セレナさんの仕事仲間との出会い
翌朝起きてテントの外に出ると、消火して炭だけになった焚き火の前で騎士の男の人が座っているのが目に写った。
「よう坊主。昨日はよく眠れたか?」
気さくに声をかけてくれた騎士の人に僕はうなづいて答える。
「はい。昨日は戦いの連続で疲れちゃったんですかね、すぐに眠っちゃいましたよ」
「そうかそうか」
ニコニコする騎士の人に頭をなでられて、僕はちょっとこそばゆくなった。
「ちょっと~やめてくださいよ~」
「たはは。なかなか可愛い顔してるじゃねえか」
「そういえば、えーとお名前は?」
「ハンスだ」
名前を教えてくれた騎士のハンスさんに、僕は質問をする。
「ハンスさん、焚き火の前で何をやってたんですか?」
「俺か? 夜の間に魔物とか猛獣が来たらいけないから、騎士団のみんなで交代しながら見張りをしてたんだ」
「そうだったんですか……!」
僕が何も知らないで寝てる間に騎士団の皆さんが見張りをしてくれてたなんて。
それを知ったら申し訳なさで胸が一杯になったんだ。
「ごめんなさい!」
頭を下げた僕に、ハンスさんはキョトンとした顔。
「どうしたんだいきなり?」
「だって騎士団の皆さんが眠いのを我慢して見張りをしてくれてたんですよね! そうとも知らずに僕はぐっすりと……!」
そう言いかけた僕の頭に、ハンスさんのゴツゴツとした手が置かれる。
「気にすんなって。子供は夜寝てるもんだろ? それに弱い者のために身体を張るのが騎士の仕事なんだ、お前が気にすることなんかねーって」
「ハンスさん……!」
これが騎士の誇りなんだ……!
それを知った僕にはハンスさんが後光を放っているように見えた。
「ん……、ユウキか。おまえ起きるの早えーなあ」
「あ、ワイツ君。おはよう」
少し遅れてテントから出てきたワイツ君に、僕は朝の挨拶をする。
「よう、騎士団長の坊っちゃん。昨日はよく眠れたか?」
「もちろんだぜ! 今日もこれからすぐに出発できるぜオレは」
「気合い十分だな。子供ながら頼もしいぜ」
お互いに笑い合うワイツ君とハンスさん。
なんかいいな、ああいう関係。
そんなことを感じてたら、後ろからトントンと肩を叩かれる。
「あ、はなちゃん。おはよう」
「パオ」
僕の背後からやってきたのははなちゃんだった。
あの巨体なのに全然足音がしないから気づかないんだよ。
お腹を見ると少し膨れているところから、今までの間に少しでも腹ごしらえを済ませてくれてたようで。
そうしてみんなが起きたところで、僕たちは簡単な朝食を取ってからまた出発することにしたんだ。
今回は魔物の邪魔もなく順調に進んで、お昼頃には中継地のヒアデス村に到着した。
僕たちの村よりもかなり大きい村なのか、畑も住居も規模が倍以上だよ。
それに村の中央には巨大な木がドン!と生えている。
領主様が出るなり、ヒアデス村の皆さんが僕たちを歓迎してくれた。
この人たち、みんな耳が尖ってるなあ。
「これはこれは領主様、ここまでの長旅お疲れ様です」
「その心遣い、感謝するぞ」
領主様の前でペコペコするお婆さんは、このヒアデス村の長老さんなんだって。
伸びきった白髪で顔が全部隠れてるけど、笹の葉みたいに尖った耳が目立つ。
「もしかしてあれがエルフなの?」
「正確にはエルフの血が入った人間ですわ。純粋なエルフは滅多に見られませんが、人間との間で多く結ばれているみたいですの」
そんな事情があるんだね、ロゼちゃん。
そんな長老たちに案内されたのは、巨大な木の根元に構える長老さんの家だった。
ここまで来る間にもはなちゃんを目撃した村の人たちがビックリ仰天してたのはいつもの話。
ふと木造の家に寄りかかる見覚えのある女の人の姿を見つける。
「もしかしてあれって……。おーい、セレナさ~ん!」
「あーっ、ゆー君だあ!」
気づいたセレナさんが駆けつけるなり、はなちゃんから降りた僕をむぎゅーっと抱きしめた。
うぷっ、セレナさんのおっぱいが顔に……。
「思ったより早かったね! どう、怪我はしてない?」
「は、はい。僕たちは大丈夫です……」
だけど大きなおっぱいで息が詰まりそう……!
