第12話 春の雨
西の国を
夢見るは古い書物にありし
西の国の端、石の街の民に問へば、
春の女神の
北を見遣れば砂の原に一筋の窪み。
広々としたその窪みに禁忌ありて、
春祭の日より後歩くことならずと。
犬狼とともに旅せしは幾月なりや。
雷光切り裂く北の空、黒々と陰り、
風は微かに雨の香りを帯びて湿る。
つねの如く旅の枕に疲れて眠れば、
犬狼が吠え、
苛立ちつつ藍深き星空を見遣れば、
牛追い星は去り、春告星が中天に。
遙か彼方に聞こゆるは白銀の囁き。
女神の僕たる精霊たちの声なき声。
さては今宵が春祭の夜と合点して、
夢淵にありて見るは懐かしき故郷。
亡き人、美しきことどもに涙流る。
まにま群れ人の靴音の如きを聞く。
夜明けの光に犬狼とともに醒むる。
日々喉を焼く乾涸らびた砂の風は、
こころなしか水を含んで柔らかく、
詩人の琴もかくやのせせらぎの音。
一夜にて女神の裳裾は輝く泥河に。
北へ、犬狼と歩む昼と夜。
女神の裳裾に緑萌える春。
嗚呼、
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