墓場の王
第一話 十年の月日
小高い丘に生えたひと際大きな木の上。
長い黒髪をたなびかせた青年は、遠くに広がる風景を眺めている。
眼下には美しい自然が広がり、空気も澄んでいる。ほのかな緑の香りにつつまれながらも、遠くには帝都の美しい街並み……人の営みが見える。見上げた空はどこまでも蒼く、白い雲を従えてどこまでも広がっていく。
なによりここには人がめったに訪れない。静かに過ごすにはいい場所だ。だからこそこの場所は、青年にとっての一番のお気に入りスポットだった。
そして青年は一人たたずんでいる。
「さて。いきますか」
フライの魔法を使って、蒼天の空に飛び立つのだった。
***
あれから十年。
帝国は大きく変わった。
厳格な法の施行。法にのっとった裁判。腐敗し犯罪に手を染めたものは貴族であろうと処罰された。逆に平民であっても有能であればどんどん取り立てられた。
能力と順法意識、そして忠誠心があれば、どこまでも出世できる。例えば新に創設された第七騎士団と第八騎士団。そのトップである将軍はともに平民である。
農業改革・街道治安・公衆衛生。租税一律化。改革を上げればきりはない。
少なくとも帝国でまじめに働けば飢えることはない。
そして余力もでき、収穫時期を狙って王国に戦争をしかけ、疲弊させる作戦も大々的にすすめている。
では、有能なものしか生きられないのか? といえばそうではない。
当初ジルクニフは無能ものをすべて排除しようとした。だが、それに待ったをかけたのはペロロンチーノであった。
「無能でも順法意識があり多少の忠誠心があるなら残すべきだ。かれらは経済という視点でみれば消費者なのだから。例えば料理人が生産者から食材を買い料理を提供したとしても、消費者がいないと成り立たない。あとは賢いジルならわかるだろ。ああ、もちろん執政の足り場のモノに無能を残せなんていわないよ。でも手数が必要な分野というものは存在するはずだ。そうしないとジルの仕事が増えすぎて剥げるぜ」
もちろん半分はペロロンチーノなりの詭弁も大いに含んでいる。すでに多くの血が流れている。ペロロンチーノ自身も相応の血を流した。だが、無能というだけで死ぬのはさすがにペロロンチーノの矜持からNOといったのだ。
「おまえに諭されるとはな」
ジルクニフは笑いながらそんな言葉を残し、政策の変更を行うのであった。
とはいえ、国力(経済、軍事、文化、資源、領土、人口)という観点でいえば、人口は五十%アップ。経済は百%アップ。軍事も四十%アップという文句なしの成長である。
「まったく……。ジルの手腕は、
ペロロンチーノは、そんなことをつぶやきながら、街角で串焼きを買いぱくつく。
十年前も十分においしかったが、最近では食材の味の上昇、下処理といったことにまで技術がおいついてきたのだろうか、いまではしっかり肉を食べているという感じを楽しめるようになった。
そんなことを考えながら帝城の門をくぐるのであった。
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