第3話 ギフト【根源魔法】が覚醒する
馬車から女の子が元気いっぱいに飛び降りた。ココア色の髪が、ふわりと舞う。
歳は僕とほぼ同じで、女子としても小柄。
第4王女のマリエル=レットハート。僕の婚約者である。
「お城にいるはずのマリエルが、どうしてここに?」
僕はマリエル王女に問いかける。
マリエルは外で遊ぶのが好きで、よく僕はお城の庭に招待されて、かけっこなどをしていた。今にして思うと凄く贅沢な遊び方をしていたと思う。
――そしていつの間にか、婚約者になっていた。
それについてマリエルは『いやー、国王(パパ)が勝手に決めちゃって困っちゃったよねー。……まぁ、嫌では……無いんだけど……』と言っている。
「実はね……実は私もメルキスの村に――」
その時、会話をさえぎるように”メキメキ”という音が響く。樹の折れる音だ。
音の方を見ると、巨大な二足歩行のモンスターがこちらに向かって歩いてくるところだった。
首から下は、筋骨隆々の人間のような姿。ただし、大きさが異常だ。周りに生えている樹と同じか、それ以上の身長がある。
そして首から上は、牡牛。黒光りする角が威圧感を放つ。体格に見合うだけの大きさの戦斧を両手で握り締めており、敵意があることは誰の目にも明らかだった。
「あれはまさか、ミノタウロス!? S級ダンジョン奥地にいるはずのモンスターが、どうしてここに!?」
ミノタウロスは騎士団の精鋭数十人が集まって相手にできるレベルの強敵だ。どう考えても、僕らには勝ち目がない。このままでは、間違いなく全滅する。
「……マリエル、僕が時間を稼ぐから、逃げてくれ」
できるだけ動揺を声に出さないように、僕はマリエルに呼びかける。
「待ってよ、逃げるならメルキスも一緒に――きゃあ!?」
「お嬢様、メルキス様や護衛騎士の方達の犠牲を無駄にしてはいけません! 逃げますよ!」
付き人のメイドさん2人がマリエルを無理やり馬車に押し込む。そして、馬車が走り出した。
あとは護衛の騎士さん達と僕で、馬車が馬車が安全圏へ脱出するまでの時間を稼がなければならない。
魔法を得意とする騎士さんが、攻撃魔法の詠唱を始める。
「火よ。火よ。火よ。五大元素が一つ。破壊を司る赤の力。その力を以て我に歯向かう者を焼き払え――発動、”ファイアーボール”!」
騎士さんの手元から魔法陣が広がり、そこから人の頭程の大きさの火球が飛び出す。”ファイアーボール”。炎魔法の基本的な魔法で、とても使いやすい攻撃魔法だ。
僕の頭の中に声が響く。
『魔法の完全な状態でのコピーが完了しました。
【根源魔法】
〇使用可能な魔法一覧
・ファイアーボール
』
騎士さんが放ったファイアーボールが、ミノタウロスに直撃する。しかし、ミノタウロスは火傷1つしていない。
「噓だろ、俺の魔法が全く効いていない……!?」
魔法を放った騎士さんが絶望する。
「ええい、ひるむな! 全員で掛かれ! せめて片脚でも傷を負わせれば、マリエル様が逃げ切れる!」
リーダーである騎士さんの号令で、騎士全員が突撃する。
しかし、ミノタウロスの斧の一振りで、全員あっという間に戦闘不能に追い込まれてしまう。
「今だ!」
騎士さん達に気を取られているミノタウロスの死角を突いて、僕は渾身の一撃を繰り出す。だが、
”ガギン!”
ミノタウロスはそれすらも軽々と斧で跳ね返す。僕は近くの樹の幹に叩きつけられた。
「がはっ……!」
肺に受けた衝撃で呼吸が出来ない。剣も折れてしまった。
「駄目だ、スピードもパワーも耐久力も、格が違い過ぎる……我々では、王女様が逃げるための時間稼ぎさえできない……」
騎士さんの誰かがそうつぶやいた。
僕達をあっという間に戦闘不能に追いやったミノタウロスは、今度は馬車が走り去った方を向く。今からミノタウロスの速度で走って追いかければ、間違いなく追いついてしまう。
「させるか、マリエルだけは……絶対に守る……!!」
僕は渾身の力を振り絞って立ち上がる。しかし、戦うための剣はもう折れてしまった。戦闘で使えるのは、さっき【根源魔法】の力でコピーした”ファイアーボール”だけだ。魔法は使ったことがないが、これに賭けるしかない。
「火よ。火よ。火よ。五大元素が一つ――」
そのとき、異変は起こった。
僕の手のひらを中心に、直径が僕の背丈に近い大きさの魔法陣が出現する。中には、非常に細い線で複雑極まりない模様がびっしりと書き込まれていた。魔法陣の大きさも模様の複雑さも、さっき騎士さんが使った”ファイアーボール”とは比べ物にならない。
”ビリビリッ……!”
膨大な魔力によって大気が震えている。
「なんだあの魔法陣は! しかも、詠唱なしで出現したぞ!?」
さっき”ファイアーボール”を使った騎士さんが、驚きの声を上げていた。
そして魔法陣から、巨大な炎の塊が姿を現す。
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