第43話 サミエラは襲撃される
サミエラとサザナミが海賊を嵌める方法をあーでもないこーでもないと話し合っているところにロッコが咳払いして割って入る。
「…………ごほん、あー、嬢ちゃん、悪企みもいいがそろそろ本題に戻ろうぜ?」
「……あ、そうね。えーと……それでこのデッキシューズなんだけどね、あくまで試作だからまだ男性用と女性用がそれぞれ1足ずつしかないのよ。試してみたい人はいるかしら?」
「はいっ! うちやりたい!」「あ、俺も」
真っ先に名乗りを上げたサザナミとショーゴがデッキシューズを試してみることになる。足にしっかりとフィットするように靴紐を固く結び、余った紐をどこかに引っ掛けないように結んで余った分は靴の中に押し込む。
「OK! じゃあこれでちょっと普段通りに動いてみてちょうだい」
早速ショーゴが甲板の上を軽く走ったり、跳ねてみたりして調子を確かめる。
「おお、これは濡れた甲板でも踏ん張りが利いていいな!」
そのまま皆から少し離れて背負った小太刀をすらりと抜刀し、いくつかの型を披露してみせる。
「うむ。これなら思う通りに動けるな」
満足げに納刀したショーゴにサザナミが手を振る。
「なーなー、ショーゴ。ちょっとここまで全力で走ってきてみ?」
「おう。……うおっ!? 痛っ……くないが、ナミ! よくもやりおったな!」
何も疑わずに駆け寄ってきたショーゴの足元にサザナミがすかさず撒き菱をばらまき、避けきれなかったショーゴが思いきり踏みつけてしまうが、フェルトの靴底のお陰で事なきを得る。
だがさすがに怒ったショーゴがサザナミに掴みかかる。
「おぅ……悪い奴っちゃのぅ」「ナミの顔を見ればなにか企んでいるのは分かるでしょうに」
呆れた様子のゴンノスケとアネッタを置き去りにショーゴが追い、サザナミが逃げる。
「いひ♪ やっぱり実戦前に使ってみんとなぁっと!」
「待てナミ! 思い知らせてくれる!」
「やぁや! 捕まえてみぃー!」
捕まりそうになったサザナミがひょいっと飛び上がって帆を支えるロープを掴んで身をかわし、そのまま縄梯子に跳び移ってするするとマストの上に逃げていき、ショーゴがその後を追う。
「……あのバカ共! 私が止めましょうか?」
そう訊ねてくるアボットにサミエラは首を横に振る。
「いや、いいわ。二人の身体能力を見る良い機会だし。ちなみにナミが捕まったらどうなるの?」
「ナミはくすぐりにはめっぽう弱いのでくすぐり倒されることになるでしょうな」
「……放っておきましょ。気が済むまでやらせればいいわ。ゴンとアニー、悪いけどナミがばらまいた撒き菱を拾い集めてくれる? 裸足のあなたたちが踏んだら痛いわよ」
「イエスマム。……まああれじゃな。あれだけ動き回れるんじゃ。デッキシューズの性能はあれで問題ないと思うのじゃ」
散らばった撒き菱を拾い集めながらゴンノスケが試作品を履いたまま追いかけっこをしている二人に代わって所見を述べる。
「そうね。ナミに至っては帆桁の上を普通に走り回ってるぐらいだからこのまま量産してもよさそうね。ところで……アニーはどれぐらい戦えるのかしら?」
「わ、私はこれまではショーゴたちに護られていただけなので戦うのはあまり……」
「そうなの? ゴン」
謙遜するアネッタについての情報をゴンノスケに求めれば、ゴンノスケは肩を竦めてみせる。
「ちと謙遜が過ぎるかのぅ。確かにアニーは銃はわしに及ばず、近接戦闘はショーゴに及ばず、身軽さはナミに及ばんがのぅ、見方を変えれば銃はナミ以上、近接戦闘はわし以上、身軽さはショーゴ以上じゃ。わしら三人、一応はアニーの護衛という立場じゃったが、今までも決して足手まといではなかったからのぅ」
「……つまり、それなりに戦えて、何かに突出はしていないけどなんでもこなせる万能型ってことね。それなら中衛の立ち回りを教えようかしら」
「おう、それはええのぅ。わしらもアニーは中衛向きじゃとは思っておったがそれを教えられる者がおらんかったからのぅ。姫様は何を中衛の得物とされるんじゃ?」
「アタシは武芸十八般を一通りは修めてるから、中衛の得物なら槍、
「……なにやらまたとんでもない情報が出てきおったがわしはもう驚かんぞ。薙刀なら船でもそれなりに取り回ししやすいからええと思うのぅ。ショーゴやナミから近接での短刀術はすでに習っておるからそれと組み合わせれば強いはずじゃ」
「分かったわ。ということでアニーには薙刀の使い方を教えるからしっかり身に付けてちょうだいね」
「わ、分かりました! ご期待に応えられるよう頑張りますっ!」
と、そのようにしてアネッタの今後の訓練方針が決まったところでマストの上の見張り台の警鐘がけたたましく鳴らされる。
──カン! カン! カン! カン! カン!
