パーティの美人女剣士が塩対応なんですが、読心スキルで俺にだけデレているのがまるわかりなんです

心でデレるカタリナさん 02

「それで、いつまでそっぽ向いているわけ？」

「……え？」

「わたしと話をしているんだから、ちゃんとこっちを向きなさい」

　カタリナに、ぐいっと肩を捕まれ強引に振り向かされる。彼女の顔を見た瞬間、またしても心の声が聞こえてきた。

（さっきは少し厳しいこと言っちゃったけど、ピュイくんは才能あるからすぐに上のランクまでいけるはずだよ。……あ、でも、Ｄランクのままでも、わたしは全然オッケーだよ。だって、こうやってずっと一緒にいられるもん）

「……っ」

　デレまくっている心の声に悶絶してしまった俺は、再び視線をそらす。

「あっ！　また違うとこ見る！」

「う、うるせぇよ！　そっち見なくてもいいだろ！　話したいことがあるなら、勝手にしゃべってろ！」

　もう聞いていられない。見た目はクールを装っているくせに、デレまくっている心の声がもれもれなので、聞いているこっちが恥ずかしくなってくる。

　というか、「一緒にいられるもん」ってなんだ。お前は乙女か。近づく男どもを一蹴し、モンスターを無慈悲にバッサバッサと斬り伏せている最強冒険者なのに、心の中は汚れも知らぬウブな乙女なのか。

　なんの罰なんだよこれは。

　百歩譲って、心の中でデレてくること自体は許そう。「そういう可愛い一面もあるのねカタリナちゃん。ギャップ萌え」と割り切ればいいだけの話なのだ。

　だが、この胸中デレが地獄なのは、「動揺していることをカタリナにバレてはいけない」という制約があることだ。

　なにせ、もしバレたら俺が読心スキルを持っていることがわかり──大事なパーティが崩壊してしまう。

　この読心スキルのことは誰にも話していない。最古参メンバーのガーランドにも話してはいない。

　その理由は明白だ。

　自分の心の声を盗み聞きしているヤツと付き合いを続けるようなバカはいない。

　まぁ、カタリナだったら「クズね」で終わりそうな気もするけれど、他のメンバーはそうもいかないだろう。

　俺の読心スキルはある程度制御が利く。対話している相手に集中しなければ、心の声が聞こえてくることはない。

　だが、それを説明したところで信じてもらえるわけがないし、仮に信じてもらえたとしても不信感は残るだろう。

　不信感はパーティにとって毒だ。

　その毒はまたたく間に伝染し、パーティはあっという間に空中分解してしまう。

　俺が初めて参加した、あのパーティのように。

　それだけは絶対に避けなくてはならない。

　俺は今のパーティを気に入っているし、なにより回復職をやっている俺にとって、ソロになるのは「死」を意味するのだ。

　だから俺は、絶対にカタリナのデレている本心に反応してはいけないのだ。

（とは言っても、相当厳しい戦いだよな、これ……）

　はっきり言って、羞恥地獄。拷問レベルに辛い。

　というか、なんでこの女は俺にだけデレてくるのか。

　俺が他人より優れているのは魔力の総量くらいで、地位もなければ金も人脈もなく、おまけに性格も悪いときている。

　カタリナがデレる要素なんてひとつもないのに、本当にわけがわからない。

「ピュイくん」

　と、今度は実際のカタリナの声。

「話しているときは相手の目を見なさいって親から教わらなかった？　そっぽを向くなんて失礼極まりないわ。相手がわたしならなおさらよ」

「だ、だけどな」

「うるさい。ほら、しっかりこっちを見なさい」

「あ、おま……うおっ！」

　カタリナに片手で椅子ごと向きを変えられてしまった。なんちゅう馬鹿力だ。

　逃げ場を失った俺の耳に、再びカタリナの心の声が流れ込む。

（……というのを言い訳にして、ピュイくんと見つめあっちゃうもんね。はぁ……何度見てもかっこいい。眼福眼福）

　必死にニヤけるのを抑えているのか、カタリナの口元が小さくピクピクと動いている。

　それを見て、重〜いため息をひとつつく、俺。

　ああ、今すぐガーランドたちがいる酒場に行きたい。行って、冷えたエールと一緒にこのやりきれない想いを喉の奥に追いやりたい。

　だが、そう思う一方で、俺は覚悟した。

　今日も長く厳しい戦いになりそうだな、と。

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