メインヒロイン面した謎の美少女ごっこ 1




「こんばんは。レッカ」


 ──思い返せばいろいろあった。


 それはもう、目まぐるしい程のイベントの数々が、眼前にいるこの少年と自分の周囲で、嵐のように飛び交っていた。

 様々な事情を抱えた一癖も二癖もある美少女たちや、創作からそのまま飛び出してきたようなコッテコテの悪役共であったり、とにかくこちらを暇させない連中がたくさんいた。

 彼ら彼女らに振り回されてこんなにも数多くの死線とラブコメを渡り歩いた男子高校生は、この世に俺と“彼"の二人をおいて他にはいないだろう。

 レッカ・ファイアという少年──親友は巨悪を打倒し救世の英雄になり、俺は世界中の悪い奴らから命を狙われる犯罪者と化したり、分裂したり異世界へ行ったり敵も仲間も自分の立場さえも右往左往の二転三転を続けてきた。


 けれどやはりコレは、俺とアイツの二人から始まった物語だ。

 だから結局何があろうと最後にはここへ収束する。

 レッカと俺は、他に誰もいない高層ビルの屋上に立ち、二人で向かい合っていた。

 これが俺にとっての正真正銘、最後の美少女ごっこになるだろう。


「私たちもそろそろ──エンディングへ入ろう」

「……あぁ、コク」


 ここまでの経緯は簡単だ。

 また、俺たち二人は非日常に巻き込まれた。

 本当にただ、それだけの事である。

 俺がとある少女から告白をされたり、発破をかけられたり、長い事停滞していた互いの関係性を整理し直して一歩先へ進んだのと同じように、親友で主人公で元ハーレムの中心だったレッカにも、ここへ訪れるまでに様々なドラマがあったに違いない。

 だがそれは二の次で、本題ではない。

 世界の事も仲間たちとの恋路の行方も関係ない。

 ここで行うのは、数々のイベントに巻き込んできた悪役共や忙しない青春に緩急を与え続けてくれたあの少女たちの事でもなく──俺たち二人の話だ。

  

 ここで決着をつけるために、俺たちはこうして向かい合っている。


「……とりあえず寒すぎるからコンビニいこ」

「えっ。……う、うん」


 だがクリスマスを迎えた深夜の外は極寒の一言であり、寒さに屈した俺たちはシリアスか空気を保つことが出来ずそそくさと屋上を降りて付近のコンビニへと向かうのであった。さむい。



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