「お姉ちゃん、ユウキくんが苦しそうにしてますよ」
「ブロロロ……」
ルナちゃんとはなちゃんにジト目を向けられて、セレナさんは僕を放してくれた。
「あはは、ごめんごめん。思ったより早く再会できたからつい嬉しくって」
「それもそうですよ。だってお姉ちゃん、先に王都に行くって言ってませんでした?」
ルナちゃんの問いかけに、セレナさんはため息混じりに説明する。
「お姉ちゃんもそのつもりだったんだけどね、通りかかったこのヒアデス村で思わぬ用事ができちゃって」
「そうだったんですね」
「それに今回の用事はきっとはなちゃんの力が必要だったから、それもかねて待ってたんだ」
そうだったんだ。はなちゃんの力が必要だなんて、どんな用事なんだろう?
そんなことを疑問に思っていたら、金髪を逆立てた男の人が横から割り込んでルナちゃんをにらみつけた。
「――よう、お前がセレナの可愛い可愛い妹って奴か?」
「ひっ!? ……この人は?」
「ちょっと、妹が怖がってるでしょアッシュ」
腰にすがるルナちゃんを庇うセレナさんが、アッシュと呼んだ男の人をたしなめる。
「ほらほら、そんないたいけな女の子を怖がらせちゃ駄目っすよ」
「そうだルン、大人げないルン」
そこへやってきた顔の半分を包帯で隠した男の人と魔女みたいなとんがり帽子を被った小柄な女の人の二人に注意されて、逆立て金髪の男の人が舌打ちをした。
「ちっ、悪かったな大人げなくてよお」
「……お姉ちゃん、この人たちは?」
「そういえばルナは会うの初めてだったね。こいつがアッシュで、こっちがクーガとラルン。お姉ちゃんの仕事仲間だよ」
なるほど、金髪の男の人がアッシュで包帯の人がクーガ、とんがり帽子の人がラルンだね。
そんなことを思っていたらアッシュさんの目がギロりとこっちを向く。
「お前がユウキか。セレナが妹の次によく話に出していたが、まさかこんなチビスケとはな」
「ち、ちびって……」
あんまりな物言いに戸惑う僕に代わって反論したのはセレナさんとはなちゃん。
「ちょっとアッシュ、ユウキくんまでバカにする気!?」
「パオオ!!」
「わわっ!? そ、そんなんじゃねーよ。ったくそんなデカブツ連れてるなんて聞いてねーって!」
セレナさんとはなちゃんの気迫にアッシュさんもバツが悪そうに逆立った金髪頭をかきむしる。
そんな険悪なムードに介入したのは、なんとロゼちゃんだった。
「まあまあ、みなちゃま落ち着いてくださいまし。ここは仲良くですわ」
「あんたは確か……」
「ローゼンメイル・フローラル・プレアデスですわ。以後お見知りおきを」
ドレスの裾をつまんで挨拶をするロゼちゃんに、アッシュさんたちも目を丸くする。
「プレアデスってまさか……!」
「もしかしなくてもプレアデス領主の娘さんっす」
「まさかこんなところで会うとはルン」
この人たちの反応を見るに、ロゼちゃんってやっぱり身分の高い女の子なんだと思うよ……。
「皆様こんなところではあれですので、皆さんこちらへ」
長老さんの計らいで、僕たちは長老さんの家にお邪魔することになった。
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