不幸・不幸・不幸
サムライ・ビジョン
その女、不幸につき。
第1話 エスケープ・プロローグ
「私の前世の人間は、一体どれほどの大罪を犯したのだろうか?」
今こうして走っている間にもそのようなことを考えられるのだ。踏んできた場数が違うのだよ。
それにしても…
「逃がさねぇぞこの殺人鬼がぁ!」
先ほどから追いかけてくるこの暴漢、少しは手加減をしてもらいたいものだね。何せここはジパング…カタギの人間にチャカなど持てないはずなのだが…
「言いがかりです!私は!殺人なんて!してません!」
こういう事件は珍しいことではないので、日々からだを鍛えているのである。
肺と弁明が絶妙にマッチしている。
「嘘つけ!もう騙されないぞ!」
騙す?バカ言っちゃいけないよ。 私が人を騙すのは、「死にたくない」という気持ちを騙せないときだけさ。
…何を言っているのだ私は。
「…やばい…どうしよう…」
心に浮かべる言葉たち、そして思わずこぼれる言葉たち。それが一致するとは限らない。
私は高2の17歳。私だってパンケーキは食べたいし、服やコスメも眺めたい。友との 青春は一瞬なのだから。だけど…
こんな生き方をしているため路地裏には詳しいはずなのだが、私が今いる路地裏はノーマークであった。まんまと行き止まりである。
「もう逃げられないぞ…西島ぁ!」
誰だよ。私は西島家に生を受けていないし、嫁いだ覚えもないのだが…
…ここはひとつ賭けに出るか。
「ねぇ、おじさん。そんなに私のことが許せないの?」
「はぁ?ふざけんなよ…許せないかって? 当たり前だろうが!」
「そんなに怒らないでよぉ。私はただ人を殺しただけだよ?何がいけないの?」
両手を広げ、頭にハテナを浮かべるポーズ。
今この状況で挑発するのはまさに無鉄砲。文字通り、無鉄砲だ。
「…てめぇ…マジで許さねぇ…西島!今この場で死ねぇ!」
有鉄砲の彼が拳銃を構えた。その時だった。
ブチッ…クゥゥゥ…
…上から、何かが千切れた音がした。
「…え?」
男の出した声は実に間抜けで、そして私は…
タッタッ…
ひとまず今いる場所から左側に避けた。
私は、自分の勘の鋭さにだけは深く感謝するようにしている…
「…ぶはぁッ!!」
上から降ってきたのは赤い鉄柱であった。
片方のワイヤーが千切れ、振り子のようになった鉄柱。まるで私めがけて降ってきたようなそれを、彼への打撃に利用できた。
よかった…
後から知った話によると、彼は数週間前に妻を交通事故で亡くしており、極度のストレスにより犯行に及んだそうだ。
拳銃は交番にいた警官から盗んだらしい。
それにしてもいくらストレスとはいえ、ブレザー姿で学校指定のカバンまで所持していたこの私のどこが「西島」だったのだろうか。
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