして村の発展に役立てるといい』なんて言うことはできない。
だから暗殺者を差し向けたということにして、植物魔法の使い手を送り込んだのだ。
「頼む、俺は依頼されただけなんだ。このまま見逃してくれ!」
涙目の植物魔法使いさんが、命乞いの演技をする。
「まさか。そのまま帰っていただくわけにはいきません。まずは屋敷に来てください」
「ヒィッ!」
僕は、植物魔法使いさんを屋敷に連れて帰る。
――――そして、丁寧にもてなした。
できる限りのことをして、最高に丁寧にもてなした。
「どうぞ、まずは温かい紅茶でも召し上がってください」
「ヒィ!? こここ紅茶ァ!?」
黒ずくめの男さんは、椅子から転げ落ちそうなくらいカップに入った紅茶を怖がっている。
「そ、その紅茶に何が入っている!? 毒か? 毒なのか!?」
「お砂糖ですよ?」
大切なお客様に毒なんて飲ませるわけがない。
ユニークなギャグセンスの持ち主だなぁ。
「紅茶は苦手なのですね。わかりました、ではコーヒーを……」
「嫌だ、コーヒーも怖い! コーヒーに自白剤でも入れるつもりだろ!?」
「ミルクですよ?」
ブラックの方が好みだったかな?
結局父上からのお客様は、ブラックコーヒーに少し口を付けただけで帰ることになった。
「ふもとの町までは遠いですし、馬車でお送りしますよ」
「馬車だと!? 俺を一体どこへ連れて行く気だ!? 墓場か? 処刑場か? それとも拷問施設か?」
「ですからふもとの町までですよ?」
墓場観光が趣味なのだろうか?
残念ながら、この辺りにそんな観光するほど立派な墓地はない。
こうして僕は不思議そうな顔をする植物魔法使いさんを、馬車に乗せてふもとの町まで送り届けた。
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