第44話
「陽冥の力。あなたがそれを使うというのならば私が止めることは出来ません」
「交渉成立ねっ!」
シャーキの部屋を後にして私達は昨日の大理石の部屋に向かった。昼間は暑くて外で過ごせない。
「陽冥の力ってお前が昨日言ってた解決策のことか?」
「ええ。業を越えた先にある力。あんまり詳しく話すと私の秘密にも直結しちゃうから質問はNGね」
アムリタは人差し指を私の唇に置いた。
「聞くようなことはしないさ。その辺りがお前のNGラインだってことは分かってきた」
「偉い偉い!じゃあ今日の作戦をたてましょう!」
「今日するのか!?」
「当然じゃない!昨日の夜はシャーキが出しゃばったせいで出来なかったんですもの」
(出しゃばったって……)
「とにかく、今日の夜!あの業魔をやっつけましょう!」
「おいおい、やっつけるって、サーティーを傷つけることなんて出来ないぞ」
「そんな事する必要ないわよ」
「え?」
「サーティーの思業はそれを止める蓋のない状態なの。だから栓をしてあげるだけ。ものすっごーく強い栓をね」
「そんな簡単にいくもんなのか?」
「そこで私の陽冥の力よ。簡単に説明すると、外的要因からものすっごく長い時間耐えられる素材なの」
「はぁ」
「卿はサーティーの注意を引いて。そのすきに私が力を使うから」
「わかった」
(思業を開放した状態のサーティーは危険なんだろう)
アムリタの説明は思ったより短く済んだ。
作戦が立ってしまえば次にすることは準備だった。
私は自分の武器が未だに官巫院に預けられた状態にある。
なんとかして取り返す必要がありそうだった。
「アムリタ、俺は
アムリタは少し考え込んだ様子をして答えた。
「多分一人で行ったほうがいいわよ」
「あの交渉があった後というのに、一人でのこのことやって来れたものですね」
冷たい巫女長室にシャーキの言葉が響いた。
「卿様、あなたは御自身が連れ回している化物の正体を分かっておいでですか?」
「わからないさ」
「そんなことだろうと思っていました。私からあなたへ言えることは多くありません」
「その、教えてもらえることなら何でも教えてくれ。俺だって知りたいんだ」
私は拳に力をいれた。先程エガから受け取った關刀の包を固く握る。
「アレは、石なのです」
シャーキの言葉は淀むことなく耳に流れ込んできた。アムリタが石であること、私にとってそれは解することができるところではなかった。
しかしシャーキが石というのならばそれは石なのだろう。私は疑うことをしなかった。
「アレは石であるが故に多くの力を秘めています。輝く宝石としての石。頑丈な建材としての石。また他を磨く研磨剤としての石。それら全てはアレに内包された力の一つです」
宝石としての石。それには心当たりがあった。そう、いつか私に見せてくれた
「しかしそれがアレの力の本質ではありません。アレの本当に恐ろしい部分は中に秘められた業の蓄積に他なりません」
難しい話になった。私もその言葉を無批判で受け入れるのを止めた。
「つまり、どういう事だ?」
「アレは存在しているだけで、何重もの業を背負い続けていく怪物です。それらを開放したり抑制したりするのも完全に自身でコントロールを可能にしています。おそらく、それはアレが石であるからという原因に基づくものでしょうが。しかし、あそこまで力を溜め込んだ存在がそこに存在しているだけで、もうそれはおかしいのです。」
「だから化物だってわけか」
「ええ。普通ではないという意味で。人間ではないという意味ですでに化物なのだとしたら、もうそれは怪物や神と呼ぶ以外、アレを的確に言い表す言葉は存在しないでしょう」
「アムリタについて少しは理解できましたか?」
「ああ」
少しはわだかまりが残っていたが、話を進めるために私は空返事を返した。
「……はぁ。卿様、やはりあなたはアレと離れるつもりはないのですね」
「ええ。約束しましたから。家まで届けるって」
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