何事か、と全員が上を見上げた瞬間、緊張したショーゴの声が降ってくる。
「怪しい船が接近中! おそらく海賊だ!」
沖合いに目をやれば、西のサリーナス岬の向こうから姿を現してそのまま沖を進もうとしていた小型船が、湾内に停泊中の【バンシー】に気づくなりすぐさまタッキングして船首を【バンシー】に向けていた。
甲板には商船にしては多すぎる男たちがひしめいている。
サミエラがすぐに伸縮式の望遠鏡で確認してみれば、甲板には20人ほどの男たちがいて手に手に武器を持っており、マストには黒旗がたなびいているのが見えた。
「……っ! まったく、海軍のお膝元で白昼堂々襲撃なんてやってくれるわね!」
舌打ちしつつ望遠鏡を収納し、矢継ぎ早に指示を出す。
「ショーゴとナミはすぐに降りてきて! ゴンはキャップスタンに柄を取り付けてすぐに錨の巻き上げを始められるように準備だけしてきて! アニーはこの食事の残りをざっとでいいから片付けておいて! おじ様とアボットはアタシと一緒に武器庫についてきて! 武器類を運び出すわ」
そう言い放ち、サミエラはすぐに後部出入り口から船内に入り、武器弾薬庫に向かった。
~~~
【その時、歴史を動かしたCh 考証解説Vol.7 パーソナリティー:Sakura&Nobuna】
──ショーゴがキレたw
──これはナミが悪い
──おお、すげえ身のこなし! さすが忍者!
──アクロバティックだな! サーカスだ!
──ほう。ナミは捕まるとくすぐりの刑か。ちょっと見てみたいね。
──サミエラの完全放置モードわろたw
──撒き菱を拾わされてるゴンとアニーは完全に巻き添えやん
──……
Sakura「へぇー、サミエラさんはアニーさんに薙刀ば教えるったいね。そういえば武芸十八般ってなんやったと?」
Nobuna「厳密には武芸者のたしなみとされた日本古来の18種類の武術じゃが、一般的な言葉の用法としては武芸全般という意味じゃな。戦国時代においては一通り全部こなせるというのが武士のステータスじゃったからの。妾も一通り身に付けさせられたんじゃ」
Sakura「普通やと、姫にそぎゃんこつばやらさんよね?」
Nobuna「まあそうじゃな。普通の姫や女房たちならせいぜい護身術程度じゃが、妾は父上からは姫ではなく武将の一人として扱われておったからのぅ。それに織田家での妾の立場は命を狙われるのが当然であったからおのずと稽古にも熱が入るというものよな」
──女の身だから体力ありきの武術はそれなりだったけど、テクニック重視の武術は普通に信菜は強かったよね
──柔よく剛を制す
──護衛をすり抜けた暗殺者を自ら返り討ちにしてたな
──薙刀術、棒術、柔術、短刀術。このあたりは師範レベルだった希ガス
──隠術も結構やるで。師匠が伊賀の上忍やし
──おろ?
──え? ショーゴが警鐘叩きよるけどどした?
──海賊の襲撃イベント勃発!?
──メイナード艦長の嘘つきぃ! 普通に襲撃されてますやん!
──向こうは20人でこっちは7人! しかもロッコは片腕で3人は女の子! どーするどーなる!?
──あー、海賊からすれば据え膳な獲物かぁ
──……
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