第9話 天空の化身フロウティフォン
騒ぎも落ち着いたところで、ルピスが現実的な問題に向き合う。
「それにしてもどうする? 馬車がないんじゃ……」
「大丈夫、僕が何とか出来る」
そう言うと、ライドは人気のない場所へルピスとシュガリスを連れてきた。
ライドの体に魔力が漲り、すぐに解放した。
「この音は……」
従者シュガリスはすぐにその気配を察知する。
遠くから重厚な駆動音が近づいてきたのだッ!
「これはライドの――」
「そうだ、僕のトラックだ」
鈍色に光る躯体、どんな悪路でも走破しうる駆動輪、そして確実に相手を葬らんとする意思を込めたフロントライト。
そう、トラックッ!!!
「でもライド、これ小さくない? いつも私が見るトラックはもう少し大きいような……」
「今回は戦闘用じゃなくて、移動用だからね。三人が上に乗れる最低限のサイズにしたよ」
「移動用……ということはライドルフ様、もしや」
「そうだッ! 乗り込めーッ!」
ライドは意気揚々とトラックの上へ跳躍したッ!
◆ ◆ ◆
「やー、早いねぇ! かっこいいねぇ!」
ライドたちを乗せたトラックはユキフィリを目掛け、走っていた。時速四十キロ。何故か、その単語がライドの脳裏に浮かんでいる。それが何を意味するのかわからないが、彼は深く考えなかった。
そんなことを考えていたら、こんなトラック魔法だなんて馬鹿げた代物、とてもじゃないが扱いきれないのだから。
「流石はライド様のトラック魔法ですね。この機動力の高さは、我が国にとって非常に有益なものと判断しますが……」
「僕だって見せびらかしたいんだけどな。けど、こんなトンチキな魔法、受け入れられる訳が無いんだよ」
「仰る通りですね。しかもライドルフ様はアルヴァリスタ侯爵家の長男。ちょっとした失言が命取りでございます」
それならメイドのその口の利き方は一体どうなんだ――そうライドは聞いてみたかったが、シュガリスに良いようにやっつけられる気がしたので、その言葉を飲み込んだ。
シュガリスは幼い頃からずっとルピスに仕えている女性である。ルピスの一個下、つまりライドの一個下でもある。本来ならこうやって王女のプライベートに付いてくるのは、ありえない。しかし、シュガリスは“とある理由”で付いていくことを許されていた。
「そのうち君に命を取られそうだから、そういった心配は何もしていないよ」
「左様でございますか。はっ……ルピス様、申し訳ございません。将来の旦那様に無礼を」
「もーっ! 良いよシュガリス! だって私の将来の旦那様なんだし! 全然気にしないでよ!」
「ルピス、顔がにやけているぞ」
「えー? そう? 私、にやけてる~!?」
「あんまり騒ぐようなら、二人とも叩き落とすぞ」
「ルピス様、ここに国家反逆者がおります」
「そうだねシュガリス、早速処刑の準備をしなくちゃ……」
「待て! おかしいぞ! なんでいきなりそんなことになる!?」
ルピスとシュガリスは何もしなければ無限に話を膨らませてくる。その度にライドは上手く話をそらしていた。そのおかげもあってか、社交の場で発生する面倒な話は、全て受け流すことが出来た。
自然と会話が尽きたあと、トラックはとたんに静かになった。
ライドは魔法制御のために意識を集中させ、ルピスは昼寝をし、シュガリスは遠くの景色を見るため、目を細めていた。
「ライドルフ様、もう少しでユキフィリが見えますね」
「あぁ、人に見つからない場所にトラックを動かしたら、そこからは徒歩だ」
その時、蒼空より白銀の閃光が降り注ぐッ!
「了解しました。――ッ!? ライド様! このトラックを止めてください!」
「上かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どこからともなく現れた新たなトラックが跳躍し、閃光を車体で受け止めた!
ライドの集中力にもよるが、一度に複数台のトラックを操ることが可能なのだッ!
「うわあああああ!! 何者だぁぁぁぁぁー!!」
閃光とトラックの衝突点から爆風と爆音が撒き散らされるッ!
出来上がっていたのは、なんと直径二百メートルのクレーターッ!? 何という衝撃だろう。トラックがなければそのまま体が吹き飛んでいたッ!
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 何をうろたえておる!! 我の爽やかな挨拶ではないか! だが最近はシャイな奴が多すぎてな!! 我の見せる前に体を吹き飛ばしおるッ!!!」
ライドとルピス、そしてシュガリスは同時に息を呑んだ。
――美しすぎるのだ。
見目麗しき美貌を持つ女性。金色の髪、透き通りし白き肌。そして何より、その背には白き大翼ッ!
まるで超有名絵画の中にいるような、そんな天上のごとき存在が今! ライドたちの目の前に降り立った。
「なんだこの美しさは……! 体の細胞が、彼女を賛美しろと囁いている……!? そんな君はァァァァ!?」
「我は天空の化身フロウティフォン! 森羅万象全てを掌握せし、蒼空の絶対者ッ!!!」
「イカれている……! そう、言いたいところだが、僕の体を流れる血がそれをただの見栄だと言っていない……!」
ライドは無意識にルピスとシュガリスを庇うような位置に動いていた。
しかしライドのこめかみに一筋の汗が流れる。ここで一戦交えるようなことがあれば、ルピスたちを守りきれるかどうか、自信がなかったからだ。
じっと見守っていたフロウティフォンはしなやかな人差し指をライドへ向けた。
「お主、我と共に生きぬか? お主など一瞬で粉微塵に出来るが、その力は惜しい。特別に我に仕える権利をやろう」
フロウティフォンはそんなことを口にした。
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