僕とゾウの王国漫遊記
ゾウがお好きなお嬢様!
アルキオネタウンに行こう
異世界に来てから早二ヶ月、僕はまたアトラスシティーの冒険者ギルドに顔を出すようになっていた。
この前シーフゲッコーの
なんていうか僕のことをひよっこから同じ冒険者として対等に見るようになったって感じ。
「よう坊主、今日も頑張れよっ」
「俺もそのデカい獣と触れあいたいぜ」
「あはは、ありがとうございます。はなちゃんとはそのうちにね」
声をかけてくれる冒険者のおじさんたちに返事をしてから、僕はギルドの掲示板に向かう。
この大きな掲示板を埋め尽くすように依頼の紙が貼り出されてるんだけど、今日はどれにしようかな~。
指差しで依頼の紙を選ぼうとすると、後ろから声をかけられる。
「ユウキ様ユウキ様」
「あ、コレットさん。こんにちは」
声をかけたのはOLみたいなスーツとクラシックなメイド服を足して二で割ったような制服を着た受付嬢のコレットさんだ。
「先日はお疲れ様です。危険要因だったシーフゲッコーの女王個体を討伐していただいたことで、ギルドマスターの評価も上がっておりますよ」
「そうなんですね」
嬉しそうに話すコレットさんに、僕は嬉しいような照れ臭いような心地になる。
何気に美人で可愛いコレットさんは冒険者のみんなから人気が高いけど、最近は僕をよく気にかけてくれるんだ。
そのせいかたまにじとーっとした目を冒険者の人たちから向けられるけど、気にしなくてもいいよね……?
「突然なのですが、ユウキ様個人にプレアデス領の領主様が招待を出されたのです」
「領主様?」
領主って、領土を治める偉い人のことだよね、そんな方が僕なんかに何の依頼だろう?
「はい。実は領主様の娘様がはなちゃん様に会いたいとのことなのですが」
「そうなんですね」
「受けてくださるでしょうか?」
コレットさんからの問いに、僕は快く首を縦に振った。
「もちろんですよコレットさん。僕たちにできることならなんでもしますから」
「ありがとうございます」
笑顔で穏やかに手を振るコレットさんに見送られて、僕はギルドを出る。
ゾウのはなちゃんの背中で揺られながら、僕は村への道をたどっていた。
「偉い人がはなちゃんに会いたいんだって」
「パオ?」
その頭をさすりながら僕が語りかけると、はなちゃんは不思議そうに首をかしげる。
「うん、この辺りで一番偉い人。だから失礼のないようにしないとだよ」
「プオン」
任せて、といった感じで鼻を高々と上げるはなちゃんに、僕はなんだか微笑ましく思えた。
その大きな背中に揺られることしばらく、僕たちはおうちに到着する。
「ただいま」
「おかえりなさい、ユウキくんっ」
扉を開けるなりルナちゃんがにっこり笑顔で迎えてくれた。
この世界で初めてできた友達、これからも大事にしたいと思う。
それから彼女を連れて部屋に入ると、僕はさっきのことを話すことにした。
「ねえルナちゃん。僕ね、領主様に招待されたんだ~」
「りょ、領主様ですか!?」
領主様と聞くなり、ルナちゃんはすみれ色の瞳を大きく見開く。
気のせいか二つに結んだ金髪もビクッ!って反応したように見えたんだけど。
「うん。ルナちゃんって領主様がどんな人か知ってる?」
「えーと、プレアデスのみんなのことをとてもよく考えてくれる、優しい領主様だとお父さんから聞いてますが……」
「そっか。それは良かったよ。もしとんでもない独裁者とかだったら僕も困ってたからね」
まあこの村の平和さを考えれば、領主が独裁者だなんてことはあり得ないと思う。
「それでユウキくん、領主様にはいつお会いするんですか?」
「明日かな。でもすぐ帰ってくると思うから心配しないでね」
「そうですね。やっぱりユウキくんってすごいです」
「そうかなあ?」
ルナちゃんの言葉に僕はついはにかんでしまった。
本当にすごいのははなちゃんだと思うけどね。
翌日、僕とはなちゃんは領主様のお屋敷があるっていうアルキオネタウンへ向かうことにした。
アルキオネタウンはアトラスシティーとは逆で東にあるんだって。
「アルキオネタウンかあ、どんなところだろうねはなちゃんっ」
「パオ」
僕の何気ない問いかけにもはなちゃんは返事をしてくれる。
小鳥がさえずりそよ風が吹くのどかな平原の道をしばらく歩いていたら、突然はなちゃんが足を止めた。
「どうしたの、はなちゃん?」
「ブロロロ……」
この重低音の唸り声、何かを警戒してる時のだよね。
長い鼻も空に掲げて、匂いを探ろうとして入る。
僕も正面を見通してみると、十字の交差点で馬車が複数の空飛ぶ大きなトカゲみたいなのに襲われているのが目に飛び込んだ。
「はなちゃん、助けに行こう!」
「パオ!」
唐突かもしれない僕の号令にもはなちゃんはすぐに応えて、襲われている馬車へ足を速める。
近くまで寄ると、兵隊さんが槍とか剣を振り回して空飛ぶトカゲを牽制している。
だけど空飛ぶトカゲたちは、兵隊さんたちを嘲笑うようにヒラリヒラリと攻撃をかわして火を吹いていた。
ああいう翼があって脚が二本のやつをワイバーンって言うんだったっけ。
額に例の結晶もついているし、魔物と見て間違いない。
「はなちゃん、ストーン・ショットだよ!」
「パオーン!」
僕が呪文を唱えると、はなちゃんの鼻から石礫の弾丸が次々と放たれる。
「ヒュゴオオオ!?」
石礫が命中したワイバーンは、皮膜の翼が破れて地面に落下した。
「なんだかよく分からんが助太刀助かる! 皆のもの、あの巨獣に続けぇ!!」
そう感謝した白い虎のような顔をした人が兵隊さんに指示を出して、地面に落ちたワイバーンを袋叩きにする。
するとワイバーンのうち何頭かがこっちに向かってきた!
「ヒュゴオオオ!!」
突風の音を思わせる咆哮と共に飛んでくるワイバーンたち、だけど前に戦ったファットドラゴンのグラタンとシーフゲッコーの女王に比べたら全然怖くない。
「はなちゃん! ブレスブリザード!!」
「ズオオオオオ!!」
次なる魔法を唱えてはなちゃんの鼻から吹き出した吹雪のような冷気で、ワイバーンたちはたちまち凍りついて、それをはなちゃんがたくましい鼻で叩き落とした。
「さすがだ!」
「我々も負けてはいられんぞ!」
はなちゃんの奮闘で兵隊さんたちの士気が上がったのか、ワイバーンたちはたちまち一掃されたんだ。
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