第4話
大口大介が調理室に戻った時すでにそこに皆の姿はなく食堂に移っていた。
大介たちの姿を見つけた恵子たちは不満げにこちらを見たがそれ以上は何も言わなかった。
みんな大介を恐れて彼らの行動を黙認したのだ。
大介はそれが愉快でたまらなかった。
同級生はみんな馬鹿に見えた、意味なく悪党を気取る男子、無駄に着飾る女子、何もかもが醜悪に見えて大介はそんな彼らと関わるのをやめた。
そしてその結末は同級生たちによる嫌がらせだった。
別に同級生全てがそれに加担しているということはなかったけど誰も助けてはくれなかった。
そうゆうもんだというのは分かっていた、クラスでいじめられているのは別にオレだけじゃないけどオレもそいつを助けたことなどなかっただからみんなも同じそれだけだ。
けどこの日々はあまりにも辛かった。
だって自分は何も悪いことなんてしていないただバカどもを見下しただけだ、なのにどうしてこんな不当な目に合わなければいけないんだ。
ストレスで頭がおかしくなりそうな時だってあった、それでも何とかやってこれたのはこの施設があったからだ。
ここはまさに自分の王国だった、ここの子供では自分が一番年長であり必然的に逆らう者は誰もいなかった。
別に年下の子達に無理難題を押し付けたりはしなかったが子分のような彼らは便利だった単純でそそのかせば簡単に行動してしまう無知なガキは本当に愚かだなと大介は思う。
けどそのおかげで大介のストレスはだいぶん収まっていた王様の気分だった。
自分のやっていることがどれだけ最低かなんてことは分かっている時たま激しい自己嫌悪にも襲われた、それでもやめることなんてできなかった。
そして今日面白い話を聞いた、廊下で大志と司が話してたことだ。
毎月この施設に来る男、奴の名は時実泰三というらしい何でも院長の息子だそうだ。
そんな話には興味はなかったが話を聞く限りこの二人はその男に恨みを抱いているようだった。
なんでも院長をいじめるのが許せないとかなんとか。
その思いはよく分からんがこれを利用しない手はないと思う。
正直なところ自分からしてもあの男は邪魔な存在だった、いつも怒鳴り散らして存在するだけで迷惑だ。
まるで自分の領地を侵略された気分だ。
だから怒りに燃える大志と司をそそのかした。
そんなにむかつくなら襲えばいいと。
二人はためらったがアイツは悪人なんだしここには大人がたくさんいるから大丈夫とこのままじゃ院長先生が可哀想だ君たちの正義の力で救わないとと脅迫まがいに説得し彼等も実行に移す気になったようだ。
具体的にどうするかは知らないが過激なほどいい、彼らの行動であの男をどうかできるとは思えないがあの男のことだ子供に襲われ黙っているわけがない、必ず報復に来るそしたら大人たちは必死に止めるだろうそして二度とあの男が施設に寄り付かないようにするだろうそうなれば思い通りだ、いやうまくいけば警察沙汰になりあの男を社会的にも抹殺できるかも、そう思うと彼の口は自然と笑みを浮かべていた。
そしてその口にできたてのカレーを運んだ。
カレーは少し辛かった。
食事とお風呂を終え部屋に戻った百合は寝る前にいつもの日課である日記をつけ始めた。
日記は彼女の机の裏にテープで張られ隠されている、彼女はそれを手に取り今日一日の分を書き始めた。
日記の始まりは午前六時三十二分十七秒起床から始まっていた。
次に続くには同時刻三十四分着替えと続いていた。
それは日記にしてはあまりに感情のないどちらかというと記録帳のようだった。
彼女はそれを記しながら今日一日の自分を保管してゆく。
いつもならこれは何の感慨もわかない自己記録でも今日は違った。
百合は先ほどの調理室のことを思い出しながらそれを記す。
それはいつものように終わるはずだった、けどいざ料理を始めようとすると同じ当番の近衛大志・響司・そして唯一の中学生大口大介の姿が見当たらなかった。
しかたなく唯一残った恵子と調理を始めることにした。
林田恵子は百合にとっては大切な友人だ、いつも自分を気にかけてくれかといって変に深入りをしてこない百合にとっても申し分ない存在だった、だから必然的に仲良くなっていった。
料理自体は順調に進んだが途中恵子がジャガイモを多くむきすぎたことにより急遽ポテトサラダを作ることとなり人手が足らなくなった。
そのために恵子に他の三人を探しに行かせたのだけどそれがまさかあんな幸運につながるとは彼女自身思ってもいなかった。
ちなみに恵子を行かせたのは傍にいた工藤先生に調理を放棄したと思われたくなかったためであった。
恵子が出て行ってしばらくすると桐村修が話しかけてきた、なんでも大変そうだから手伝おうかという内容だ、ほんらいなら他の人に手伝わすことで自分の評価を下げることなどしたくはなかったのだがここで断れば工藤先生に変な風に思われると考え承諾した。
そして彼はもう一人暇そうなやつを連れてくるといい数分後戻ってきた彼といたのは道長慶介であった。
それは百合にとっては予想外のことでまさに棚から牡丹餅といった感じであった。
道長慶介、金城百合は正直彼にまだ慣れていない。
この施設に来てもうすぐ一年になるが未だに名前を間違えるのはまずいと思う。
今日だって言い間違えそうになった。
彼の方はそんなことないというのに。
だからなるべく話して慣れようとしたのだけど、なかなかいい機会に恵まれなかった。
だから今日はほんとうについていたと思う。
桐村くんには感謝しないと、百合はそう思う。
物思いにふけながら日記を書いていたせいか、日記に書いてあった慶介の名前をまた間違っていることに気づき百合は慌てて消しゴムで消した。
時刻は午後十時半この時実養護施設の消灯は午後九時、子供たちはすでに夢の世界に居る。
神山京香は現在見回りの途中だ懐中電灯を片手に暗い廊下を歩いている。
この見回りが終われば本日の仕事は終了なのだが京香はこの見回りが何よりも嫌だった。
もともとオカルトの類が苦手な彼女としてはこんな見回り自体が嫌なのだがこの場所の怪談を知っていると余計足が重くなる。
ビクビクと身を震わせながら進んでいくと闇の中で一筋の光が見えた。
「あれは・・・」
その光に近づいてみる、光は相談室から漏れ出していた
誰かいるのだろうか?
そう思いドアノブに手をかけたところでギクリとした。
声が聞こえてくる、いや声というよりは嗚咽。
意を決して扉を開くとそこには、
「院長?」
院長こと時実葉早子が顔を伏せ椅子に座っていた。
京香の声に反応し顔を上げるとシワの目立つ優しそうな顔が見えた、目は赤くはれている。
どうみても泣いていたようだった。
「ああ、神山さん。そう、巡回の時間だったわね。ごめんなさいついうたた寝してしまったみたいで」
そういいながら早子は立ち去る、京香はその後ろ姿に何も言えなかった。
ふとみると早子の座っていた真正面の椅子にも誰かが据わっていた痕跡があった。
誰かと話していたのだろうか?
そう疑問に思いながら京香は巡回を続けた
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