第21話 カエデとメイラン

 ガルムさんの依頼を受けて、俺達の旅は護衛任務から始まった。

 王国から出るまでは馬車の横を歩いていたが、ガルムさんに自分は索敵スキル持ちなので敵が来たらすぐ分かります、と伝えて御者席の端に座らせてもらった。

 カエデはいつでも動けるように荷台の後ろ側で座って、何も無い間は足をブラブラさせながらメイランと世間話をしている。

 シェミィは馬車の後ろより付いてきてくれている、何故後ろ側なのかというと馬車を引く馬がビビってしまうからだそうだ……後で撫でてやるからなシェミィ。

 王国からテラー大森林に入る迄の街道に魔物は殆ど現れない、王国に居る冒険者達が毎日駆逐している為だ、なので魔物退治は森に入ってからがスタートになる。

 しかし、魔物ってなんであんなに現れるんだろうな?何処かで繁殖していたり?自然と湧いて出てきたり?ダンジョンがあってそこから出てきているとか?よく分からないな……1回聞いてみるか。


「ガルムさん、この世界にもやはりダンジョンがあったりするんですか?」

「えぇ、ありますよ。このテラー大森林にはありませんが、この森の北側に見える山脈にはダンジョンがありますね。サンビークから北に向かい、山脈を少し登った所に洞窟型のダンジョンがあります。攻略するだけではなく、山脈の反対側へ抜ける道もあるのだとか。ダンジョンに居る魔物は強い、私達商人にはリスクが大きいので使う事はありませんね」


 なるほど、反対側へ抜ける事が出来るのか。

 カエデの見た夢では、あのドラゴンは山脈から北東へ飛び去ったらしい。

 山脈は東へ真っ直ぐ伸びている、要するに山脈の反対側の更に東側へ向かったって事だ。

 もし俺達の強さでダンジョンを抜けられるなら、そこを通るのはありかもしれない。

 通れないとしてもサンビークより更に東へ行けば山脈の端に辿り着くので回っていける、サンビークに着いたら調べてみよう。

 おっと、聞きたい情報から脱線してしまった、有益な情報を聞けたので意識がそっちに行ってしまった、魔物の話に戻そう。


「なら、そのダンジョンから魔物が出てきたり溢れてきたりは……?」

「数十年に数回程スタンピードが起こることがありまして、その時の要因としてダンジョンから魔物が溢れ出る、とかはありますね。普段からも多くはないですが魔物が出入りする事はあります」


 スタンピード、確か魔物の大軍が溢れかえって押し寄せてくる現象だったよな……

 可能ならスタンピードに出会うこと無く暮らしたいものだ。


「あっ!ガルムさん、索敵に反応あったのでスピードを緩めてください。カエデ!進路方向の右手側から何かが来るぞ!反応は3つだ!」

「了解ご主人様!シェミィ行くよ!」

「にゃう!」


 機動力のあるカエデとシェミィに迎撃へ出てもらい、俺は周囲の監視と馬車の護衛に残って、2人が大変そうなら魔法で援助する布陣だ。

 遠くからみた感じウルフか。


 ウルフ?もふもふ……?


 そう言えばカエデのテイムってスキルとして手に入れたんだろうか?能力としてなら無理かもしれないが、スキルなら俺にも使えるのでは?

 そうすれば魔物であってももふもふを堪能出来るのでは!?

 いかん、欲望が溢れてきた。

 そんな事考えているとカエデとシェミィが一瞬でウルフを仕留めて帰ってきた、シェミィは爪で引っ掻いたり、爪に風を纏わせて攻撃したりと、俺の風魔法と似たような使い方をしている。


「ただいまご主人様」

「にゃーう」

「お、おぅおかえり」

「??ご主人様どうかした?」

「いや、カエデのテイムってスキルで手に入ったのか?能力なのか?」

「スキルよ、それがどうし……あっ、まさかご主人様もテイム出来るんじゃ?」


 スキルなら俺も使えそうだな!ただやり方が従順テイムなら教えてもらったが通常のテイムのやり方を調べるのを忘れていた、テイム出来る数が分からないから従順テイムは手軽に使うものじゃないと思っている。


