誕生祭開幕

 アル・デ・バランに滞在して数日、ついにその日が来たんだ。


 街中に響き渡るトランペットのファンファーレに、僕たちは圧倒されてしまう。


 はなちゃんに至ってはこの音でビックリしちゃったのか暴れそうになってたから、咄嗟に僕が落ち着かせた。


「始まったんだね!」

「ええ、国王陛下の誕生祭開幕ですわ!」


 ロゼちゃんの言う通り、国王陛下の誕生祭が今始まったんだ!



 お祭りは街全体で開催されて、あちこちでいろんな催し物が開かれている。


 サーカス団のショーだったり見たことのない物の即売会だったり、とにかく盛りだくさんみたい。


 だけど僕とはなちゃんにはやることがある、というか直前になって命じられちゃったんだ。


「はーい、みんな押さないでくださいね~」

「ちゃんと並べよ~!」


 ルナちゃんとワイツ君が押し寄せる子供たちを整列させようと頑張ってくれている。


 この子たちの目当ては他でもない、ゾウのはなちゃんなんだ。


「わー! おっきい!!」

「こんなのみるのはじめて~!」


 アル・デ・バランの子供たちもゾウを見るのは初めてみたいで、みんな目をキラキラと輝かせている。


 うんうん、分かるよその気持ち。だって僕も前世で初めてゾウを見たときはこんな感じだったはずだから。


 広場ではなちゃんの隣に立つ僕は、そんなことを思い出してにんまり笑顔。


 もちろん突っ立ってるだけじゃ来てくれた子供たちも飽きちゃうだろうから、即興で簡単な芸もやってみることにした。


「はなちゃん、お座り」

「パオ」


 僕の指示ではなちゃんが巨大な身体でお座りをすると、チビッ子たちが揃って歓声をあげる。


 言葉が分かるはなちゃんには朝飯前のことなんだけど、ここにいる子たちにはそれがビックリすることなんだろうな~。


「はなちゃん、鼻っ」

「パオ」


 続いてはなちゃんのお手ならぬ鼻タッチ。


「伏せ」


 指示ではなちゃんが伏せたところで僕がその巨体に足をかけると、はなちゃんが前脚で僕を背中に押し上げてくれる。


 それからはなちゃんが立ち上がると、溢れんばかりの歓声が。


「わ~すごーい!!」


「すげ~!」


 こうしてみると僕まで人気者になった気分だよ。


「ねーみんな~! はなちゃんに乗ってみたい~!?」

「「「乗りたぁ~い!!」」」

「それじゃあ乗りたい子は手を挙げてね~!」

「はーーい!!」

「はいはーい!!」


 チビッ子たちみんなが元気よく手を挙げるものだから、どの子を乗せて上げようか迷っちゃうよ。


 とりあえず適当にっと。


「それじゃあまずは髪を一つに結んだ真ん中の女の子!」

「わーい!!」


 ポニーテールの女の子を指名すると、ルナちゃんの誘導で前に出たその子は飛び上がって喜んだ。


 はなちゃんが伏せたところで、僕は一旦降りてその女の子に名前を聞く。


「お名前は?」

「ユーミ!」

「ユーミちゃんかあ、可愛いお名前だね」

「えへへ」


 こうして小さい子と接していると、僕もなんだかお兄さんになったみたいに思えるよ。


「それじゃあユーミちゃん、まずははなちゃんに触ってみる?」

「え、いいの? ……こわくない?」

「はなちゃんはとっても優しいから大丈夫だよ」


 にっこり微笑む僕の言葉で、ユーミちゃんがはなちゃんのお腹に手を触れる。


「わー、おもったよりかた~い! それにしわくちゃ!」

「そうだね。じゃあ早速はなちゃんに乗ってみようか」

「うん!」


 先にはなちゃんに乗った僕が上から手を差しのべて、ルナちゃんが下からユーミちゃんを支える。


 それから僕がその手を引くと、ユーミちゃんもはなちゃんの背中にちょこんと乗っかった。


「はなちゃん、立っていいよ」

「プオ!」


 ゆっくりとはなちゃんが立ち上がると、ユーミちゃんも歓声をあげる。


「わーたっか~い!」

「それじゃあこの噴水を一周するね。しっかり掴まっててねユーミちゃん」

「うん!」


 そしてはなちゃんに噴水の周りを一周してもらったところで、ユーミちゃんを下ろして再び乗りたい子を募った。


 するといるわいるわ、集まった子たちみんなが手を挙げるものだから結局全員を順番に乗せてあげることに。


「すげー人気だな、あいつら」

「はい。あの二人なら当然ですよね」


 ワイツ君とルナちゃんもなんか嬉しそうだよ。


 最後の子を乗せてあげたときのことだった、突然はなちゃんが足を止めてしまう。


「ブロロロロロロ……」

「あれ、どうしたのはなちゃん?」


 進むよう指示してもはなちゃんはなぜか言うことを聞かない。


 大きな耳もパタパタとはためかせて、何かを警戒しているようだった。


 それからはなちゃんがしゃがんでその子を下ろすと、僕を乗せたまま街の外側へと歩みを進め始める。


「おいおい、どうしたんだ?」

「なんか様子がおかしいです~!」


 ワイツ君とルナちゃんを置いてきぼりにして僕が連れてこられたのは、街の入口付近。


「ブロロロロロロ……パオ!」

「え、なになに!? ……何あれ!!」


 足を止めたはなちゃんの上で空を見上げた僕は絶句してしまった。



 ――おびただしい数の魔物たちが宙を浮いてアル・デ・バランの街に迫っていたんだ!

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