第11話 フロウティフォンは嗤う
天空の化身フロウティフォンとルピスはユキフィリ城の玉座にいた。
王や護衛は皆、フロウティフォンの魔法により、動きを封じられていた。
「はーはっはっはっは! 動きの取れぬ人間たちを眺めながら飲む酒は格別だなぁ!」
フロウティフォンは思念の力によって持ち上げた樽に口をつける。その中に入っているのは、ユキフィリ産の酒である。天使が酒を飲んではいけないなんて法律はどこにもない。
彼女の肉体はアルコールによるダメージを受けない。つまり、水を飲むように酒をかっ食らうことが出来るのだ。
「ほおおおおおおおん!! やはり格別! 人間の造るものもたまには良いではないか!! 一日の数秒ほどは人間への見下しを止めてやろうではないか!」
すると思い出したようにフロウティフォンがルピスへ酒樽を突き出した。
「お前も飲むか? 今日の我は気分がいい。その気分を共有させてやろう。ありがたく思うが良い」
「いりません。それよりも、王様達を解放してください」
「自分のことよりも他人のことだと!? 何がどうしたのだ!? 人間なんて自分のことが第一のはず! それがその慈愛の心は何だ!? 訳が分からなすぎてつい滅しそうになる!」
フロウティフォンが凄む。しかし、ルピスは一秒も怯えること無く、言い返した。
「私一人を脅した所で、何も貴方の威光を証明できませんよ」
「ほう……その胆力、人間にしては中々。この我がちょっぴり本気を出せば、その辺の人間なぞ失禁し、吐瀉物を撒き散らすのが当たり前だったのだがなぁ」
「私は違います」
「良い返しだ。我はそういうのを待っていた。して、お前は何がどう違うのかね?」
「貴方よりも私のほうが精神的優位に立っていると、強くそう思っているからです」
次の瞬間、王城全体に亀裂が走ったッ!
ただでさえフロウティフォンの襲撃で半分が消し飛んでいるユキフィリ。もはや災害。そんな厄災を引き起こした存在を前にしてもなお、ルピスは気高かった。
「脅しですか?」
「お前がおかしなことを言うからだろう? 何? お前の方が、我より精神的優位に立っていると?」
「そうです」
「はっはぁぁぁぁぁぁん!? さてはお前、何かをッ勘違いしているなぁぁぁぁぁ!?」
フロウティフォンがルピスに近づき、髪を掴み上げた。
「我は天空の化身ぞ!? たかが人間ごときと勝負になると思うてかぁ!?」
ルピスは即答した。
「思っています。少なくとも、天空の化身とまで呼ばれている貴方が、こうまで感情をむき出しにしている時点で!」
「コオオオオオオオオオオ!!!」
フロウティフォンが激昂する。フロウティフォンは頭をガリガリと掻きむしった後、床にガンガンと頭を叩きつける。
天空よりも高いプライドを持つ彼女は、そういう言葉は大の苦手なのだ。
「良いだろう!! お前は我を怒らせ殺したいのだな!? そういった
右手を大きく振り上げるフロウティフォン、対するルピスはまばたき一つせずに天空の化身が作る手刀を見つめていた。命乞いなどしないその気高さ、それがフロウティフォンには最大級の煽りであった。
「死ねい!!!」
「そんな道理が存在するかあああああ!!!」
轟音。直後、王城の壁が突き破られたッ!
正体はトラック! それの上に乗っているのはライドとシュガリスであった。
「ライド!」
刹那秒でライドの存在に気づいたシュガリスは満面の笑みを浮かべる。
ライドはそれに手を振るだけで答えた。
「ほう……来たか、人間!!」
「屈辱を晴らしに来たぞ、フロウティフォン!!」
「てっきり戦意喪失したと思っていたぞ!!
「フロウティフォン! 僕は一番やってはいけないことをした!」
「この天空の化身がやってはいけないこと~!? 世迷い言が得意なようだな! それに免じて、一度だけ聞いてやる! 我は何をした!?」
「僕の一番大事なルピスを攫ったことだろうがァァァー!!!!!!」
「ハハハハハハハ!!! そうであったぁー!!」
フロウティフォンが大翼をはためかせると、徐々に宙を浮く。同時に、フロウティフォンの思念の力によって、ルピスも共に宙を浮いた。
「ほうらよ!」
ルピスがトラックの上にいるライド達の元に到着したのを確認した直後、フロウティフォンは超高速で天空へと飛び立った!
「それでは人間よ! この我と人間による最後の戦いを始めようではないか!!」
「ルピス、シュガリス! 一旦――」
「降りろなんて無しだよライド!」
「そうです。最後までお役に立てるよう、務めを果たします」
聞く人間ではないことを良く理解していたライド。これ以上は止め、意識をフロウティフォンへと向けることにした。このトラックは非常識を常識に変える。例え天地逆さまになったとしても、決してトラックの上から足が離れることはない。
理想的な航空戦力。今、ライドの近くにいることこそが最大の護衛である。
ライドとにらみ合うフロウティフォンはおもむろに右手を掲げると、その手に光の粒子が集まっていく。光はやがて形を変え、槍へと変貌した。これはただの槍に非ず。
「この槍の名は『
フロウティフォンは槍を向ける。切っ先は寸分たがわず、ライドの心臓の中心へ向いていた。
「我が名はフロウティフォン! 天空の化身フロウティフォン! 我を楽しませてくれ! お前が死ぬ瞬間までな!」
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