第15話 時計の城

 観光用に改装された封建領主の城。

 私の血は城とともにあり、私の時計店は城の奥で時を刻む。

 店外に足音が響く。

 チック、タック、チック、タック

 廊下の敷石を叩く客人の靴。


「時計を動かしたくて」

 古なじみの女客だ。

「良いのかね?」

「ええ」

 懐中時計を受け取って裏板を開き、歯車をはめ直した。

 客が耳に刺していた竜頭を差し出す。

 彼女の耳朶を咬んだあの夜の血の薫りを私は想う。


 嗚呼、貴女も逝くのだね。


 慨嘆を胸に竜頭を刺して回せば、

 チック、タック、チック、タック

 時計の針が目を覚ました。

 女の立っていた場所には、いまや灰が積もるばかり。

 灰を掬い化粧箱に詰めた。

 動き出した時計を店頭に並べ、私は彼女の柩を城の奥津城に納めにゆく。

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