「そう思ったんだが、普通のテイムのやり方調べるの忘れてたな」

「あ、確かに忘れてたね。次の街に着いたら調べようよ」

「そうだな、さっきのウルフもテイムしてもふもふ出来るんじゃないかと少し思っただけだから……」

「ご主人様らしくていいね」


 こうして馬車に揺られ、昼食や休憩を挟みながら進む。

 魔物が出てきたら倒してを繰り返し、日が落ちかけてきたので夜営の準備に取り掛かる。

 森を抜けるのに2日掛かるらしい、今日と明日夜営して昼頃森から抜ける予定だ。

 ガルムさんや奴隷達は馬車の荷台で寝るらしいので、自分達はテントを張って目の前で火を焚いた。

 この火を使い簡単な夕飯を作って食べる、串に肉を付けて焚火で焼くだけだが美味い。

 シェミィもこの肉を食べている、元が魔物なだけあって肉食だ。

 夕食を食べ終わったらもう寝るだけ、森に住む魔物達は火を恐れるとガルムさんから教わっているが、念の為俺とカエデの2人で交代の見張りをする事にした。


「カエデ、3時間交代で交互に寝るから、寝る時間はなるべくしっかり寝るんだぞ」

「分かった!」

「まずは先にどっちが寝るかだが……」

「ねぇ、ちょっと良いかしら?」


 交代について話し合っているとメイランがこっちにやって来た。


「あっ、メイランちゃん!どうしたの?」

「眠れないから少し話せたらと思ったのよ、大丈夫かしら?」

「そうか、それなら先に俺が寝るから見張り交代の間に話してるといい」

「いいの?ありがとうご主人様!」

「あぁ、ゆっくり話すといいさ。3時間を知らせてくれる魔道具もあるから、それが鳴るまで寝るよ。もし魔物が寄ってきたりしたら起こしてくれても良いからな」

「分かった、おやすみなさいご主人様!」

「あぁおやすみ」


 俺はテントに入り寝袋に包まれて眠りについた。

 シェミィはテントの外で寝るようだ。


 ーーーカエデsideーーー


 私とメイランちゃんは、テントをバックに焚火の前に座ってガールズトークする事にした。


「カエデの主人は優しいわね」

「強くて優しくて、私を奴隷ではなく1人の人として見てくれる、そしてずっと一緒に居ることも誓ってくれた、大事なご主人様!」

「あら、もうそこまで進んだの?」

「まだ忠誠を誓っただけで、それらしい事はしてないけどね」


 ご主人様は私を大事にしてくれるから、それに旅をするのだから妊娠なんて御法度。


「良い主人に恵まれて羨ましいわね、私も良い人に巡り会いたいんだけど……王子様とか来たりしないかしら?」


 王子様とか言っちゃうタイプなんだ、憧れるのは分かるけどね。


「きっと会えるよ!なんなら私のご主人様はどう?奴隷として扱わずに対等に接してくれるよ!」

「そうねぇ、確かに容姿も良くて奴隷と扱わないのは理想ではあるけれど、カエデの主人だから少し遠慮しちゃうわね……本人が欲しがれば別だけど、自分からは行かないわ」

「私は気にしないけど……」


 メイランちゃんも私のように良い人に貰われて欲しい……そう願ってる、その為ならご主人様でも私は構わない。

 まぁあのガルムさんだから変な奴に売り渡す人ではないと思うけどね。

 こうしてガールズトークに花を開かせているとメイランちゃんがうつらうつらし始めた。


「カエデごめんない、眠気が来たみたいだわ……」

「気にしなくていいよ、交代の時間まではまだもう少しあるけど、楽しかったよ!ありがとう!」

「こちらこそ、楽しかったわ。おやすみなさいカエデ」

「おやすみメイランちゃん!」


 メイランちゃんが馬車の荷台に帰っていき、私も見張りしながらゆっくりとした時間を過ごす。

 暫くするとテントの中でピピピッと音が鳴った、あれが魔道具の音かな?と思っているとご主人様が出てきた、3時間経ったみたい。



 ーーーコウガsideーーー



「カエデ見張りありがとう、どうだった?」

「敵も来てないし問題ないよ、メイランちゃんと暫く話してたけどちゃんと寝たし、退屈しなかったから大丈夫!」

「そうか、良かった。カエデも3時間ゆっくり休んでてくれ」

「ありがとご主人様、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 カエデがテントの中に入っていくのを確認して焚火の前に座る。

 シェミィもしっかり寝ているし、明日も問題なく動ける体調でいけるだろう。

 索敵をしながらのんびり過ごして、退屈になれば変身してナイフを振って軽く身体を動かす。

 1番やばいのは眠くて見張り中に寝てしまう事だからな、眠くなったり退屈なら少しだけ身体を動かす事にしたのだ。

 のんびりする時間と鍛錬の時間を繰り返している内に交代となり、それを朝まで繰り返した。



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